2022年基準地価から見通す不動産市場の動向
住宅地の全国平均が31年ぶりに上昇。商業地も3年ぶりにプラスに転じる
国土交通省が発表した2022年7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)のデータに基づき、コロナ禍からの回復を模索する不動産マーケットの状況を見ていきましょう。
まず住宅地ですが、全国平均が前年比プラス0.1%と、31年ぶりの上昇となりました。三大都市圏もプラス1.0%と、前年の横ばい(0.0%)から上昇に転じています。地方圏はマイナス0.2%と下落が続いていますが、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)はプラス6.6%と上昇し、上昇幅も前年より2.4ポイント拡大しています。
一方、商業地も全国平均でプラス0.5%と、前年のマイナス0.5%から3年ぶりにプラスに転じました。三大都市圏はプラス1.9%、地方4市は同6.9%といずれも10年連続で上昇し、上昇幅も拡大しています。
全国の地価の動きについて、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「住宅地、商業地とも全国平均での地価の上昇は、三大都市圏や地方中枢都市が引き上げている状況です。すべての地域で地価が底打ちしたというわけではなく、地方圏では引き続き下落している地域が多く見られ、地点によっては下落が加速しました。そうしたなかでもボールパークの整備が進む北海道の北広島市など、再開発が活発なエリアでは地価が大きく上昇する動きも見られます」
東京圏の住宅地は上昇幅が軒並み拡大。都心の商業地も2年ぶりに上昇
地域別に見ていくと、まず東京圏は住宅地がプラス1.2%となり、上昇幅が前年より1.1ポイント拡大しました。東京都区部は2.2%上昇し、なかでも区部都心部は3.1%の高い上昇率となっています。また、さいたま市が前年のマイナス0.1%からプラス2.2%の上昇に転じるなど、周辺3県も軒並み上昇幅が拡大しました。
一方、商業地も東京圏全体でプラス2.0%と、上昇幅が前年より1.9ポイント拡大しました。特に区部都心部やさいたま市が前年のマイナスからプラスに転じるなど、各エリアの中心部で上昇度合いが大きくなっています。
「コロナ禍で住宅ニーズが強まり、マンション価格が高騰しているため、割安感の強い一戸建てにニーズがシフトする動きが見られます。特にさいたま市や市川市、浦安市など、周辺3県の中でも東京23区に近く、山手線にダイレクトにアクセスできる駅の周辺で高い上昇率となっています。都心部の商業地ではインバウンドの消失による下落が見られましたが、徐々に需要が回復し、上昇に転じる地点が目立ってきました」(髙橋さん)
大阪市、神戸市では地価上昇幅が拡大。京都市も上昇に反転
大阪圏の住宅地はプラス0.4%と、前年のマイナス0.3%から上昇に転じました。大阪市中心6区と神戸市東部4区はともにプラス1.9%と、前年より上昇幅が拡大しており、京都市中心5区は横ばいだった前年からプラス0.9%に転じています。
また、商業地も大阪圏全体でプラス1.5%と上昇に転じました。特に前年にマイナス3.0%と大きく下落した大阪市中心6区がプラス2.1%に転じるなど、中心部で上昇傾向が強まっています。
「大阪市、神戸市、京都市の中心部は再開発やマンション供給の活発化で地価上昇に力強さがありますが、上昇の動きが広範囲に広がるほどの勢いはありません。北摂や阪神エリア、堺市などは住宅ニーズが高まっていますが、その他のエリアでの地価の回復はまだ弱い状態です。商業地は京都市中心部が国内観光需要の回復で上昇率が高まっていますが、大阪市中心部はインバウンド需要への依存度が高かったミナミなどで地価の回復に遅れが見られます」(髙橋さん)
名古屋市は住宅地・商業地とも高い上昇率。福岡市も上昇率が拡大
名古屋圏は住宅地がプラス1.6%と前年比で上昇率が1.3ポイント拡大しており、名古屋市は3.1%の高い上昇率でした。商業地もプラス2.3%と上昇率が拡大し、名古屋市は4.4%の高い上昇率となっています。
「名古屋市ではリニア中央新幹線の開業を見込んで開発が活発になっており、名駅周辺から伏見、栄にかけてのエリアで商業施設やタワーマンションの建設が目立ちます。また自動車産業の業績が好調だったことから、尾張や西三河でも住宅需要が強まり、住宅地の地価上昇につながっています」(髙橋さん)
一方、福岡市は住宅地がプラス6.5%、商業地が同9.6%と、いずれも前年より上昇幅が拡大しました。なかでも博多区は住宅地が同10.4%、商業地が同11.3%と2ケタの上昇となっています。また住宅地では筑紫野市(同8.0%)や大野城市(同7.2%)なども高い上昇率です。
「福岡市では地下鉄七隈線の延伸などのインフラ整備、天神ビックバンや博多コネクティッドといった再開発プロジェクトが進められることにより、人口が集中するという好循環が生まれ、地価を押し上げています。さらに中心部でのマンション価格の高騰にともない、筑紫野市や大野城市など割安な周辺部で住宅ニーズが高まり、地価上昇が波及している状況です」(髙橋さん)
今回の基準地価が調査された2022年7月時点はコロナ禍の“第6波”が収束し、経済活動の再開へ向けて期待が高まっていた時期です。その後はコロナ禍“第7波”の拡大や円安による物価上昇などの影響で、景気の先行きには不透明感も広がっています。2023年以降の不動産市場はどのような展開が予測されるのでしょうか。
「建築コストが高騰しているなか、大都市の中心部ではマンション価格が下落する要因が見つからず、地価の上昇基調も当面続くと予測されます。近郊エリアも価格が上昇していますが、リモートワークの普及というよりも中心部のマンション価格が高騰し、予算に合う物件を求めて需要が周辺へシフトしている状況です。ただ、欧米ではインフレの進行で景気後退への懸念が強まっており、日本でも原材料価格の上昇で中小企業や飲食店の経営が圧迫されつつあるようです。2023年4月に日銀総裁が交替すると金融政策が見直されるとの観測もあり、地価やマンション価格が年後半も右肩上がりを続けるかどうかは予断を許しません」(髙橋さん)
今2023年の不動産市場は引き続き世界情勢や金融政策の影響が強まることになりそうです。
(データ提供:東京カンテイ)