2014年基準地価から読み解く不動産市場の現況
3大都市圏では上昇の動きが住宅地・商業地ともに強まる
国土交通省が発表した2014年7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)によると、全国では住宅地が前年比1.2%ダウン、商業地が同1.1%ダウンと下落が続く結果となりました。ただ、3大都市圏については住宅地が同0.5%アップ、商業地が同1.7%アップと上昇しています。
圏域別にみると住宅地では東京圏が前年比0.6%アップ、大阪圏が同0.1%アップと、ともに6年ぶりに上昇に転じました。名古屋圏は一足早く前年に上昇に転じていましたが、2014年はさらに上昇率が0.2%伸びて同0.9%アップとなっています。一方、商業地は3大都市圏とも前年から上昇に転じていますが、2014年は上昇率が伸びていずれも1%台でした。特に東京圏は同1.9%アップと高い上昇率となっています。
このように大都市圏で地価上昇の動きが強まっている状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の井出武氏は次のように解説してくれました。
「全国的には人口が減少に転じていますが、人口や世帯が増えている都市部では地価の根強い回復傾向がみられます。特にタワー物件を中心としたマンション開発が活発なエリアや、新線・新駅の開業で利便性が高まった地域では高い伸び率となっています」
東京圏ではオリンピック効果やリニア新幹線への期待も地価に影響
東京圏では住宅地のなかでも東京都区部が前年比1.9%アップと高い上昇率となっており、特に区部都心部では同3.5%となるなど、都心に近いエリアほど上昇率が伸びています。また横浜市(同1.7%アップ)や川崎市(同1.5%アップ)、さいたま市(同1.1%アップ)のように、地域の中心となる都市部での上昇が目立ちます。同様の動きは商業地ではさらに強まっており、区部都心部で同4.5%アップしたのをはじめ、東京都区部で同3.2%アップ、川崎市で同3.1%アップなど、高い上昇率の地域が目立ちました。
個別地点の動きをみると、2020年の東京オリンピック新設会場に近く、タワーマンションの分譲が活発化している東京都中央区勝どき駅周辺の住宅地が前年比10.8%アップしました。また地下鉄副都心線と東急東横線の相互乗り入れ効果により、東京都新宿区の新宿三丁目駅近くの商業地が同9.7%アップとなっています。
「副都心線と東急東横線の相互乗り入れにより、横浜市や埼玉県の和光市なども利便性が向上し、地価上昇につながっています。埼玉県では来年3月の北陸新幹線開業の影響もあり、大宮駅が東京圏の北の玄関口として重要度が増し、周辺の地価が上昇気味です。ほかにも都心部ではリニア新幹線の整備で開発の期待が膨らむ品川駅周辺や、駅前再開発が進む目黒駅周辺なども上昇傾向が強まっています」(井出氏)
再開発でマンション供給が活発な大阪圏の都市中心部で上昇が顕著
全体ではごくわずかな上昇にとどまった大阪圏の住宅地ですが、大阪市中心6区(北区、福島区、中央区、西区、天王寺区、浪速区)で前年比1.8%アップ、神戸市東部4区(東灘区、灘区、兵庫区、中央区)で同3.0%アップなど、都市中心部では上昇幅が比較的大きくなっています。市区町村別では芦屋市が同1.8%アップとなったほか、西宮市や茨木市も上昇率が1%を超えました。
一方、商業地では大阪市が同3.9%アップとなったほか、枚方市や池田市、吹田市も上昇率が3%台でした。特に大阪市中心6区の上昇率は6..0%と高く、京都市の中心5区(北区、上京区、左京区、中京区、下京区)も同3.1%の上昇となっています。「都市中心部は前年から上昇に転じる傾向がみられましたが、今回はさらに上昇幅が広がりつつあります。特に再開発などでマンション供給が活発化している地域で上昇の動きが顕著となっており、阪神間や北摂など住宅地として根強い人気のエリアも上昇しています」(井出氏)
円安効果で自動車産業が潤う名古屋圏では地価上昇幅が拡大
前年から地価が上昇に転じていた名古屋圏では、名古屋市で住宅地が前年比2.4%アップ、商業地が同3.1%アップと上昇率の伸びがみられます。特に商業地は名古屋駅東口の「名駅エリア」でハイグレードビルの建設が進んでおり、今後も再開発によってオフィスエリアとしての発展が期待され、地価を押し上げているようです。
ほかにも住宅地では日進市が同4.6%の高い上昇率となったほか、豊明市や大府市、長久手市などで上昇率が2%を超えました。また商業地でも日進市が同4.3%アップし、北名古屋市も3.0%の上昇率となっています。
「2013年以降は円安効果などで自動車産業の業績が回復したこともあり、愛知県内では地価の上昇傾向が強まっています。名古屋市内では千種区や東区、昭和区など、住宅地として人気の高い地域で特に上昇率の伸びが顕著です」(井出氏)
なお、九州圏においては福岡市の住宅地が同1.8%アップ、商業地が3.4%アップと、前年から上昇率がさらに伸びました。住宅地では中央区や早良区、商業地では博多区や早良区の上昇率が特に高くなっています。再開発やマンション供給の進むエリアでは、今後も地価上昇の動きが続きそうです。
このように都市中心部から地価上昇の動きが各地で広がりつつありますが、新築マンション市場では物件供給があまり活発でない状況が続きそうだと、井出氏は分析しています。
「人件費や建築資材などのコストアップから、新築マンションをリーズナブルな価格で分譲するのが難しい状態となっています。このところ円安で輸入資材が高騰しており、この状況が続くと2015年も供給が抑え気味となるでしょう。新築物件の不足を補う形で中古マンションの人気が高まり、物件価格の上昇傾向が強まることも考えられます」
住宅市場ではローン金利が超低水準を維持していますが、2015年は 消費税率の再引き上げも予定されており、今後の動向に注目したいところです。
(データ提供:東京カンテイ))