マンション市場の供給・価格動向と2020年の見通し
消費増税による様子見ムードが広がり、新築・中古とも戸数減
まず2019年までのマンション市場を概括してみましょう。首都圏では新築マンションの供給戸数が2015年から2018年まで4万戸台後半で推移していましたが、2019年は4万2734戸に減少しました。1都3県のいずれも前年より減少しましたが、特に東京都は4000戸以上の大幅な減少でした。平均坪単価は神奈川県を除いて上昇傾向となっており、東京都の平均は375.8万円となっています。
一方、中古マンションの流通件数はここ数年増加傾向が続いていましたが、2019年は5年ぶりに減少に転じました。1都3県のいずれも減少しており、なかでも東京都は1万7000件強の減少となっています。平均坪単価は1都3県とも上昇傾向が続いています。
首都圏のマンション市場の状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員・髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「新築マンションの供給戸数はリーマン・ショック後では最も少ない水準でした。価格高騰による供給調整は以前から続いていましたが、そこに2019年10月の消費税増税による様子見ムードと、夏から秋に発生した大型台風による影響が重なり、デベロッパーによる販売計画が後ろ倒しされた形です。市場の停滞ムードは中古マンション市場にも影響して流通件数が減少しましたが、売買は堅調で立地など条件のよい物件は売れ行きも好調です。新築・中古とも都心部を中心に引き続きニーズが高く、武蔵小杉でのタワーマンションの供給が一服した神奈川県以外では平均坪単価は上昇基調です」
大阪市や京都市ではマンション用地の取得難から新築供給が減少
近畿圏(大阪府、兵庫県、京都府)では新築マンションの供給戸数が2018年まで2年連続で増加しましたが、2019年は減少に転じ、過去10年間では2014年に次いで少ない1万8000戸強でした。大阪府は4年連続で増加していましたが、2019年は減少しています。平均坪単価も2府1県とも下落しており、特に京都府は前年比44.2万円の大きな下落となりました。
中古マンション流通件数も2018年まで3年連続で増加していましたが、2019年は減少に転じています。大阪府は前年比4400件強の減少でしたが、2年連続で10万件を超えました。平均坪単価は2府1県とも引き続き上昇が続いています。
「大阪府で新築マンションの供給が減少したのは、訪日外国人客の増加によるホテル需要の高まりなどにより、大阪市中心部でマンション用地の確保が困難になった影響が大きいでしょう。京都府も同様に、京都市の中心部で用地取得が難しくなり、富裕層向けの高額マンションの供給が減少しています。消費税増税により様子見ムードが広がったことも、新築供給や中古流通の減少につながったようです。新築の坪単価は全体としては高水準を維持していますが、大阪市中心部で用地難により駅近のタワー物件が供給されにくくなったことや、京都市中心部で富裕層向け物件の供給が減ったことから前年比ではやや下落となっています。一方で中古物件は値上がり期待が続いていることもあり、坪単価がゆるやかな上昇となりました」(髙橋さん)
愛知県・福岡県は単価上昇が続くも、愛知県では新築供給が鈍化
愛知県は新築マンションの供給がやや鈍化し、前年比で減少となりました。坪単価は3年連続の上昇となり、平均で214.0万円と過去最高の水準です。中古マンションの流通事例数は2年連続で減少しましたが、坪単価は上昇傾向が続いており、2019年は平均で99.4万円と100万円台が目前となっています。
一方、福岡県では新築マンションの供給増加が続いており、2019年は5818戸とここ10年間では2013年に次ぐ戸数になりました。坪単価も上昇傾向となっており、2019年は平均で180万円に迫る水準です。中古マンションの流通事例数は5万5000件を超えて過去最多となり、坪単価は上昇傾向が続いています。
「愛知県では以前は三河エリアなどでも新築マンションの供給が活発でしたが、リニア中央新幹線の開業が決まった2013年以降は名駅周辺に供給が集中しており、ここへきて供給戸数が伸び悩んでいる状況です。ただ、供給が中心部にシフトしているため、坪単価は上昇傾向が続いています。これに対し、福岡県では福岡市を中心に九州各地からの人口流入が続いており、実需・投資の両面でのニーズの高さから新築マンションの供給が堅調です。立地も中心部だけでなく香椎や千早など東区や大野城市など広域に分散されており、坪単価はゆるやかな上昇となっています。中古マンションのニーズも高く、流通件数・坪単価とも右肩上がりの状況です」(髙橋さん)
ニーズの高さから価格上昇が続くも、供給は新型肺炎の動向次第か
2019年は消費税増税の影響で様子見ムードが広がり、一部を除いて物件供給が低調となったエリアが多かったようですが、2020年はどうでしょうか。2020年の大きなイベントといえば東京五輪ですが、懸念されていた五輪後の市況の落ち込みは限定的との見方も多くなっています。米中貿易摩擦の緩和による世界経済の好転にも期待がかかりますが、懸念材料もあると髙橋さんはコメントしてくれました。
「現状では新型コロナウイルスの終息がいつになるかが最大のポイントでしょう。マンション・デベロッパーとしては消費税増税の影響が薄らぐ年明けから供給をテコ入れする計画だったと思われますが、想定外の状況となっています。春の商戦にも影響が出ると考えられるので、年間を通して供給が2019年並みかそれを下回る可能性もあるでしょう。ただし、新築市場では大手デベロッパーの比重が高まっている状態なので、売り急ぐことは考えにくく、価格は高水準が維持されそうです。また中古の築浅物件は面積や仕様面で新築と比べ高いスペックの物件も多く、人気の高さからこちらも価格が上昇しやすい状況が続くと考えられます」
2019年は台風などの自然災害がマーケットに大きく影響しましたが、2020年も新型コロナウイルスという“災害”が波乱要因になりそうです。
(データ提供:東京カンテイ)