2020年基準地価の動向と不動産マーケットの状況
三大都市圏では住宅地の地価が下落に転じ、商業地は上昇幅が縮小
国土交通省から2020年7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)が発表されました。コロナ禍の影響を反映した地価調査として注目されたデータの動きから、不動産マーケットの現状を読み解いていきましょう。
まず住宅地の変動率は全国で29年連続のマイナスとなり、下落幅は0.7%と前年より0.6%拡大しました。三大都市圏はマイナス0.3%と、7年ぶりに下落に転じています。地方圏は0.9%の下落でしたが、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)はプラス3.6%と前年より上昇幅が1.3%縮小したものの、8年連続の上昇です。
一方、商業地は全国でマイナス0.3%と、5年ぶりの下落となりました。三大都市圏はプラス0.7%、地方4市はプラス6.1%でいずれも8年連続の上昇でしたが、上昇幅は縮小しています。
全国の地価の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは以下のように分析してくれました。
「住宅地は三大都市圏でマイナスに転じていますが、コロナ禍で売買が止まったことによる影響が大きく、地価が大きく下がったわけではありません。緊急事態宣言明け後はマーケットが動き出しており、マンション価格は新築・中古とも上昇しているエリアが見られます。これに対し、商業地ではインバウンド(訪日外国人客)需要がほぼ消滅した影響が大きく、回復には時間がかかりそうです」
東京都区部は上昇幅が大きく縮小。郊外では下落も目立つ
地域別の動向を見ていくと、まず東京圏は住宅地の変動率がマイナス0.2%と、前年のプラス1.1%から下落に転じました。東京都はわずかに上昇してプラス0.2%でしたが、都区部は同1.4%と前年の同4.6%から大きく上昇幅が縮小し、多摩地域は0.8%の下落に転じています。またさいたま市と千葉市はわずかに上昇を維持しましたが、横浜市や川崎市は下落に転じました。
商業地は東京圏全体で1.0%のプラスでしたが、前年のプラス4.9%から上昇幅が3.9%縮小しています。前年は9.8%上昇した東京都区部都心部がプラス1.9%にとどまるなど、各地で上昇幅が縮小しました。
「住宅地ではマンション供給が活発だったエリアで売買が止まり、地価の上昇にブレーキがかかりました。東京市部や周辺3県などの一戸建てエリアはこれまで上昇幅が限られていたため、コロナ禍の影響でマイナスに転じた地域が目立ちます。直近では広さを求めて一戸建ての需要が回復する動きも見られますが、割安さが人気のポイントでもあるため、すぐに価格が上昇する状況ではありません」(髙橋さん)
大阪圏は平均で住宅地が下落。商業地は上昇幅が大幅縮小
大阪圏は住宅地の変動率が前年のプラス0.3%からマイナス0.4%へと、下落に転じました。大阪市や神戸市、京都市はわずかにプラスを維持していますが、大阪府と京都府は平均でマイナス、阪神地域もマイナスに転じています。
商業地は大阪圏平均でプラス1.2%と上昇しましたが、上昇幅は前年の6.8%から5.6%縮小しました。特に大阪市や京都市では縮小幅が大きく、前年の2ケタ上昇から10%以上縮小した地域も少なくありません。
「商業地はインバウンドの蒸発が大きく影響しており、特に京都市中心部や大阪市のミナミ地区では前年20%台だった上昇率が今回はひとケタに縮小しています。一方、大阪市中心部などマンションの売買が活発だったエリアでは、取引の自粛で住宅地の地価が上昇から横ばいに転じています。コロナ禍が収束すれば売買が動き出すと予測されますが、さほど大きな上昇は期待しにくいでしょう」(髙橋さん)
名古屋圏は住宅地・商業地とも下落。福岡市は高めの上昇率を維持
名古屋圏は住宅地がマイナス0.7%、商業地が同1.1%と、いずれも前年のプラスから下落に転じています。なかでも名古屋市は住宅地がマイナス0.8%、商業地が同1.5%とマイナス幅が大きくなっています。
「コロナ禍の影響で自動車産業の業績が下振れ気味になっており、住宅地・商業地とも弱含みとなっています。加えてリニア中央新幹線の開業時期が不透明になっていることも、商業地の地価に影響しているようです。今後の地価は関連企業も含めた自動車産業の業績と、リニア中央新幹線の開業時期確定の見通し次第でしょう」(髙橋さん)
一方、福岡市では住宅地がプラス3.5%、商業地が同7.5%と、前年比では縮小したものの上昇を維持しています。特に博多区はプラス9.8%、中央区は同9.6%と高めの上昇率になりました。
「地下鉄七隈線の延伸計画や福岡空港の第2滑走路計画などのインフラ整備、天神ビックバンなど再開発計画への期待から、商業地を中心に地価の上昇につながっているようです。コロナ禍が収束すればいち早く地価が回復することも期待できます」(髙橋さん)
今回の基準地価は2020年7月1日時点のもので、緊急事態宣言による外出自粛などいわゆる第1波のコロナ禍による影響が大きく反映されています。ただ、宣言明け後の不動産市場には回復の動きも見られると、髙橋さんは話しています。
「東京圏では新築マンションや築浅の中古マンションを中心に売買が活発になってきており、価格も徐々に上昇しつつあります。インバウンド需要の減少によるマイナスの影響は長引きそうですが、株価の上昇など経済状況によっては早期に住宅の需要が回復する可能性もあるでしょう」
不動産市場は今後もしばらくはコロナ禍の影響に注意していく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)