公示地価から読み取る2012年の不動産市場動向
住宅地・商業地とも下落幅が縮小都市部では下げ止まりの動きも
国土交通省から発表された2012年の公示地価によると、全国平均で住宅地・商業地とも4年連続の下落となりましたが、下落幅は2年連続で縮小しています。昨年は三大都市圏で下落幅が大きく縮小し、地方圏では縮小が限定的だったことから、2極化が浮き彫りになりました。今回も両者の下落幅には乖離がありましたが、どちらも小幅に縮小しています。(図表1・2)
東日本大震災被災地などでは不動産市場の停滞により地価が大きく下落した地点もありましたが、全体的には土地取引が安定してきているようです。同省では「住宅地では人口の増加した地域で下落率の小さい傾向が見られ、また、住環境良好あるいは交通利便性の高い地点で地価の回復が目立った」としています。一方の商業地はオフィスの空室率が高止まりし、景況の不透明感も高まっていることから、需要が弱含みの状況です。ただ、都市部では下落幅の縮小が大きくなっており、下げ止まりの動きもみられます。同省でも「主要都市の中心部において、賃料調整(値下げ)が進んだ事もあって、BCP(事業継続計画)やコスト削減等の目的で耐震性に優れる新築・大規模オフィスへ業務機能を集約させる動きがみられる」と解説しています。
また、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の中山登志朗氏は次のように分析しています。
「今回の公示地価からは、地価が下落局面を脱して底打ちする傾向が読み取れます。地価が安定し始めていることで、不動産価格の目処が立ちやすく、売買もしやすい状況といえるでしょう」
震災被災エリアで下落幅が拡大東京スカイツリー周辺などは上昇
エリアごとの動きをみていきましょう。まず東京圏では住宅地の下落幅が前年比0.1ポイント縮小と、縮小幅はわずかでしたが、東京都や川崎市などでは大きく縮小しました。国土交通省のコメントによると、「住宅ローン減税等政策により戸建住宅、マンションとも需要は堅調」なことが、下落幅縮小につながっているということです。
ただ、「円高や欧州債務危機等から景気動向に懸念があり、マンションの高額物件(地域によって異なるが約8000万~1億円以上)について需要が弱くなっている」としています。(図表3)
また、東京圏でも埼玉県では下落幅が横ばい、千葉県では拡大しており、下落に歯止めがかかっていない状況です。浦安市がマイナス7.5%(前年1.1%上昇)、千葉市美浜区がマイナス7.3%(同マイナス0.8%)など、「大震災により液状化の被害のあった地域の下落率が大きくなった」(同省)ことが影響しているようです。とはいえ、同省によると「大震災の影響により一時落ち込んだ湾岸部のマンション需要は、夏以降に回復傾向を示している」とのことで、前年3.5%上昇した中央区の下落率はマイナス0.7%にとどまっています。
一方、商業地も下落幅が縮小したものの、東京都都心部で2%台の下落幅となるなど、依然として下落基調が続いています。同省によると、「オフィスの業務機能の集約ニーズにより、立地条件が良く、高スペックビルが多く立地する業務高度商業地域(丸の内、大手町など)への需要が堅調」に推移する一方、その周辺では「旧耐震ビルやB、Cクラスビルが多く、移転後の二次空室の発生による空室率の高止まりと賃料の下落が見られ、地価の下落傾向が続いている」とのことです。
「川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺はマンションやオフィス、商業施設などの複合開発が継続して行われており、利便性の向上が地価上昇につながっています。また、東京スカイツリーの開発が進む墨田区の押上駅やとうきょうスカイツリー駅(旧・業平橋駅)の周辺でも、駅の改装や店舗の出店などによる利便性向上から地価が上昇しており、今後も上昇が続くと予測されます」(中山氏)
大阪圏は全般的に下落幅が縮小首都圏からの移転需要は見られず
大阪圏の住宅地は下落幅が1.1ポイント縮小してマイナス1.3%になるなど、全般的に下落幅が順調に縮小しています。特に大阪市中心6区が0.4%上昇し、神戸市東部4区が0.0%と横ばいになっており、都心部での下げ止まり傾向が顕著です。
大阪市で上昇した地域は、福島区、天王寺区、阿倍野区、北区、中央区の5区。北摂エリアでは豊中市、吹田市、高槻市、茨木市で下落率が1%以内となっています。
また神戸市東灘区や芦屋市、西宮市など、「住環境や利便性に優れた地域」(国土交通省)で上昇地点が多く見られました。京都市でも上京区で上昇しています。(図表4)
商業地も下落幅は大きく縮小しました。なかでも京都市では「マンション用地としての需要が強いことから」(同省)、中京区と下京区で上昇に転じています。また大阪市では「中心部で底打ち感が見られるが、立地による選別が強く、周辺部では空室率、賃料下落とも厳しい状況が継続している」(同)ということです。なお、奈良県では人口の増加している香芝市で、駅近接の商業地の地価が横ばいとなっています。
「大震災の直後に首都圏からの移転需要が発生するとの見方もありましたが、実際にはほとんど見られませんでした。それよりも阪神なんば線やJRおおさか東線、京阪中之島線の開通による効果で、沿線周辺の地価が安定してきているようです。また商業地では梅田周辺で大型のオフィスビルが開発され、難波地区などから移転する動きが見られます。そのため難波地区で地価が2ケタの下落となる一方で、阿倍野地区ではあべのマーケットパークキューズモールの開業で地価が上昇に転じるなど、個別要因に地価が左右されている状況です」(中山氏)
名古屋圏では地価上昇地点も増加観光需要に地価も上向く福岡市
名古屋圏では昨年すでに住宅地平均の下落率が1%を切り、ほぼ横ばい圏に入っていましたが、今回はさらに下落幅が縮小しました。ただ、前年に地価が上昇に転じた名古屋市では、小幅ですが再び下落しています。
国土交通省によると、「湾岸部において液状化等の懸念から需要が減退したこと」が要因とのことです。とはいえ、「優良住宅地やマンション用地に対する需要が増加したことから」(同省)、名古屋市の16区中6区で地価が上昇し、2区では横ばいとなっています。
このほか「地元企業等の従業者の住宅取得需要が強い」(同)西三河地区では、刈谷市や安城市で地価上昇の動きが見られます。(図表5)
商業地は名古屋駅のある名古屋市中村区周辺で「ビル建て替え等が進捗していることから」(同)上昇地点も見られます。また同駅へのアクセスが良好な金山駅周辺では、中区や熱田区で5%の上昇地点が現れました。また人口が増加している西三河地区でも地価が上昇しています。
「名古屋市内では昨年後半から大規模なマンションがいくつか供給され、値ごろ感のある価格設定で市場が活性化しています。地下鉄名城線沿線の天白区や千種区、瑞穂区などは特に人気が高く、地価が上昇しつつある状況です」(中山氏)
このほか福岡県をはじめとした九州・沖縄地方でも、地価の下落率が縮小しています。なかでも福岡市は住宅地の下落率が1%を切り、商業地も1%台の下落率となるなど、下げ止まりに向かいつつあるようです。再開発が進む博多駅周辺では、商業地で地価上昇の動きも見られます。(図表6)
「中国や韓国などからの観光客が多く訪れ、ホテルが新規でいくつか開業するなど、観光・商業需要が活気づいています。住宅地では大濠をはじめ薬院や百道など、地下鉄空港線沿線エリアの人気が根強く、地価も強含みです」(中山氏)
このように全般的に地価が下げ止まり傾向を強めるなか、東日本大震災の影響が一部に残るなど、地価形成に新たな要因が加わりつつあると、中山氏は指摘しています。
「従来は交通利便性や生活利便性などの経済的な価値が地価を左右してきましたが、今後は経済性に加えて安全性や防災性能の高いエリアの地価が上昇する傾向が強まるでしょう。同じエリア内でも安全性によって地価に差が出るなど、今後は“地価の個別化”が進むと予測されます」
これから不動産を選別する際には、安全や防災面にも着目する必要がありそうです。
用語解説
●公示地価
- 全国の不動産鑑定士が毎年、標準的な土地(標準地)の1月1日時点の地価を調べ、国土交通省が取りまとめて発表しているもの。官民の不動産取引の指標として広く活用されています。今回は全国で2万6000地点の標準地が対象となっています。
(データ提供:東京カンテイ)