2016年路線価の動向と不動産市場の現状
全国平均が8年ぶりに上昇 大都市圏の商業地が全体を押し上げ
国税庁から発表された路線価によると、全国の標準宅地の変動率の平均が8年ぶりに上昇に転じました。路線価とは、相続税や贈与税の税額を算出する際の基準となる地価のこと。毎年1月1日時点の地価に基づき、一連の宅地が面する道路ごとに1㎡当たりの単価が定められます。
住宅地や商業地、工業地などの標準宅地の1年間の変動率は、全国平均で0.2%アップしました。全国平均が上昇したのはリーマンショック前の2008年以来です。
都道府県別で上昇率が最も高かったのは東京都で2.9%のアップ。次いで宮城県が2.5%福島県が2.3%、それぞれ上昇しており、上昇率が2%を超えたのはこの1都2県だけでした。ただ、多くの府県で上昇率が昨年より高くなっています。
「全国平均ではプラスですが、すべての地域で上昇しているわけではありません。大都市圏では特に商業地の地価上昇が大きく、全体の地価を押し上げています。企業の業績回復でオフィス需要が高まっていることに加え、中国や東南アジアからのインバウンドニーズで観光客が増え、ホテルなど宿泊施設や商業施設の開発が高水準になっていることが影響しているようです」
今年の路線価の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんはこのように分析しています。
東京はオフィス、住宅、観光需要で上昇 ニーズの弱い地域との二極化が鮮明に
首都圏では東京都の上昇率が2.9%と前年より0.8ポイント高くなりましたが、埼玉県と千葉県は前年の上昇率とさほど変わらず。神奈川県は0.5%上昇したものの、上昇率は前年より0.1ポイント低くなっています。
「人・モノ・カネの動きが東京に集中し、地価が大きく上昇しています。一方で周辺地域ではインバウンドの需要が見込めないこともあり、上昇の勢いは限られます。オフィスや住宅に加え、観光のニーズもある地域は地価上昇の動きが強まっていますが、ニーズの弱い地域の地価は上がらず、二極化が鮮明になっています」(髙橋さん)
都道府県庁所在都市の最高路線価を見ると、東京都は中央区銀座5丁目の銀座中央通りで、上昇率が18.7%と前年より4.5ポイントの大幅な伸びでした。また、横浜市の横浜駅西口バスターミナル前通りは上昇率9.5%で前年比2.4ポイント伸びましたが、さいたま市の大宮駅西口駅前ロータリーは上昇率が同0.1ポイント縮まり、7.0%にとどまっています。昨年下落した千葉市の千葉駅側通りは2.8%の上昇に転じました。
大阪、京都の中心でマンション分譲が活発 リニア中央新幹線の開業前倒しに期待
近畿圏は大阪府が1.0%、京都府が0.8%の上昇と、いずれも上昇率が前年より伸びています。兵庫県は0.3%の下落でしたが、下落幅は0.4ポイント縮小しました。
都道府県庁所在都市の最高路線価では大阪市北区角田町の御堂筋が22.1%の上昇と、全国で最も高い上昇率を記録しました。また京都市の四条通は16.9%の上昇で全国3位、神戸市の三宮センター街は12.9%の上昇で全国6位と、いずれも高い上昇率となっています。
「大阪市はインバウンド需要の高まりもあり、東京からやや遅れる形で上昇の動きが強まりました。特に中心部でタワーマンションの分譲が活発となり、東京に比べて価格が低く賃貸利回りが高いことなどから投資ニーズが堅調です。リニア中央新幹線の開業が当初予定の2045年から前倒しされる見通しとなっており、ルート上にある奈良市とともに期待が高まっています。また、京都市は中心部で高額なマンションが分譲されるなど富裕層によるニーズが強く、地価上昇の動きが顕著です」(髙橋さん)
愛知はマンション・一戸建て需要が旺盛 福岡は人口増加と観光ニーズで地価上昇
中部圏では愛知県の上昇率が1.5%と、前年より0.5ポイント伸びました。名古屋市の最高路線価は中村区名駅1丁目の名駅通りで、上昇率14.1%と全国3位の高さです。
「愛知県は自動車産業の業績が好調なこともあり、オフィス・マンションとも需要が高まり、名古屋駅周辺ではマンション分譲が活発になっています。また、名古屋市近郊や三河エリアでは一戸建てのニーズも高まっており、住宅地の地価上昇につながっています」(髙橋さん)
九州では福岡県の上昇率が0.8%と、横ばいだった前年から上昇に転じました。福岡市の最高路線価は中央区天神2丁目の渡辺通りで、上昇率12.0%と全国9位の伸びとなっています。
「福岡市は九州の中心地として各地から人が流入しており、マンション・一戸建てとも需要が増え、博多駅周辺などの再開発も活発です。また地理的に東南アジアに近いこともあり、インバウンドによる観光ニーズが旺盛なことも、地価を押し上げる要因となっています」(髙橋さん)
地価上昇の動きが続く都市中心部 近郊・郊外ではマンション価格の調整も
このように東京や大阪、福岡ではインバウンド需要が活発だったこともあり、商業系を中心に地価の上昇傾向が強まりました。また、都市中心部では富裕層や投資家によるマンション需要も根強く、高額物件の分譲によって住宅地の地価やマンション価格も上昇しています。ただ、ここへきて地価の動きにも変化が見られると、髙橋さんは指摘しています。
「このところの円高傾向でインバウンド需要の購買力が低下していますが、観光客の数は増加傾向が続いており、ホテルや店舗など商業系の地価は上昇傾向が続くでしょう。一方、マンション需要は都心部では堅調ですが、近郊や郊外エリアでは価格上昇で需要が落ち込んでいます。デベロッパーは消費税増税による駆け込み需要狙いなどで用地取得を進めていたので、今後はマンション供給が増えそうです」
都市中心部では商業地・住宅地とも価格上昇の勢いが続きそうですが、近郊や郊外ではマンション価格の調整などから、今後は地価上昇の動きが抑えられるかもしれません。