2010年基準地価から見通す今後の不動産市場
基準地価は2年連続の下落大都市圏の下落率はほぼ半減
国土交通省から発表された2010年7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)によると、
三大都市圏の平均は住宅地が前年比マイナス2.9%、商業地が同マイナス4.2%と、前年に続き2年連続の下落となりました。ただし下落率は前年に比べてほぼ半減しており、場所によっては地価が横ばいや上昇に転じているところもあります。その理由として同省は次の3点を上げています。
<1>前回の調査は世界的金融危機後で土地需要が大幅に減少した(中略)が、今回の調査は景気が厳しい状況ながら持ち直しを見せている
<2>住宅地においては、都市部で利便性、選好性(人気)が高く潜在的に需要の大きい地域で、マンションや戸建住宅地の値頃感の高まりや税制等の住宅関連施策の効果等から住宅地需要が回復した
<3>商業地においては、(中略)大都市の一部地域において金融環境の改善もあって収益用不動産の取得の動きが見られる
一方で地方圏は住宅地、商業地とも前回とほぼ同様の下落率となっており、平均では三大都市圏と逆転する結果となっています。
東京圏は住宅地の需要が回復都心に近いほど下落幅が縮小
東京圏では住宅地の平均が前年比マイナス3.0%と、前年のマイナス6.5%から下落幅が縮小しました。1都3県はいずれも平均の下落幅が縮小していますが、前年に2ケタの下落となった東京都区部で3.1%のダウンにとどまるなど、都心寄りの地域ほど縮小の度合いが大きくなっています。千代田区、中央区、港区、渋谷区などで値頃感から住宅地需要が回復し、中央区や港区では横ばいの地点も見られました。
「例えば中央区月島は、銀座などに近い交通利便性の高さで住宅地として人気が高く、タワーマンションなどが近年数多く供給されています。このところの地価下落で値頃感が高まり、マンション用地としての需要が回復したことで、2010年に入って地価が上昇傾向です」(東京カンテイ市場調査部上席主任研究員・中山登志朗氏)
また東京圏の商業地も、平均が前年比マイナス4.1%と前回のマイナス8.9%よりも下落幅が縮小しています。都心部では前回の2ケタ下落から今回は1ケタの下落幅に縮小した地点が多く見られましたが、中央区は平均でマイナス10.8%と高い下落率のままです。特に銀座では店舗やオフィスの空室率が高まり、18~19%前後の下落率となった地点が少なくありません。
大阪圏でも住宅需要が堅調商業地では地価上昇の動きも
大阪圏の住宅地は平均でマイナス3.6%と、やはり前回(同4.5%)と比べて下落幅が縮小しました。ただ、前回の下落幅が首都圏と比べて小さかったこともあり、縮小の度合いはさほど大きくはありません。堺市では前回のマイナス4.5%から今回は同4.3%とあまり変わっていないなど、景気回復の遅れで地価下落になかなか歯止めがかからないエリアも見られます。
ただ、神戸市では東部4区(※)で前回のマイナス6.7%から今回は同2.6%と、下落幅が大きく縮小しました。「特に東灘区では下落率が7.0%から同2.3%に縮小しており、岡本や御影といった人気住宅地を中心に需要が堅調に推移している
ようです」(中山氏)
一方、商業地も下落率は縮小傾向ですが、大阪圏の平均でマイナス5.3%と下落幅はまだ小さくはありません。そんななか、奈良県では近鉄奈良駅前で地価が上昇しました。平城遷都1300年祭の開催で観光客数が増加したことや、阪神なんば線との相互乗り入れで利便性が向上した影響と見られます。また京都市でも、ブランド店の進出が目立つ四条烏丸で地価が上昇しています。
名古屋市や福岡市などで鉄道延伸の効果が地価に反映
このほか、地方圏では平均の下落率が前回と同程度でしたが、ところにより上昇や横ばいとなった地点もあります。特に目立つのが、2011年3月に鹿児島ルートが全線開通する九州新幹線の沿線エリアです。駅ビルのリニューアルが進む福岡市博多駅周辺では商業地の下落率が大幅に縮小しました。駅周辺の大規模な再開発事業が進行中の熊本市、鹿児島市でも、地価の上昇地点や横ばい地点が表れています。
中古価格は上昇から頭打ちへ今後の動きは景気回復がカギ
ただし、中古マンション価格もここにきて上昇が頭打ち気味になっています。近畿圏・中部圏も含め2010年7月は価格が前月よりダウンし、8月もほぼ横ばいという状況です。「景気の先行きが不透明なため、価格が大きく上昇する状況ではありません。2011年には減税が縮小される予定となっており、今後の景気次第では地価や物件価格が再び下落する可能性もあるでしょう」(中山氏)
住宅ローン控除と贈与税の非課税枠は2011年に縮小されますが、景気対策として導入された住宅エコポイントとフラット35の金利引き下げは延長が決まりました。景気回復の足どりは不確かで、地価や住宅価格も先行きは予断を許しません。とはいえ、こんな時期だからこそ、住宅は買いやすい状況にあると言えるでしょう。
ワンポイント豆知識
【基準地価】
都道府県が調査主体となり、2010年は全国2万2701地点の基準値を対象に、7月1日時点の不動産鑑定士の鑑定評価に基づいて都道府県知事が正常価格の判定を行った。
【住宅減税】
住宅ローン年末残高の1%を10年間にわたって所得税から控除する住宅ローン控除と、親などからの住宅取得資金の贈与を一定額まで非課税にする特例が代表的。2010年は住宅ローン控除の上限額が500万円、贈与税の非課税枠が1500万円だが、2011年はそれぞれ400万円、1000万円に減額される。
【フラット35】
住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して取り扱う固定金利の住宅ローン。住宅が耐震性や省エネ性など一定の基準を満たすと、当初10年間の金利が引き下げられる「フラット35S」が利用できる。引き下げ幅は通常は0・3%だが、景気対策で2010年と2011年は1・0%に拡大されている。
【住宅エコポイント】
一定の省エネ基準を満たす新築住宅とリフォームに対し、最高30万円相当のポイントを交付する制度。新築住宅、リフォームとも2011年末までに着工した住宅が対象となる。
(データ提供:東京カンテイ)