マンションを中心とした住宅市場の現状と2011年の見通し
利便性の高い立地を中心に新築物件の供給が回復へ
2010年の日本経済は前年の危機的な状況から脱しつつも、なお先行き不透明な停滞感に覆われた一年だったといえるでしょう。住宅市場もそうした景況感を反映して前年比横ばい、ないしはすこぶる緩やかな回復が基調となりました。
その典型例が新築マンション市場です。着工戸数は2010年の前半こそ前年比マイナスが続いたものの、後半は増加基調に転じ、月によっては同3ケタのプラスとなったこともありました。そのため分譲戸数も首都圏・近畿圏ともに前年を上回る結果となっています。
新築マンションの価格動向については、都府県ごとに特徴のある動きになっています。まず首都圏では、東京都と神奈川県は前年比で平均坪単価がダウンしましたが、千葉県と埼玉県では前年を上回りました。2極化ともとれるこうした動きについて、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の中山登志朗氏は次のように分析しています。
「東京都は2007年を、神奈川県は2008年をピークに、いずれも価格が下がり続けています。神奈川県の平均坪単価が200万円を切るのは4年ぶりのことなので、買いやすくなっているといえるでしょう。両都県ともピーク前の2006年と比べるとまだ高めですが、2010年は物件の供給が都心寄りの駅に近い立地にほぼ限定されており、値頃感が出ています。一方、千葉県と埼玉県では景気低迷の影響で、これまで主流だった100万円台前半の坪単価の物件の売れ行きが落ち込み、駅に近く坪単価が比較的高めの物件に供給が偏っています。そのため、平均坪単価が高止まりしており、埼玉県では2000年以降で最も高い水準になりました」
一方、近畿圏のうち供給戸数の多い大阪府・兵庫県・京都府については、いずれも前年比で坪単価がアップしています。このうち京都府はピークの2007年と比べるとやや下がっていますが、大阪府と兵庫県はいずれも2000年以降で最も高い坪単価になりました。
「これら2府1県も千葉県・埼玉県と同様、供給される物件が駅に近い立地に絞り込まれたため、坪単価がアップしました。平均面積や平均価格は下がっており、供給される物件の広さが圧縮されている傾向が読み取れます」(中山氏)
郊外で広めの物件が増加中古は価格が下落基調に
では2011年の新築マンション・住宅市場はどう動くのでしょう。まずベースとなる地価動向については、都市部などではほぼ下げ止まりつつあり、「横ばいで推移する可能性が高い」と中山氏は予測しています。
「新築マンションについては、千葉県・埼玉県では平均坪単価が下落に転じると見ています。駅から離れた場所や郊外など、地価が低めなエリアでの供給が増える見通しだからです。東京都・神奈川県も前年比1割程度は供給が増えるでしょう。特に都心部や横浜市などの事業集積地で大規模な物件が多く分譲される予定です」
坪単価の下落傾向が予測されるのは、近畿圏も同様だといえます。
「これまでは面積を圧縮することで坪単価はむしろ上がっていましたが、主流であるファミリー向けの物件を増やすには面積の拡大が必要です。かといって価格を上げれば売りにくくなるので、坪単価は下がる傾向になるでしょう。供給エリアは大阪市中心部や北摂が中心ですが、それ以外のエリアでも供給が若干増える見込みです」
全体として新築マンションの供給が増え、価格が抑えられつつも面積は広がるとの予測です。
「低金利や住宅減税が続くことを考えると、物件は買いやすい状況といえるでしょう。景気の回復次第では市況が大きく改善され、供給が活発化する可能性もあると見ています」
中古マンション市場にも目を向けてみると、新築物件の供給が減少した2009年から2010年前半にかけては中古物件の流通が活発で価格も上昇基調でしたが、新築マーケットの回復に伴って全体としては価格が下落に転じつつあります。2010年も全体としては価格が下落基調になると予測されています。
「ただし、地価が上昇に転じつつある東京都心部や大阪市中心部など、人気エリアでは中古の価格も横ばい、ないし上昇で推移する見込みです。物件の流通量は郊外も含めて豊富なので、中古も選びやすい状況が続くでしょう」
住宅ローン控除は年々縮小贈与税の特例は2011年まで
住宅の購入環境についても見ていきましょう。中山氏のコメントにもあったように、2011年は大型の住宅減税が引き続き利用可能となっており、住宅ローン金利もきわめて低金利です。
まず税制面で大きなメリットとなっているのが住宅ローン控除です。入居から10年間にわたり年末の住宅ローン残高の1%が所得税などから還付されるこの制度は、対象となる住宅ローン残高の上限が2011年は4000万円となっています(一般住宅の場合)。上限いっぱいまで控除を受けた場合の控除額は年間40万円なので、10年間で最大400万円の税金が戻る計算です。ローン残高の上限は年々縮小され、2012年は3000万円、2013年は2000万円となるので、借入額が3000万円以上のケースでは今年中に入居すれば控除額が最も大きくなります。
親などからの資金援助を対象とした贈与税の特例も見逃せません。2011年は親や祖父母からの住宅取得資金の贈与について、1000万円まで贈与税が非課税になる特例が利用できます。基礎控除110万円と合わせて1110万円まで贈与税が非課税です。これとは別に用途を問わず特定の親からの生前贈与が2500万円まで贈与税非課税となり、将来の相続時に贈与額を相続財産に加算して相続税で精算する「相続時精算課税制度」を選ぶこともできます。この相続時精算課税制度は基礎控除と併用ができませんが、住宅取得資金の贈与特例とは併用可能なので、合わせて3500万円まで贈与税がかかりません。
なお、この相続時精算課税制度はこれまで、「65歳以上の父母から20歳以上の子へ」の贈与に対象が限定されていましたが、2011年度の税制改正により、2011年1月1日から「60歳以上の祖父母・親から20歳以上の子へ」の贈与に範囲が広がる予定です。また、住宅取得資金に関しては、2011年12月末までに贈与すれば祖父母や親の年齢制限は適用されません。
ただし、今回の税制改正では相続税の増税も実施され、同年4月1日から基礎控除が引き下げられることが決まりました。例えば妻と2人の子が相続する場合、従来の基礎控除は8000万円でしたが、改正後は4800万円にダウンします。相続財産が基礎控除を上回ると相続税が課税されるので、相続時精算課税制度を利用する場合は注意が必要です。
住宅ローンの金利関係ではフラット35Sの金利引き下げ幅拡大が注目されます。フラット35Sとは、購入する住宅が省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久・可変性の4つの基準のうちいずれか1つ以上を満たす場合に、フラット35の当初10年間の金利が引き下げられる制度です。引き下げ幅は通常は0.3%ですが、2011年末までに申し込むと1.0%の引き下げが適用されます。1000万円の借り入れで当初10年間の金利が1.0%引き下げられると、トータルの返済額では100万円以上軽くなるケースもあるのです。このフラット35Sは2012年1月になると金利引き下げ幅が0.5%に戻り、さらに同年4月からは当初引き下げ期間が5年に短縮されてしまう予定なので、メリットを最大限活用するなら2011年中が狙い目です。
このほか、一定の省エネ基準を満たす新築住宅を買ったりリフォーム工事を実施すると、30万円相当のポイントをもらえる住宅エコポイントも、対象となるのは2011年12月末までに着工したケースとなっています。2011年はこれらのおトクな制度を利用して住宅を取得する格好の機会といえるでしょう。
2011年度の贈与税と相続税の主な改正点(2011年度税制改正大網より)
●贈与税の税率引き下げなど(2011年1月1日以降の贈与から)
相続時精算課税制度の適用範囲の拡大
〈現行〉65歳以上の親から20歳以上の子への贈与
〈改正後〉60歳以上の祖父母・親から20歳以上の子・孫への贈与
・相続時精算課税制度の対象とならない贈与(暦年課税)について、税率を一部引き下げ(最高税率は引き上げ)
・住宅取得資金の贈与税の非課税特例の拡充(土地を買って家を建てるケース)
先に土地を買ってから家を新築等する場合、一定の条件で土地分の贈与も非課税特例の対象に拡充する
●相続税の基礎控除を引き下げ、税率を引き上げ(2011年4月1日以降の相続から
・基礎控除…〈現行〉5000万円+(1000万円×法定相続人数)
〈改正後〉3000万円+(600万円×法定相続人数)
・最高税率…〈現行〉50%
〈改正後〉55%
(データ提供:東京カンテイ)