不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報不動産市場の動向2013年路線価から読み取る不動産市況の現状と展望(2013年7月号)

不動産市場の動向

専門家のコラム
大森広司
不動産市場の動向

株式会社オイコス代表取締役

大森 広司

2013年7月号

バックナンバー一覧

公示価格や路線価から読み取る不動産市場の動向に関するコラムです。

2013年路線価から読み取る不動産市況の現状と展望

全国で地価の下げ幅が縮小大都市圏などで上昇の動きも

 国税庁から2013年の路線価が発表されました。路線価とは住宅地や商業地など全国約36万地点の標準宅地の地価を基に、路線(道路)ごとに土地の価格を定めたものです。国土交通省が毎年1月1日時点で調査する公示地価の8割を目安に設定され、相続税や贈与税を算出する際の土地の評価基準となります。
  2013年の全国の標準宅地の対前年変動率の平均は▲(マイナス)1.8%で5年連続の下落でしたが、下げ幅は前年より1.0ポイント縮小しました。都道府県別にみると宮城県と愛知県で5年ぶりに上昇に転じ、ほかの45都道府県も下げ幅は軒並み縮小しており、地価下落に歯止めがかかりつつある状況です。
 都道府県庁所在地の最高路線価をみると7都市が上昇しており、前年の2都市から大幅に増えています。なかでも金沢市(上昇率6.3%)や那覇市(同5.8%)など、交通インフラの整備で利便性の向上に期待がかかる都市で上昇率が高くなりました。また横浜市(同5.1%)や大阪市(同4.7%)など大都市圏でも高い上昇率の都市が目立ちます。
「那覇市はモノレールと空港が直結し、中心部の住宅需要やリゾート物件の需要が高まっています。また金沢市は2014年度に北陸新幹線が開業予定となっており、駅周辺を中心に不動産売買が活発化しているようです。このほかにも大都市では中心部で地価の上昇地点が増えており、おおむね底入れしつつあるといえるでしょう」
(東京カンテイ市場調査部上席主任研究員・中山登志朗さん)

円安で外国人旅行者が増え浅草周辺の地価が大きく上昇

 首都圏では東京都の路線価が平均▲0.3%と、前年より下落幅が0.9ポイント縮小するなど、各地で下げ止まり傾向が鮮明になっています。県庁所在地の最高路線価では前述の横浜市のほか、さいたま市も1.4%の上昇となりました。
 東京都で上昇が目立った路線としては、台東区の雷門通り(上昇率9.0%)、大学キャンパスの開設で賑わう足立区の北千住駅西口駅前広場通り(同4.6%)、駅前ロータリーが整備された目黒区の自由が丘駅前広場通り(同1.5%)などがあげられます。また神奈川県では横浜市の鶴見駅東口広場(同4.3%)、川崎市の川崎駅東口広場通り(同5.7%)など、横浜市や川崎市で上昇の動きが目立ちます。 「雷門通りのある台東区浅草は東京スカイツリーとセットで、外国人旅行者向けのパッケージツアーに必ず組み込まれています。このところのアベノミクス効果による円安で海外からの旅行者が増えており、浅草周辺の地価上昇につながっているようです。また横浜市や川崎市では各地で再開発や駅前整備が進められており、地価動向にプラスの効果が認められます」(中山さん)

あべのハルカスの開発などで大阪市内で上昇路線が続出

 近畿圏では大阪市内で阿倍野区のあべの筋が35・1%と大幅な上昇となったほか、北区の国道176号線(上昇率17・4%)と天王寺区の谷町筋(同10・4%)が2ケタの上昇となり、税務署ごとの最高路線価で全国の上昇率トップ3を占めました。市内ではほかにも北区の御堂筋(同4.7%)、福島区のなにわ筋(同1.6%)、中央区の南海難波駅前(同1.3%)で上昇に転じています。
 また大阪市以外では、吹田市の大阪内環状線(同1.8%)、京都市東山区の四条通(同1.3%)、神戸市灘区の山手幹線(同2.9%)、芦屋市のJR芦屋駅前(同1.8%)などで地価上昇の動きが見られます。
「大阪市内ではあべのハルカスやグランフロント大阪など、大規模な商業・業務ビルの開発が周辺エリアの地価を押し上げているようです。また北摂や阪神間など人気の住宅地でも、地価が底入れから上昇に転じつつあります」(中山さん)

名古屋市内は地価回復が鮮明福岡も博多駅前などで上昇

 中部圏では前述のように愛知県が県全体の平均で上昇するなど、地価上昇の動きが広がっています。名古屋市内では中村区の名駅通り(上昇率2.4%)、熱田区の新尾頭金山線通り(同3.8%)などが上昇したほか、中区の大津通りが前年の下落から横ばいに転じました。ほかに一宮市の尾張一宮駅前通り(同5.6%)、豊田市の豊田市駅前通り(同2.1%)も上昇しています。
 また福岡県では福岡市博多区の駅前通りが6.5%上昇したほか、同市中央区の渡辺通りは前年に引き続き横ばいでした。
「愛知県は円安効果による自動車産業の好調を背景に、三河地区を中心に地域経済が回復基調となり、地価を押し上げているようです。また名古屋市内では名古屋駅周辺で大規模ビルが建設されるなど、再開発に伴って地価上昇の動きが強まっています。福岡市も博多駅前で再開発計画が進められているなど、中心部では不動産の売買が活発化しつつあります」(中山さん)

アベノミクス効果よりも増税に伴う駆け込みが影響!?

 こうしてみると大都市の中心部などでは地価が下げ止まりから上昇に転じる動きが広がりつつあるようです。その要因として、アベノミクス効果に伴う円安の影響も垣間見られます。
 周知のとおりアベノミクスでは「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の『3本の矢』を打ち出しており、先行して行われた日銀による金融緩和の強化では、経済の先行き回復期待から円安・株高が進みつつある状況です。この円安による輸出産業の業績改善や、海外からの旅行者の増加などが、地価上昇に与えた影響は少なからずあるでしょう。
 ただ、より強く影響したのは、消費税や相続税の増税の動きだと、中山さんは話してくれました。「消費税の増税に伴う経過措置により、今年9月30日までに契約すれば5%の税率が適用されるため、駆け込み需要が発生しています。また相続税は2015年から基礎控除の引き下げなどの増税が予定されており、節税対策として高額なマンションなどの需要が強まり、地価を押し上げている状況です」
 またこうした地価上昇の動きに伴って、マンション市況も回復しつつあり、今後もしばらくは活発な売買が続くと中山さんは予測しています。「消費税が8%にアップした後も、2回目の経過措置の期限となる2015年3月末までは新築マンションの売買は活発でしょう。住宅ローン控除の拡充や現金給付の措置も購入を後押しするとみられます。今のところ需要が新築にシフトしているため中古マンションの売買は停滞気味ですが、1回目の経過措置が終わる今年10月以降は需要が中古に戻り、相場が上昇に転じる可能性も高いでしょう」
 今後しばらくは消費税と相続税の増税効果により、地価やマンション価格が上昇気味に推移することが予測されます。増税効果が切れた後の市況については、アベノミクスによる景気回復が本格化するかどうかが大きく影響しそうです。

主な都道府県における標準宅地の対前年変動率の平均値、主な都道府県所在地の最高路線価

拡大図はこちら

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。