不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報不動産市場の動向2009年の総括と2010年の不動産市場(2010年1月号)

不動産市場の動向

専門家のコラム
大森広司
不動産市場の動向

株式会社オイコス代表取締役

大森 広司

2010年1月号

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公示価格や路線価から読み取る不動産市場の動向に関するコラムです。

2009年の総括と2010年の不動産市場

価格下落が続いた2009年 面積縮小で坪単価は横ばい傾向

 2009年の日本経済は世界的な経済危機の痛手から脱しきれず、年末には新政権がデフレを宣言するなど厳しい状況が続きました。不動産市場も2008年後半以降の価格下落基調が全体を覆い、晴れ間の見えないまま2010年を迎えたといえる状態です。

とりわけ新築マンションは市場縮小の傾向に歯止めがかからず、低調な動きになっています。着工戸数は前年比2ケタ減が続いているため、新規物件の販売も2008年に続き大幅に減少しました。

新規分譲が減っている背景には、不動産会社各社が膨らんだ完成在庫物件の販売に力を入れていることがあると言われています。いわゆる“ミニバブル”と呼ばれる価格上昇の動きが下落に転じ、それまで売り渋っていた未販売の物件が一気に完成在庫として市場に滞留する結果となったわけです。2009年は各社とも在庫物件の値引き販売に追われるなか、体力のある一部大手売主が細々と新規販売を手がける状況となりました。

東京カンテイ市場調査部がまとめた新築マンションの価格データを見ると、首都圏では2009年の平均坪単価が軒並み前年を下回っています。(図表1)ただ、下落幅は数%以内にとどまっており、東京都や埼玉県はほぼ横ばいといってもいい数値です。思ったより下落幅が小さいという印象ですが、この点について同部上席主任研究員の中山登志朗氏は次のような見方を示しています。

 「2009年に販売された新築マンションは地価が高い時期に土地を仕入れた物件がほとんどなので、坪単価を下げるのが難しかったという事情があります。かといって販売価格が高いままでは売れないので、専有面積を圧縮することで価格を引き下げるケースが目立ちました。さらに坪単価が下がっていないもう一つの理由は、物件の立地が最寄り駅や都心寄りにシフトしたことです。2007年までの価格上昇期に多くみられた郊外のバス便物件はほとんど姿を消し、浦安など一部を除いて駅から徒歩10分以内の物件ばかり分譲されるようになりました。そのため平均の坪単価が高止まりしています」

 一方、近畿圏に目を転じると、2009年の平均坪単価は全般的に前年比で下がり気味ですが、下げ幅が小さくほぼ横ばいのエリアが目立ちます。これは2007年から2008年にかけての価格上昇が首都圏に比べて小さかったこともありますが、別の要因もあるようです。再び中山氏に伺いました。

 「平均専有面積のデータを見ると、近畿圏では景観条例で規制が厳しくなった京都市内を除いて面積縮小の動きはほとんど見られません。逆に大阪市内などではミニバブル後の価格下落を補う形で、面積を少し広げて販売価格を維持する動きが出ているようです」

2010年は価格調整が本格化 供給立地は人気エリアに集中へ

  では2010年の市場はどのように動くと考えられるのでしょうか。前出の中山氏はズバリ「調整の1年になる」と予測しています。「不動産会社が取得する土地が値下がりしていることもあり、新築マンション価格はこれから本格的な調整期に入るでしょう。今後1年かけて5~10%の価格下落が考えられます。ただ、売主が『売れる立地』に絞って供給する傾向が続くとみられるため、全体の坪単価は下げ渋るかもしれません」  売れる立地とは首都圏では都区部の城南・城西エリアや都心近郊の横浜・川崎エリア、近畿圏では大阪・神戸の中心エリアや北摂・阪神間エリアといったところでしょう。逆に郊外のバス便立地などでは供給が抑えられ、新規物件が探しにくい状態がしばらく続くことも考えられます。

 「郊外での供給が減少する結果、全体の販売戸数が大幅に増えることは期待しにくいかもしれません。新築物件の販売が限られる郊外エリアなどでは、マンションとさほど変わらない価格で買える新築一戸建てに目を向けたり、より流通量が豊富な中古マンションを検討してみるのが、賢明な住まいの探し方といえるでしょう」(中山氏)

 ちなみに中古マンション市場は首都圏では新築と同様、ミニバブルと言われた2007年以降は価格が下落気味ですが、2009年の終盤以降は回復の兆しも見えてきたようです。近畿圏は価格がほぼ横ばいで推移しており、大阪市中心部や北摂など人気エリアでは2009年春以降、上昇傾向が続いています。

贈与税の非課税枠が大幅アップ 住宅版エコポイントにも注目

  資金環境についてもみてみましょう。新政権下で初となる2009年末の税制改正大綱(2010年度)では、贈与税非課税枠の大幅拡大が盛り込まれました。財務大臣が主導する政府税制調査会は大幅減税に否定的な姿勢を示していましたが、景気回復のカンフル剤として住宅市場への刺激策を重視する国土交通大臣などの働きかけで実現したものです。

 具体的には、親からの住宅資金の贈与について、500万円だった非課税枠を1500万円にアップし、110万円の基礎控除と合わせて1610万円まで贈与税非課税とする内容です。この非課税枠は2009年に前政権が経済対策として導入したもので、20歳以上の人が対象となっており、親だけでなく祖父母からの贈与にも適用されます。毎年1月1日から12月末までの贈与について、まとめて翌年に申告する「暦年課税」の制度です。

 贈与税に関しては65歳以上の特定の親(祖父母は対象外)からの贈与について累計で2500万円まで贈与税がかからず、その親の相続発生時に贈与額を相続財産に加算して相続税で精算する「相続時精算課税」(以下、精算課税)という制度もあります。この精算課税にも住宅取得資金について非課税枠を1000万円上乗せする住宅枠と、65歳未満の親にも適用する特例がありましたが、2010年からは住宅枠が廃止され、年齢要件の特例だけが2年間延長されることになりました。ただ、精算課税では暦年課税の非課税枠も併用できるので、トータルの非課税枠は4000万円のまま変わりません。(図表2)

  このほか2010年度の税制改正では、新築住宅の固定資産税の減額措置や長期優良住宅普及促進税制、買換えなどの場合の譲渡損失の繰越控除など各種特例が延長されています。最大で500万円(長期優良住宅の場合は600万円)の所得税控除が受けられる住宅ローン減税が2010年も受けられることを考えると、税制面では住宅が買いやすい環境が続いているわけです。

 さらに新政権は2009年12月に緊急経済対策を発表し、住宅版エコポイントの創設や住宅ローンフラット35Sの当初金利を1%引き下げる措置も打ち出しました。住宅版エコポイントでは新築住宅の場合、1戸当たり30万円のポイントがもらえることになっています。また試算によると、金利1%、10年間の引き下げにより、3000万円を35年返済で借りた場合の返済総額は200万円以上軽くなる計算です。

 このように税制をはじめとした住宅政策は購入者にとっては追い風が続いています。住宅価格が買いやすい状況になっていることもあり、2010年は住宅の買い時感が強まっているといえるでしょう。

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