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不動産市場の動向

専門家のコラム
大森広司
不動産市場の動向

株式会社オイコス代表取締役

大森 広司

2015年9月号

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公示価格や路線価から読み取る不動産市場の動向に関するコラムです。

路線価から読み解く2015年不動産市場の動き

全国平均で地価の下落幅が縮小、3大都市圏では上昇の動きが広がる

 国税庁から2015年の路線価が発表されました。路線価とは、相続税や贈与税を算出する際の基準となる地価のこと。毎年1月1日時点の地価を基に一連の宅地が面している道路ごとに1平米当たりの単価を定めています。
 地価の調査地点のうち住宅地や商業地、工業地などの標準宅地の前年からの変動率は、全国平均でマイナス0.4%。7年連続の下落となりましたが、下落幅は前年より0.3ポイント縮小しました。
 都道府県別では首都圏1都3県や大阪府、愛知県などで平均値が上昇しています。全国で上昇率が最も高かったのは、東日本大震災からの復興関連で土地の需要が高まった宮城県で2.5%の上昇。次いで福島県が2.3%のアップでした。この2県と沖縄県(0.3%アップ)を除くと、平均で地価が上昇したのはほぼ3大都市圏に限られます。
 今年の路線価の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の高橋雅之さんは次のように分析しています。
「3大都市圏以外でも、札幌や仙台、広島、福岡といった中核都市や、北陸新幹線の開業で賑わう金沢や富山などでも、中心部の駅前では地価が上昇していますが、周辺部までは上昇が波及していません。人口減少の流れもあり、地価上昇が都市の中心部に集中しているのが、今の不動産市場の特徴といえるでしょう」

東京オリンピックの開催決定や外国人観光客の増加も地価を押し上げ

 首都圏では、東京都の標準宅地の平均値が2.1%上昇し、前年の上昇率を0.3ポイント上回りました。また千葉県の上昇率(0.3%)も前年より高くなっています。一方で埼玉県は上昇率0.1%で前年と変わらず、神奈川県は0.6%と東京都に次いで高い上昇率ですが、前年より縮小しています。
「2013年にマンションなど住宅の実需が伸びて売買が活発化したため、昨年の首都圏の路線価も上昇しました。しかし2014年は消費増税の影響などで実需が伸び悩んだこともあり、都心近郊や郊外エリアの地価上昇が抑えられたようです」(高橋さん)
 一方で都心部や周辺エリアの中心部では地価上昇の動きが顕著です。東京都では中央区銀座5丁目の銀座中央通り(鳩居堂前)の上昇率が14.2%で、都道府県庁所在都市の最高路線価で全国一の上昇率でした。また川崎市の川崎駅東口広場通り(9.3%アップ)や横浜市の横浜駅西口バスターミナル前通り(7.1%アップ)、さいたま市の大宮駅西口駅前ロータリー(7.1%アップ)でも高い上昇率となっています。
「都心部では2020年のオリンピック開催決定で再開発の機運が高まったほか、秋葉原や浅草など、東アジア方面からの観光客や買い物客の多いエリアでも地価の上昇が強まっています。インバウンドの訪問客が増えることで、店舗やホテルの需要が高まることが、地価上昇につながっているようです」(同)

大阪市の再開発エリアで地価が上昇、京都市は中心部でマンション供給増

 近畿圏では大阪府で標準宅地の平均値が0.5%上昇したほか、京都府でも0.1%とわずかながら上昇に転じています。また滋賀県では前年の下落から横ばいに転じました。大阪国税局管内の最高路線価をみると、大阪市天王寺区の谷町筋の上昇率が12.8%で最も高く、同北区のJR大阪駅北側(10.3%アップ)や同阿倍野区のあべの筋(10.2%アップ)、同北区の御堂筋(10.1%)で上昇率が10%を超えています。また、京都市東山区の四条通も7.3%と高い上昇率になりました。
「景気拡大の影響もあり、あべのハルカスや大阪駅周辺など大阪市内の再開発エリアを中心に地価の上昇が目立っています。関西国際空港に格安航空会社(LCC)が多く就航していることもあり、東アジア方面からの訪問客が増えていることも、大阪市中心部の地価を押し上げているようです。また京都市では2014年に中心部で富裕層向けのマンション供給が活発になり、株価上昇による資産効果も追い風となって販売が好調なことが、地価上昇に影響していると考えられます」(同)

愛知県は地場産業の業績好調、福岡市は人口増加で地価が上昇

 中部圏では愛知県で標準宅地の平均値が2年連続で上昇しました。上昇率は前年より0.2ポイント縮小しましたが、1.0%アップと比較的高い上昇率です。名古屋市内では中村区の名駅通りが11.5%アップと高い上昇率になったほか、西区の広井町線通り(8.1%アップ)、東区の久屋大通り(6.9%アップ)、中区の大津通り(6.9%アップ)なども上昇が目立ちます。
 また九州では福岡県の標準宅地が平均値で前年の下落から今年は横ばいに転じました。福岡市では博多区の駅前通りが9.8%アップ、早良区の明治通りが6.7%アップ、中央区の渡辺通りが5.3%アップと、こちらも中心部での地価上昇の動きが強まっています。
「愛知県では自動車産業などの業績が好調で、賃金が上昇傾向にあることで住宅需要が伸び、地価上昇につながっているようです。さらにリニア新幹線の開業が2027年でほぼ固まったことから、今後も地価やマンション価格の上昇傾向が見込まれることも、不動産需要を下支えしていると考えられます。一方、福岡市は九州全土からの流入で人口が増えており、西の玄関口として東アジア圏からの観光客やセカンドハウスニーズが増加していることも、不動産市場の活性化に結びついているのでしょう」(同)

 こうしてみると、路線価の上昇は国内の景気回復に伴う不動産需要の高まりに加え、東アジア圏を中心としたインバウンドニーズが背景にあるといえそうです。2014年は消費増税により一時的に地価上昇に歯止めがかかったようですが、2015年に入っても景気は回復基調にあり、円安も続いています。加えて地価上昇の要因として、今年1月の相続税増税も挙げられると、高橋さんは指摘します。
「増税により相続税の課税対象が増えたことから、郊外の広い一戸建てに比べて評価額の圧縮効果が期待できる都市部のタワーマンションに、資産を組み替える動きが活発化しており、都市部の地価上昇に拍車をかけている格好です」
 ただ、こうした地価上昇は都心部や各都市の中心部では顕著に見られるものの、周辺部への波及はなかなか進んでいないのが現状です。今後、地価上昇の動きが広がるかどうかは、景気回復によって賃金上昇や雇用環境の改善につながるかどうかにかかっているといえるでしょう。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大森 広司Hiroshi Omori

1962年東京生まれ。立命館大学法学部卒業。
編集プロダクション勤務を経て2005年より株式会社オイコス代表取締役。
現在、『SUUMO新築マンション』『スーモジャーナル』『月刊ハウジング』『都心に住む』などで、住宅問題全般にわたって取材・執筆活動を続けているほか、WEBサイト『AllAbout「マンション入門」』で、はじめてマンションを購入する人向けサイトのガイドとして記事を配信。
また、『日経トレンディネット』などで住宅・不動産最新トレンドの執筆を担当している。
主な著書に『はじめてのマイホーム買うときマニュアル』、『マンション購入完全チェックリスト』(共に日本実業出版社)『新築マンション買うなら今だ!』(すばる舎)などがある。