2017年基準地価から読み解く現在の不動産市場
商業地の全国平均が2年連続のプラス 三大都市圏と地方四市が牽引
国土交通省がまとめた2017年の基準地価(都道府県地価調査)によると、住宅地は全国の対前年平均変動率がマイナス0.6%と26年連続で下落しましたが、下落幅は前年より0.2%縮小しました。三大都市圏はプラス0.4%と4年連続で上昇しましたが、地方圏はマイナス1.0%と、マイナス幅が縮小しつつも下落が続いています。また、地方圏のなかでも地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)はプラス2.8%と5年連続で上昇し、上昇の勢いを増しています。
一方、商業地は全国平均がプラス0.5%と、前年の横ばいから上昇に転じました。三大都市圏はプラス3.5%と5年連続で上昇し、上昇幅は0.6%拡大しています。地方圏はマイナス0.6%と下落が続いていますが、下落幅は0.5%縮小しています。また地方四市はプラス7.9%と5年連続で上昇し、住宅地と同様に上昇の勢いが強まっています。
全国の地価動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の高橋雅之さんは次のように分析しています。
「商業地を中心に、三大都市圏と地方四市の地価上昇が全国の地価を牽引しています。地方四市のなかでも札幌市と福岡市は好調な地方経済に加え、訪日外国人客の増加でホテルや商業施設のニーズが強まり、周辺エリアから人口が流入することで居住ニーズも高まるという好循環が起きているようです」
東京の城東・城北で住宅地が大きく上昇 商業地の上昇の勢いも続く
地域別に見ると、東京圏では住宅地の平均変動率が前年比プラス0.6%と4年連続で上昇し、上昇幅は対前年比0.1%拡大しました。特に東京都区部の上昇幅が大きく、区部都心部はプラス4.1%、区部北東部はプラス3.3%などとなっています。周辺3県も神奈川県を除いてプラスとなっており、横浜市や川崎市、さいたま市は1%前後の上昇でした。
また商業地はプラス3.5%と5年連続で上昇し、上昇幅は0.6%拡大しました。こちらも東京都区部の上昇幅が5%を超えるなど、東京都の上昇が目立ちます。さらに横浜市や川崎市、さいたま市も3%前後の高い上昇率となっています。
「住宅地は前年まで都心3区が大きく上昇していましたが、2017年はそれらの区の上昇率がやや鈍化し、代わって荒川区や北区、足立区といった城東・城北エリアの上昇率の伸びが顕著になっています。都心部では価格の上昇が一服しているのに対し、城東・城北エリアは価格に割安感があるため住宅ニーズが強まっているようです。
一方、商業地は引き続き都心部を中心に上昇に勢いがあり、中央区銀座ではバブル期の地価を超える地点がありました。日銀の金融緩和による超低金利と、2020年の東京オリンピックに向けた訪日外国人客の増加が続いており、今後も商業地の上昇傾向は変わらないでしょう」(高橋さん)
大阪市や京都市を中心に住宅地・商業地とも上昇傾向が顕著
大阪圏では住宅地の平均変動率が前年比0.0%と前年に続き横ばいでした。大阪市、神戸市、京都市の中心部では2%を超える上昇となっていますが、その他のエリアでは1%未満の上昇率がほとんどです。
これに対し、商業地の上昇率は大阪圏の平均で4.5%と高く、大阪市中心6区では前年に引き続き12%を超える上昇率となりました。京都市の中心5区では上昇率が13%を超えています。
「大阪圏の住宅地では特に大阪市内でこのところタワーマンションの分譲が活発になっており、東京や海外からの投資需要も高まっているようです。ただ、周辺エリアでは一戸建てがメインの市場となっており、地価や住宅価格の上昇は限られます。
一方で商業地では大阪市や京都市を中心に、訪日外国人客の増加にともなう商業施設やホテル用地の需要が好調です。特に大阪市では浪速区や中央区などの難波周辺、京都市では中京区や下京区、東山区で2ケタの上昇率が続いています」(高橋さん)
名古屋市、福岡市では住宅地・商業地とも引き続き上昇
名古屋圏は住宅地の平均変動率が前年比プラス0.6%、商業地がプラス2.6%と、ともに前年より上昇幅が0.1%伸びています。名古屋市は住宅地がプラス1.4%、商業地がプラス5.3%と比較的高い上昇率ですが、上昇幅は前年と変わりませんでした。
「自動車産業など地域経済が堅調なため、特に名古屋市東区や中区、昭和区などマンション分譲の活発なエリアで上昇が目立ちます。商業地はリニア中央新幹線の開業に向けて名古屋駅周辺でオフィスや商業施設の需要が強く、引き続き好調です」(高橋さん)
また福岡市では住宅地がプラス3.3%、商業地がプラス9.6%と、前年より上昇率が高くなっています。いずれも中央区や博多区、南区などで高い上昇率となっています。
「2020年に地下鉄七隈線が博多駅まで延伸する予定となっていることから、中心部での商業施設の需要が強く、人口流入が続いているため、居住ニーズも高まっています」(高橋さん)
都市部では住宅地・商業地とも上昇傾向が続いており、地域経済や観光需要の堅調なエリアでは今後も同様の動きが続くと予測されます。
「ただ、マンション価格が高騰した東京周辺では、2018年以降は価格調整の動きが強まることも考えられます」(高橋さん)
2019年には消費税率の10%への増税も控えており、今後の動きに注意しておく必要がありそうです。