2019年基準地価から読み解く不動産マーケット
全国平均の地価が2年連続で上昇 三大都市圏と地方4市の商業地が牽引
国土交通省が発表した2019年の基準地価(都道府県地価調査)によると、全国の林地を除いた全用途の宅地が前年比0.4%の上昇となりました。上昇は2年連続で、上昇率は前年(0.1%)より0.3%拡大しています。
住宅地の変動率は全国でマイナス0.1%と28年連続で下落しましたが、下落率は前年より0.2%縮小し、ほぼ下げ止まりに近い状態です。三大都市圏はプラス0.9%と6年連続で上昇し、上昇率が前年比で0.2%拡大しました。地方圏は0.5%の下落でしたが、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は7年連続で上昇し、上昇率は4.9%と前年より1.0%伸びています。
一方、商業地は全国平均で1.7%上昇し、3年連続の上昇となり、上昇率は前年より0.6%拡大しました。三大都市圏は7年連続の上昇となり、上昇率は前年比1.0%拡大して5.2%となっています。また地方4市は10.3%の上昇と、前年(プラス9.2%)より上昇幅が1.1%拡大して2ケタの上昇となりました。
全国の地価の動きについて、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「商業地の上昇を牽引しているのは、2013年からの国の政策で増加している訪日外国人客の動向です。大都市や観光地ではホテルや商業地の用地需要が高まり、北海道や沖縄など地方の地価上昇にもつながっています。都市部ではマンションの用地が不足し、周辺の住宅地にも上昇が波及している状況です」
地価が割安な城東・城北などマンション供給が活発なエリアで高い上昇率
地域別に動向を見ると、まず東京圏は住宅地の平均上昇率が1.1%と、前年より0.1%拡大し、6年連続で上昇しました。なかでも東京都区部は上昇率が4.6%と高く、前年比でも上昇幅が0.3%伸びています。特に区部都心部(プラス5.9%)と区部北東部(プラス5.1%)は5%を超える上昇率です。多摩地域や周辺3県の住宅地も上昇していますが、いずれも平均の上昇率は1%以下でした。
商業地の上昇率は東京都が7.0%と突出して高く、多摩地域や周辺3県は2~3%台の上昇です。区部都心部は9.8%、区部北東部は7.7%上昇し、川崎市やさいたま市も4%台の上昇となっています。
「住宅地の上昇率は新築マンションの供給が活発かどうかで差が出ているようです。千代田区や世田谷区など地価やマンション価格が高水準なエリアでは伸びが鈍化する動きが見られますが、荒川区や台東区など価格が割安な城東・城北エリアは高い上昇率を維持しています。駅周辺の再開発でマンション供給が活発な小金井市や、京浜東北線や埼京線で都心とダイレクトにつながるさいたま市大宮区や浦和区、川口市なども高めの上昇率です。また訪日外国人の増加で商業地やホテル需要が高まっている台東区や浦安市などでは商業地が2ケタの上昇になりました」(高橋さん)
訪日客増加とマンション需要の高まりで中心部の上昇率が拡大
大阪圏は住宅地の平均上昇率が0.3%と、2年連続で上昇しました。大阪市中心6区が3.6%、京都市中心5区が3.1%、神戸市東部4区が2.5%と、中心部はいずれも高い上昇率となっています。行政区別では京都市の上京区(プラス8.5%)、東山区(6.5%)、下京区(5.8%)が5%を超える上昇率です。
商業地は大阪市(13.1%)と京都市(11.5%)が2ケタの上昇となっており、神戸市も5.5%の上昇となりました。なかでも大阪市西区が22.9%の上昇率を記録するなど、大阪市や京都市の中心部では上昇率が20%を超えた行政区も見られました。
「訪日外国人の増加で観光業に従事する人の住宅ニーズが高まっている京都市の中心部や、タワーマンションやオフィスなどの開発が競合する大阪市の中心部では、引き続き地価の上昇率が高くなっています。さらに大阪市中心部への通勤利便性が高い堺市の堺区や北区、神戸市の中央区や灘区なども高い上昇率です。一方で池田市や吹田市などは新大阪駅からの近さでホテル需要が高まり、商業地の地価が2ケタ上昇しましたが、マンション供給は限定的で住宅地の上昇率は1%台にとどまりました」(高橋さん)
マンション開発で名古屋駅周辺の地価が高騰 福岡市は全区で地価上昇
名古屋圏は住宅地の平均上昇率が1.0%、商業地が3.8%と、いずれも上昇幅が前年より大きくなっています。なかでも名古屋市は住宅地が2.1%、商業地が7.5%と高い上昇率でした。
「行政区別では名古屋市の中区で住宅地の上昇率が25.4%と突出して高くなっており、名古屋駅周辺でタワーマンションなどの開発が活発化し、地価が高騰している様子がうかがえます。隣接する中村区や熱田区も6%台の上昇率です。一方で市内の東山エリアや春日井市、刈谷市などは一戸建てのニーズが強いこともあり、上昇率は1~3%台にとどまっています」(高橋さん)
一方、福岡市の平均上昇率は住宅地が5.3%、商業地が12.8%と、ともに前年より上昇幅が拡大しました。特に住宅地では中央区と南区の上昇率が7%を超え、商業地ではこの2区に加えて東区と博多区も2ケタの上昇となっています。
「インバウンド需要の高まりもあり、福岡市内ではすべての行政区で住宅地・商業地とも地価が上昇しています。とりわけ商業地は天神ビッグバンの影響でオフィス需要が高まっており、高い上昇率です」(高橋さん)
マンション供給が活発な都市部の住宅地や、ホテル・オフィスなどの需要が高まる商業地では引き続き地価の上昇傾向が強まっています。2019年10月に実施された消費税増税の反動は軽微なようですが、台風による水害などが地価にどう影響するか、今後の動向には注意が必要でしょう。
(データ提供:東京カンテイ)