2018年路線価の状況と不動産市場の動向
訪日外国人客の増加で地価上昇が拡大したエリアも
国税庁から発表された2018年の路線価により、全国の標準宅地の変動率の平均値が3年連続で上昇したことが分かりました。上昇幅は0.7%で前年の0.4%より拡大しています。
路線価は、一連の宅地が面する道路ごとに定められる1㎡当たりの土地の単価です。毎年1月1日時点の地価に基づいており、相続税や贈与税の税額を算出する際の基準となっています。
都道府県別の平均値を見ると、最も上昇率が高かったのは沖縄県で5.0%アップ。次いで東京都が4.0%アップし、震災復興が進む宮城県が3.7%のアップでした。
今年の路線価の状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「地価の上昇率が高かったエリアは、大都市圏か、または観光地で訪日外国人客が多く流入している地域が目立ちます。後者の代表例が沖縄県で、訪日客の増加を見込んでホテルなどの開業が相次いでいます。同県ではモノレールの延伸工事が進められ、人口が増加していることなども地価の押し上げにつながっているようです。一方で地価の下落が続くエリアでは下落幅が拡大している地域もあり、引き続き二極化が進んでいます」(髙橋さん)
銀座鳩居堂前の地価上昇率が鈍化。周辺3県は緩やかに上昇
首都圏では東京都の上昇率が前年より0.8%拡大したのをはじめ、神奈川・千葉・埼玉の3県も軒並み上昇率が拡大しました。
都道府県庁所在都市の最高路線価を見ると、「鳩居堂前」と呼ばれる東京・中央区銀座5丁目の銀座中央通りが4432万円/㎡で33年連続の全国トップ。前年からの上昇率は9.9%でした。また横浜市西区南幸1丁目の横浜駅西口バスターミナル前通りは13.3%アップ、さいたま市大宮区桜木町2丁目の大宮駅西口駅前ロータリーは10.4%アップと、いずれも2ケタの上昇率となっています。
「東京都では新築マンションの供給が価格高騰で減少気味でしたが、2016年後半ぐらいから復調してきており、地価上昇の要因となっています。ただし住宅地の上昇の動きは都心部よりも住宅価格が手ごろな城東・城北エリアにシフトしているようです。また3県では地価が上昇していますが、上昇幅はいずれも1%未満にとどまっています。これはマンションよりも価格に割安感のある新築一戸建ての供給が活発になっていることが影響しているようです。一戸建ては供給会社が地域の購入予算に合わせて物件の価格を設定する傾向が強いので、価格相場がなかなか上がらず、地価の上昇も限定的になっています。一方、商業地は東京都心で引き続き上昇していますが、『鳩居堂前』の上昇率は昨年の26.0%から今年は9.9%に縮小しており、上昇が鈍化する動きが見られます」(髙橋さん)
大阪中心部の上昇は一服。京都は訪日客効果で上昇拡大
近畿圏では京都府が2.2%、大阪府が1.4%の上昇と、いずれも前年より上昇率が拡大しましたが、兵庫県はマイナス幅が0.1%拡大してマイナス0.4%でした。
都道府県庁所在都市の最高路線価では、大阪市北区角田町の御堂筋が6.8%の上昇と、前年の15.7%より上昇幅が縮小しています。一方で京都市下京区の四条通は21.2%の上昇、神戸市中央区の三宮センター街は22.5%と上昇率が前年より伸びました。特に三宮センター街は全国の都道府県庁所在都市の中で最も高い上昇率となっています。
「京都は訪日外国人客の増加で中心部のホテル需要が伸び、商業地の地価上昇が顕著です。大阪は商業地の地価上昇がピークを越えて調整局面に入り始めているようですが、市内での活発なタワーマンション供給などの影響で住宅地は上昇傾向が強まっています。ただし大阪府内でも郊外ではマンションより一戸建てのニーズが強く、地価上昇は限定的な動きです。兵庫県ではこれまで住宅地として人気が高かった芦屋や岡本といったエリアから、より大阪に近い西宮や尼崎などで住宅ニーズが強まり、地価上昇にも反映しています」(髙橋さん)
名古屋はリニア効果で上昇続く。人口流入で福岡も上昇傾向
中部圏では愛知県が平均で1.5%上昇と、2年ぶりに上昇率が拡大しました。名古屋市の最高路線価である中村区名駅1丁目の名駅通りは13.6%の上昇と、こちらも2年ぶりに上昇率が拡大しています。
「自動車産業を中心とした地域経済が好調なうえ、リニア中央新幹線の開業への期待から2027年ごろまでは開発が続き、地価の上昇を下支えすると考えられます。特にマンションは東京や海外からの投資的なニーズが強まっており、地価上昇に拍車をかけているようです。一方で郊外の住宅地は実需が中心で、上昇は限定的です」(髙橋さん)
九州では福岡県が平均で2.6%の上昇となっており、前年より上昇率が0.7%拡大しました。福岡市の最高路線価である中央区天神2丁目の渡辺通りは11.1%の上昇と、昨年に続いて2ケタの上昇となっています。
「福岡市は東南アジアや中国などからの訪日外国人客の増加でホテルや商業施設のニーズが強く、人口の流入も活発です。また2020年度に地下鉄七隈線の延伸が予定されているなど、将来性への期待も地価上昇につながっているようです」(髙橋さん)
消費増税や東京五輪などのイベントで地価が引き続き強含み
こうしてみると、各エリアで訪日外国人客の動向が地価上昇に影響していることが分かります。逆に人口が流出している周辺エリアでは地価の下落に歯止めがかかっておらず、このような二極化の動きは今後も続くと髙橋さんは予測しています。
「2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京五輪とイベントが続き、訪日外国人客も増加すると予測されるため、その恩恵にあずかるエリアでは地価の上昇傾向が続くでしょう。また2019年には消費税増税も予定されており、今年秋以降は住宅市場でも駆け込み的な動きが出ると考えられます。ただしマンションはすでに価格が高くなっているため、上昇は限定的でしょう。一方でこうした流れの影響を受けにくいエリアでは、引き続き地価の下落が続きそうです」(髙橋さん)
社会・経済的なイベントが続くここ数年は、地価や住宅価格の動きに注意しておく必要がありそうです。