公示地価から見通す2017年の不動産市場
住宅地の全国平均が9年ぶりに上昇 地方中核都市は上昇幅が拡大傾向に
国土交通省が発表した2017年の公示地価によると、全国平均の変動率は住宅地が前年比プラス0.022%とわずかにアップし、9年ぶりに上昇に転じました。三大都市圏ではプラス0.5%と4年連続で上昇し、上昇幅は前年と変わりませんでした。一方、地方圏はマイナス0.4%と下落が続いていますが、下落幅は前年のマイナス0.7%より縮小。中核4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)はプラス2.8%と前年(同2.3%)からさらに上昇幅が拡大しています。
一方、商業地は全国平均でプラス1.4%と、前年(同0.9%)に続いて上昇し、上昇幅も拡大しました。三大都市圏ではプラス3.3%と前年(同2.9%)より上昇幅が0.4%拡大し、中核4市ではプラス6.9%と前年(同5.7%)よりさらに大きく上昇幅が拡大しています。
全国的な地価の状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように話しています。
「住宅地の全国平均は上昇幅がごくわずかなので、実質的には横ばいといえるでしょう。ただ、三大都市圏の中心部や地方中核都市など、人とおカネが集まる住宅地と商業地は確実に地価が上昇している状況です。」
東京都心部では地価上昇が頭打ち エリアにより異なる地価の動きに
地域別に見ると、東京圏では住宅地がプラス0.7%、商業地がプラス3.1%と、いずれも前年より上昇率が拡大しました。特に東京都の商業地は前年より上昇率が0.6%拡大し、プラス4.8%と高い伸びとなりました。なかでも東京都区部では上昇率が5.5%となっており、都心部寄りのエリアほど上昇の勢いが強まっています。また横浜市や川崎市、さいたま市など周辺都市でも3%前後の高い上昇率です。
一方、住宅地では東京都区部がプラス3.0%と比較的高い上昇率ですが、区部都心部や区部南西部では上昇率が前年より縮小しています。また横浜市や川崎市、さいたま市では上昇率が1%前後にとどまるなど、上昇率の拡大はほとんど見られませんでした。そんななか、多摩地域の武蔵野市や三鷹市では3%前後の上昇率を維持しており、中央線沿線エリアの根強い人気ぶりがうかがえます。
「東京圏の中でも居住ニーズの差が地価の動きに現れてきています。2014年の消費税引き上げ時には駆け込み的な需要増で地価が上昇し、その後も活発なマンション開発が地価を押し上げてきました。しかし、ここへきてマンションの供給エリアが縮小し、周辺3県では地価上昇の勢いが鈍化しています。一方で東京都心部ではマンション価格が一次取得者の手に届きにくい水準となったため、こちらも上昇は頭打ち傾向です。とはいえ利便性を求めて東京23区内のマンションを希望するニーズは根強いため、まだ価格が大きく上がっていない区部北東部で地価上昇の勢いが強まっている状況です。」(髙橋さん)
住宅地の伸びは大阪・京都の中心部限定 訪日外国人の増加などで商業地は上昇
大阪圏では住宅地の変動率が前年比0.0%と横ばいでした。大阪府も前年に続き変動率が0.0%となり、兵庫県ではプラス0.2%と前年より上昇率が0.2%縮小しています。そんななか、大阪市中心6区ではプラス3.4%と高い上昇率となっており、前年より0.4%拡大しています。また京都市中心5区も前年より0.6%伸びて1.6%の上昇となりました。
一方、商業地は大阪圏全体で4.1%と高い上昇率となっており、前年より0.8%拡大しています。特に大阪市中心6区は12.8%と前年に続いて2ケタの上昇となり、全国の商業地上昇率ランキングで上位5位までを大阪市中心部が占めました。また神戸市東部4区が5.1%、京都市中心5区が8.0%と、こちらも高い上昇率となっています。
「大阪圏では大阪市を除いて人口が減少気味となっており、住宅ニーズの高まりは限定的です。大阪市中心部のタワーマンションや京都市の高額物件など、地価を押し上げる要因も限られています。一方で訪日外国人の増加を反映して、ホテルや商業施設のニーズが高まっており、商業地の地価上昇が強まっている状況です。東京や大阪の中心部ではホテルニーズの高まりから、従来はマンション用地とされていた土地がホテル用地として高値で取引されるケースも増えているようです。」(髙橋さん)
名古屋市では地価上昇が頭打ち気味 人口増や地下鉄延伸で福岡市は上昇続く
名古屋圏は住宅地・商業地とも全体平均が上昇していますが、上昇率はいずれも前年よりやや縮小しています。特に名古屋市は住宅地がプラス1.2%、商業地がプラス4.8%と比較的高い上昇率ですが、前年の上昇率と比べると住宅地が0.4%、商業地が0.7%縮小しました。
「名古屋市の住宅地は地価上昇でマンション価格が高くなり、上昇の勢いが鈍っています。一方で西三河地域では自動車産業などの堅調な業績に支えられて住宅ニーズが根強く、地価上昇が続いている状況です。商業地の伸びも昨年までの勢いは鈍化しましたが、名古屋駅周辺などで息の長い開発が続いており、引き続き高い上昇率となっています。」(髙橋さん)
また福岡市では住宅地がプラス3.5%、商業地がプラス8.5%と上昇しており、上昇率はいずれも前年より拡大しています。住宅地では中央区(プラス6.2%)や南区(同4.8%)、商業地では博多区(同12.6%)や中央区(同9.5%)などで高い上昇率になりました。
「福岡市では人口の増加が住宅ニーズを支えており、全般的に住宅地の地価が上昇気味です。また2020年には地下鉄七隈線が博多駅まで延伸を予定している影響もあり、商業地のニーズも当面は堅調さが続くと予測されます。」(髙橋さん)
都市部では地価上昇でマンション価格が高騰し、上昇の勢いが鈍化する動きが見られます。「中心部の周辺では地価上昇が続いていますが、エリアは限定されており、周囲に大きく広がる状況ではありません。」(髙橋さん)
一方で商業地は訪日観光客の増加や都市開発の影響もあり、中心部などで高い上昇が続いています。今後も当面は同様の動きが続くとの見方が強まっています。