2023年公示地価から読み解く不動産市場の動向
三大都市圏、地方圏とも地価上昇幅が拡大
国土交通省から発表された2023年1月1日時点の公示地価によると、全国・全用途の平均変動率は前年比プラス1.6%でした。コロナ禍の影響で2020年はマイナスとなりましたが、2年連続で上昇し、上昇幅は昨年の0.6%から拡大しています。
三大都市圏平均では住宅地がプラス1.7%、商業地が同2.9%と、いずれも上昇幅が昨年より拡大しました。また地方圏平均でも住宅地が同1.2%、商業地が同1.0%と、いずれも上昇幅が拡大しており、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は住宅地が同8.6%、商業地が同8.1%と、高い上昇率となっています。
全国的に地価の上昇傾向が強まっている状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは以下のように分析しています。
「公示地価には昨年の1月〜10月の地価の動きが主に反映されていますが、コロナ禍の影響は薄まりつつあります。“人・モノ・カネ”が集まる地域の地価が大きく上昇するという、コロナ前と同様の2極化の動きが鮮明になってきました。住宅地は根強い需要があることに加え、ウクライナ戦争後の日本と欧米の金融政策の違いによる円安で海外の投資マネーが国内の不動産市場に流入し、都市部を中心に高騰が続いています。一方、商業地は主に国内の観光需要などの回復による地価の押し上げが目立つ状況です」
東京圏は都心近接エリアの住宅地、中心部の商業地が大きく上昇
地域別の動向を見ると、東京圏の住宅地はプラス2.1%と、昨年の同0.6%から大幅に上昇率が拡大しました。東京都区部は同3.4%と高い上昇率となっており、なかでも区部都心部は4.1%アップしています。また、さいたま市(同2.8%)や千葉県(同2.6%)も上昇率が2%を超えました。
一方、商業地もプラス3.0%と、昨年の同0.7%から大きく上昇幅を広げました。特に東京都区部(同3.6%)や横浜市(同3.4%)、川崎市(同4.3%)、さいたま市(同3.3%)、千葉市(同3.6%)など、中心部での上昇率が高くなっています。
「全般的に地価上昇エリアが拡大していますが、特に東京23区に近接するエリアの回復が目立ちます。例えば浦安市はマンション供給が活発化しており、住宅地はプラス9.7%の高い上昇率です。また、市川市や船橋市、柏市、川口市、戸田市など都心へのアクセスの良いエリアは軒並み住宅地の上昇率が高くなっています。一方で都心まで乗り換えが必要だったり、通勤時間が1時間30分以上かかるエリアなどは、そこまで高い上昇率にはなっていません」(髙橋さん)
大阪圏は住宅地の上昇が拡大。商業地も上昇に転じる
大阪圏の住宅地はプラス0.7%と2年連続で上昇し、上昇幅は昨年の同0.1%から拡大しました。特に大阪市中心6区(同3.0%)や堺市(同1.8%)、神戸市東部4区(同2.0%)で上昇幅が大きくなっており、京都市中心5区も同1.4%の上昇です。
一方、商業地は大阪圏全体でプラス2.3%と、昨年の0.0%から上昇に転じました。なかでも昨年マイナス1.8%だった大阪市中心6区が今年はプラス3.9%と、大きく反転上昇しています。大阪市全体でも同3.3%の上昇となったほか、堺市(同3.7%)や京都市(同3.3%)も3%台の上昇となりました。
「大阪市や神戸市の中心部ではマンション開発が市場を牽引しており、京都市中心部でもコロナ禍で中断していた富裕層向け物件の開発が再開しています。大阪市では24区すべてがプラスになっていますが、マンション開発の有無で上昇率には差が出ています。堺市も堺区や北区など大阪市寄りのエリアは住宅地の上昇率が高めですが、中区や南区は1%前後の上昇にとどまっています。大阪市の商業地はホテルやオフィスビルの開発が進む梅田周辺で上昇傾向が強まっており、ミナミ地区でも国内の観光客が戻りつつあり下落傾向を脱した様子です」(髙橋さん)
名古屋市、福岡市とも地価上昇が拡大。周辺エリアも上昇
名古屋圏は住宅地がプラス2.3%、商業地が同3.4%といずれも2年連続の上昇となり、昨年より上昇率が高くなっています。特に名古屋市は住宅地が同3.7%、商業地が同5.0%と大きく上昇し、西三河地域も住宅地・商業地とも3%台の上昇率です。
「名古屋市は名駅周辺でのタワーマンションやオフィスビルの開発が起爆剤となり、地価を押し上げています。なかでも中区では住宅地がプラス11.1%と高い上昇率になりました。また自動車産業の業績が好調なことから西三河や知多地域でも地価が回復しており、刈谷市や安城市、東海市、大府市などで高めの上昇率となっています」(髙橋さん)
福岡県は住宅地がプラス4.2%、商業地が同5.3%と、いずれも昨年を上回る上昇となりました。福岡市は住宅地が同8.0%、商業地が同10.6%と、こちらも上昇幅が拡大しています。
「福岡市では天神ビッグバンや今年3月に開業した地下鉄七隈線の延伸などで利便性が高まっており、九州各地から人が集まることで住宅ニーズも強まっています。また周辺地域にもニーズが波及しており、古賀市や大野城市、筑紫野市などで住宅地・商業地とも高い上昇率となっています」(髙橋さん)
金利先高感や実質賃金の低下が住宅ニーズに影響する可能性も
コロナ禍の影響が一段と弱まった今年の公示地価は、住宅地、商業地とも昨年より上昇率が拡大したエリアが目立っています。各都市の中心部では引き続きマンションニーズが強く、京都市などでは高額物件の供給も復調しつつあることから、住宅地の上昇率が押し上げられているようです。低金利を背景とした実需ニーズの高まりは近郊エリアにも波及していますが、マンション開発が活発な都心周辺部と、都心へのアクセスに時間を要するエリアとで、上昇率に差が出る傾向も見られます。一方、商業地では国内の観光・飲食需要の回復から地価の上昇傾向が強まっており、円安に支えられた海外からの投資マネーやインバウンド需要への期待も高まっています。今後の地価の見通しについて、髙橋さんは次のように予測してくれました。
「昨年末に訪日外国人向けの水際措置が緩和されたこともあり、中心部ではインバウンド需要の回復による地価の押し上げが引き続き期待されます。なかでも大阪市では関西万博の開催やIR開業などのイベントが控えており、今後の盛り上がりが見込まれるでしょう。一方、地価の高騰に加え、金利の先高感が出てきていることから、郊外エリアでは一部で実需ニーズに翳りも見えつつあります。特に中古マンションは在庫が増加していることもあり、売れ行き不振から価格を引き下げる動きも出ているようです。今後、物価が一段と高まり、実質賃金が低下する状況が続けば、中古を中心とした住宅マーケットの風向きが変わる可能性もあるでしょう」
今後の地価や住宅市場の動向には、日銀による金融政策や企業による賃上げの動きなども影響してくると考えられます。
(データ提供:東京カンテイ)