公示地価から読み解く2018年不動産マーケット
都市部の中心や周辺エリア限定で地価上昇の波が広がる
国土交通省から発表された2018年1月1日時点の公示地価によると、全国平均の住宅地の変動率が0.3%アップし、10年ぶりの上昇となりました。三大都市圏平均は0.7%アップで5年連続の上昇、地方圏平均はマイナス0.1%で26年連続の下落です。地方圏の住宅地は下落が続いていますが、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は3.3%アップと、高い上昇率となっています。
一方、商業地の全国平均は1.9%アップし、3年連続で上昇しました。三大都市圏平均は3.9%アップで5年連続の上昇。地方圏平均も0.5%アップし、26年ぶりに上昇に転じています。また地方4市は7.9%アップと、こちらも高い上昇率となっています。
地方圏の住宅地を除き、地価上昇の動きが強まっていると見られる現状について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の高橋雅之さんは次のように分析しています。
「地価上昇の波が広がりつつありますが、大都市の隣接エリアなど利便性の高い場所に限定されています。地方では地方4市のほか、県庁所在地の中心エリアなどで地価が上昇していますが、少しエリアが外れると下落が続いているケースが少なくありません」
東京都心部の上昇率が鈍化し、城東や城北などで拡大の動き
地域別に見ると、東京圏の住宅地が1.0%アップ、商業地が3.7%アップと、いずれも前年より上昇幅が拡大しています。住宅地では東京都区部が3.9%と前年に続いて上昇率が3%を超えました。なかでも区部都心部は4.6%と高い上昇率ですが、区部北東部も4.1%と、2.5%だった前年と比べて上昇幅が伸びています。都区部以外では、武蔵野市(3.1%)やさいたま市大宮区(2.4%)、川崎市中原区(2.3%)なども比較的高い上昇率です。
一方、商業地でも東京都区部の上昇率が6.4%と高く、前年(5.5%)から0.9ポイント伸びています。区部都心部は7.1%と高い上昇率ですが前年(6.8%)からの伸びは0.3ポイントにとどまり、区部北東部は5.5%で前年(3.4%)から2.1ポイント伸びました。ほかに川崎市(3.9%)やさいたま市(3.1%)で上昇率が3%を超えています。
「都区部では中心部の上昇が鈍化し、これまで地価が割安だった城北や城東エリアで上昇の動きが目立っています。東京圏の市区で最も上昇率の高かったのは荒川区(6.1%)で、次いで北区(5.6%)でした。これらのエリアは一戸建てニーズが強いため、価格が高騰した新築マンションよりも割安な新築一戸建てを選ぶ人が増えているようです。立川市やさいたま市、川崎市など都区部の外周部でも同様の傾向が見られます」(高橋さん)
大阪圏では訪日外国人の増加が地価押し上げの要因に
大阪圏では住宅地の上昇率が0.1%とごくわずかでしたが、商業地は4.7%アップし、上昇幅が前年(4.1%)から0.6ポイント伸びています。商業地では特に大阪市中心6区が12.1%アップと前年(12.8%)から若干下がったものの、引き続き高い上昇率です。また京都市中心5区(10.5%)や神戸市東部4区(8.2%)も高い上昇率となっており、いずれも前年より上昇幅が伸びています。
一方、住宅地でも大阪市中心6区(3.8%)や神戸市東部4区(2.1%)、京都市中心5区(2.5%)では比較的高い上昇率となっています。市区別では大阪市西区(10.5%)や同浪速区(7.6%)、京都市中京区(6.8%)などの上昇率の高さが目立っています。
「大阪圏は訪日外国人が増えていることの影響が大きいようです。アジアなどからLCC(格安航空会社)を利用して来日する外国人向けに、サービス業や宿泊業が活況となっており、そこで働く人の居住ニーズが高まっていることも地価を押し上げています。特に京都市中心部ではホテル以外に民泊やゲストハウスの需要が強く、これらは住宅街にも立地することから住宅地の地価に影響するのです。また大阪市内ではタワーマンションの供給が活発ですが、東京や京都に比べて物件価格に割安感があり、高い利回りが期待できることから、東京や海外からの投資マネーも流入しています」(高橋さん)
一戸建てニーズ強まる名古屋圏 福岡市は人口増や交通網整備で地価上昇
名古屋圏では住宅地が0.8%アップ、商業地が3.3%アップと、いずれも前年より上昇率が高くなっています。住宅地では西三河地域の上昇率が1.4%と高く、名古屋市(1.3%)を上回りました。一方、商業地では名古屋市(6.2%)が高く、なかでも中村区と中区がともに12.2%と2ケタの上昇となっています。
「自動車など地域産業の業績が堅調なため、西三河地域などでは一戸建てを中心とした住宅ニーズが強く、地価上昇の勢いが増しています。また名古屋駅周辺や伏見、栄といった名古屋市の中心部では商業施設やオフィスビルの再開発が進み、タワーマンションの供給も活発です。転勤者など若い世代で職住近接のニーズが強まっており、中心部への利便性の高い70㎡未満のマンションが売れ行き好調なようです」(高橋さん)
また福岡市では住宅地が4.3%アップ、商業地が10.6%アップと、こちらも前年より高い上昇率でした。住宅地では中央区(6.9%)や南区(6.1%)が6%を超える上昇率となっており、商業地では博多区(13.8%)、中央区(12.3%)、東区(10.4%)が2ケタの上昇率となっています。
「九州各地から若い世代などが福岡市に流入しており、人口の増加が地価上昇につながっています。訪日外国人が増加していることもプラスに影響しているでしょう。今後も福岡空港の第2滑走路整備や、地下鉄七隈線の博多駅への延伸が予定されており、地価の上昇傾向が続くと予測されます」(高橋さん)
各都市の中心部ではマンション価格が高騰し、一部では相対的に割安感が強まった一戸建てにニーズがシフトする動きが見られます。一方で訪日外国人客の増加で観光ニーズの見込めるエリアの商業地や住宅地で上昇率が高まっており、2020年の東京五輪などを見据えて今後も堅調な地価動向が続くとの見方が多くなっています。