2024年公示地価から読み解く不動産市場の動向
円安による追い風でインバウンド需要が回復し、地価を押し上げ
国土交通省がまとめた2024年1月1日時点の公示地価によると、全国・全用途の平均変動率は前年比プラス2.3%と3年連続で上昇し、上昇幅は昨年の1.6%から拡大しました。
三大都市圏平均では住宅地がプラス2.8%、商業地が同5.2%と、いずれも上昇幅が拡大しています。また地方圏平均では住宅地が前年と同じくプラス1.2%、商業地が同1.5%で上昇幅が拡大しました。地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は住宅地が同7.0%、商業地が同9.2%と高い上昇率でしたが、住宅地の上昇率は昨年(8.6%)より縮小しています。
全国的に地価の上昇傾向が続いている状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「今回の公示地価ではすでに記載がありませんが、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行した影響が地価に反映していることは明らかです。円安による追い風もあり、海外からのインバウンド需要が強まり、住宅地・商業地とも上昇傾向が強まっています。中国からの訪日客はまだ回復していませんが、代わりに欧米や中南米、東南アジアなどから投資マネーと観光客が流入し、都心だけでなく観光地やリゾート地の地価も押し上げている状況です」
東京都心の価格高騰で周辺3県に住宅ニーズがシフト
地域別に見ると、東京圏の住宅地はプラス3.4%と3年連続で上昇し、上昇幅は昨年の同2.1%から拡大しました。東京都区部は同5.4%と上昇しており、なかでも区部都心部は同7.1%と高い上昇率です。また、川崎市(同3.2%)や千葉市(同3.7%)なども上昇率が3%を超えています。
一方、商業地もプラス5.6%と上昇し、3年連続の上昇となりました。区部都心部で7.3%の上昇となったのをはじめ、東京都区部(プラス7.0%)、横浜市(同6.0%)、川崎市(同7.1%)、千葉市(同7.4%)などで高い上昇率となっています。
「神奈川県の相鉄・東急直通線や千葉市の幕張豊砂駅など、新線・新駅の開業効果で地価が大きく上昇したエリアが目立ちます。また最近では都心の物件価格が高騰しているため、実需層が周辺3県で住宅を求める動きが強まっているようです。ただ価格が安ければいいというわけではなく、流山市や川口市、戸田市など都心へのアクセス性に優れ、行政による子育て支援策が手厚い地域にファミリーの需要が集中しています。一方、都心では海外の富裕層も含めた投資ニーズが強まっており、面的な開発が進むエリアでは住宅地・商業地の区別なく地価の上昇度合いが高まっています」(髙橋さん)
大阪市中心部は大型開発で堅調な動きが続く
大阪圏の住宅地はプラス1.5%と3年連続で上昇し、上昇幅は昨年の同0.7%から拡大しました。特に大阪市中心6区で同5.5%、神戸市東部4区で同2.9%、京都市中心5区で同2.9%と、都市中心部で上昇率が高くなっています。
商業地は大阪圏全体でプラス5.1%と2年連続で上昇し、昨年の同2.9%から上昇幅が拡大しました。大阪市(同9.4%)や京都市(同6.6%)で高い上昇率となっており、なかでも大阪市中心6区は同11.6%と2桁の上昇率となっています。
「大阪市内は東京都心と同様にタワーマンションの供給が活発化しており、さらにインバウンドの回復でミナミ地区を中心にホテルや商業施設の需要も高まっているため、住宅地・商業地とも上昇しやすい状況です。関西万博やうめきた2期地区の再開発といったイベントや大型開発が進行しているため、今後もしばらくは堅調な動きが続くでしょう。ただ、住宅地は大阪市や京都市の中心部を除くと一戸建ての需要が強いため、地価の上昇は比較的緩やかです」(髙橋さん)
名古屋市、福岡市とも地価上昇幅が拡大。周辺エリアにも波及
名古屋圏は住宅地がプラス2.8%、商業地が同4.3%といずれも3年連続で上昇し、上昇幅は昨年より拡大しました。特に名古屋市は住宅地が同4.5%、商業地が同6.0%と大きく上昇し、西三河地区も住宅地が同3.2%、商業地が同4.1%と高めの上昇率です。
「名古屋市ではリニア中央新幹線の開業に向けて名駅周辺や栄、伏見などでタワーマンションの開発が進んでいます。名駅周辺では東側だけでなく西側や南側でも開発が活発化しており、地価の上昇傾向が強まっている状況です。また円安の影響で自動車産業の業績が好調となり、西三河地区での住宅需要の高まりが地価を押し上げています」(髙橋さん)
福岡県は住宅地がプラス5.2%、商業地が同6.7%と、いずれも上昇率が昨年を上回りました。福岡市も住宅地が同9.6%、商業地が同12.6%と、上昇幅が拡大傾向となっています。
「福岡市は地下鉄七隈線延伸や福岡空港の第2滑走路増設など交通アクセスの改善が進んでおり、インバウンド向けにホテルなどの需要も高まっています。九州各地からの人の流入で人口も増加傾向にあり、居住ニーズが広がっているため筑紫野市や古河市など周辺エリアにも地価上昇が波及している状況です」(髙橋さん)
利上げの動きは限定的。物価上昇が地価に影響する可能性も
コロナ禍の収束で経済が回復してきたことで、全般的に地価の上昇傾向も強まっています。なかでも東京都区部や大阪市ミナミ地区、京都市中心部など、インバウンド需要が高まっているエリアでは商業地の上昇が顕著です。一方で東京都心では住宅価格が高騰したことで実需層による住宅需要が周辺地域に波及する動きも見られます。ただし都心への交通アクセスの良いエリアにニーズが集中しており、郊外との価格差が広がってきているようです。今後もそうした状況は続きそうだと、髙橋さんは予測しています。
「日銀の利上げで市場の流れが変われば地価の動きにも変化が起きると思われますが、利上げのペースは当初の見通しに比べて遅くなっており、当面の影響は限定的でしょう。日米の金利差による円安の流れも変わっておらず、海外からの投資マネーで東京都心の不動産価格が高騰する構図も続きそうです。そんななか、物価の上昇による家計への負担増が実需層による住宅需要に影響し、周辺エリアの地価上昇が鈍化する可能性はあるでしょう」
日銀による金融政策や為替の動向が、今後の地価に与える影響にも注視していく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)