2022年路線価から読み解く不動産市場の現状と今後
コロナ禍で落ち込んだ昨年から一転して2年ぶりに上昇
国税庁が発表した2022年の路線価によると、標準宅地の変動率の全国平均は前年比プラス0.5%と、2年ぶりに上昇しました。
路線価とは土地1㎡当たりの価格を道路ごとに定めるもので、その道路に面する一連の宅地の地価を表します。毎年1月1日時点で調査する公示地価を基準としており、相続税や贈与税の算定基準になるものです。
都道府県別で上昇率の平均値が最も高かったのは4.0%の北海道で、前年の上昇率より3.0%拡大しました。次いで上昇率が高かったのは3.6%の福岡県です。ほかに宮城県が2.9%上昇するなど、全国20の都道府県で平均値が上昇し、昨年の7道県から約3倍に増えました。
今年の路線価の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「コロナ禍の影響を受けた昨年は変動率の全国平均がマイナス0.5%だったので、今回はちょうどコロナ前の水準に戻った形です。マンション価格が上昇を続けるなど住宅地は地価が回復していますが、商業地はインバウンドの消失などによる需要の落ち込みが続いているエリアが少なくないようです。そんな中でも北海道は新幹線の延伸をにらみ、札幌駅周辺での再開発が活気を帯びているなど、仙台、広島、福岡を含む地方四市では地価の回復が鮮明になっています」
1都3県とも地価が上昇。東京都心の商業地は下落傾向
首都圏では東京都の上昇率が1.1%と昨年の下落(マイナス1.1%)から回復するなど、1都3県とも上昇しました。
都道府県庁所在地の最高路線価では東京都中央区の銀座中央通り(鳩居堂前)が37年連続で全国トップになりましたが、変動率はマイナス1.1%と2年連続の下落となっています。一方でさいたま市の大宮駅西口駅前ロータリーや千葉市の千葉駅前大通り、横浜市の横浜駅西口バスターミナル前通りは3〜5%台の上昇でした。
「東京都心でも訪日外国人客によるインバウンド需要に依存していた商業地は集客面で苦戦が続いており、地価の下落が続いています。テレワークと出社を組み合わせたハイブリッドな働き方が広がってきていることもあり、オフィス系のエリアも地価が回復しきれていません。一方で近郊・郊外で地域の拠点となるエリアは経済活動が活発になっており、なかでも中野駅や横浜駅といった再開発が進む地域は地価の上昇が顕著です。埼京線沿線など都心へダイレクトにアクセスできるエリアでも、活発なマンション開発が地価を押し上げています」(髙橋さん)
大阪中心部は下落傾向。京都市は観光需要で反転上昇
近畿圏では大阪府の変動率が前年のマイナス0.9%からプラス0.1%へと上昇に転じ、京都府もマイナス0.6%からプラス0.2%に上昇しました。兵庫県はマイナス0.2%と、3年連続で下落しています。
都道府県庁所在地の最高路線価では、大阪市の御堂筋(阪急うめだ本店前)がマイナス4.0%、神戸市の三宮センター街がマイナス5.8%と、ともに2年連続の下落となりました。一方で京都市の四条通はプラス3.1%と、前年のマイナス3.0%から上昇に転じています。
「大阪市では港区のように最高路線価の変動率がプラスに転じたエリアもありますが、浪速区や阿倍野区では下落が続いています。特にミナミの商業地はインバウンドへの依存度が高かったため、回復が遅れている状態です。これに対し、京都市は国内客や修学旅行生による観光需要が高まり、上昇に転じたエリアが増えています」(髙橋さん)
再開発の進展で名古屋市は反転上昇。福岡市は上昇幅が拡大
中部圏では愛知県の変動率がプラス1.2%と、前年のマイナス1.1%から上昇に転じました。名古屋市の最高路線価である名駅通りも前年のマイナス1.3%からプラス1.3%に回復しています。
「愛知県ではコロナ禍で一時ストップしていた建築工事が再開し、名駅周辺から栄にかけての再開発が活発になって地価も回復しています。また自動車産業の業績回復も地価に反映していますが、2022年に入ってからのウクライナ侵攻や中国でのロックダウンの影響が織り込まれておらず、今後の地価の動きには注意が必要です」(髙橋さん)
福岡県の上昇率はプラス3.6%と、前年(プラス1.8%)より1.8%拡大しました。ただ、福岡市の最高路線価である渡辺通りは2年連続の横ばいとなっています。
「福岡市は中心部で『天神ビッグバン』が進むなど再開発が活発化しており、九州各地からの人口集中もすすんでいます。地下鉄七隈線の延伸が2023年3月に予定されるなど、複合的な開発が求心力を生んでいる稀有な地域です。延伸が実現して利便性が顕在化すれば、さらに地価を押し上げることになるでしょう」(髙橋さん)
住宅需要は根強いが、今後は原材料費の高騰が懸念材料に
昨年はコロナ禍の影響を受けて地価下落の動きが広がりましたが、今年は住宅地や近郊・郊外の商業地を中心に上昇に転じるエリアが増えています。とはいえ、東京や大阪の都心部などではインバウンドの消失やオフィス需要の縮小などの影響から、地価の下落が続いている状況です。今後の地価の動きについて、髙橋さんは以下のように話してくれました。
「根強い住宅需要を反映して住宅地の地価は上昇傾向が続いていますが、マンション価格が高騰していることもあり、今後は上昇の鈍化が避けられないでしょう。米国では金利の急上昇で住宅の売れ行きに陰りが見られることから、日本の住宅価格にも影響が波及する可能性もあります。一方、商業地については長引くコロナ禍に加え、ウクライナ侵攻や円安の影響から原材料費が高騰し、飲食業を中心とした業績の低迷が地価の下押し要因となることが懸念されるところです」
今後はコロナ禍だけでなく、世界の政治経済情勢も日本の地価や住宅価格に大きく影響することになりそうです。
(データ提供:東京カンテイ)