2011年基準地価から読み解く今後の不動産市場
全国の住宅地は20年連続で下落 都市圏で地価が横ばいに向かう
国土交通省が発表した2011年の基準地価(都道府県地価調査)によると、7月1日時点の対前年比変動率(以下同)は全国の住宅地がマイナス3.2%となり、20年連続の下落。同じく商業地がマイナス4.0%で4年連続の下落となりました。下落幅は前年と比べて住宅地が0.2ポイント、商業地が0.6ポイント縮小しています。三大都市圏の変動率をみると、いずれも住宅地・商業地ともに前年より小さくなりました。
三大都市圏の変動率の推移グラフからは、2007年をピークとするミニバブルからの落ち込みが底を突き、地価下落に歯止めがかかりつつあるように見えます(図表1・2)。しかし、東日本大震災のあった2011年1~6月に限ると、大阪圏では前期より下落率が縮小していますが、東京圏と名古屋圏では拡大しました。これをもって震災後の地価は西高東低とする見方もありますが、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員・中山登志朗氏の分析はやや異なるようです。
「地方圏では昨年より下落幅が大きいエリアもありますが、都市圏では地価が横ばいの方向に向かいつつあります。地価は二極化の動きを強めており、都市圏では弱含みながら徐々に安定してきていると見ていいでしょう」
東京圏では都心寄りのエリアや地盤の安定した地域などが横ばいへ
では圏域ごとの動きを少し細かく見ていきましょう。
まず東京圏ですが、全体では住宅地がマイナス1.9%、商業地がマイナス2.3%と、いずれも前年に比べて下落幅が縮小しています(図表3)。
なかでも住宅地では千代田区(マイナス0.8%)や中央区(マイナス0.9%)など区部都心部のほか、区部南西部(マイナス0.9%)など都心寄りの地域で下落幅が1%未満と、ほぼ横ばいといっていい動きです。
都区部以外では、武蔵野市(マイナス0.2%)や三鷹市(マイナス0.5%)のほか、川崎市中原区(マイナス0.2%)などでも地価が下げ止まりつつあるといえるでしょう。
逆に震災による液状化の被害を受けた浦安市では、住宅地がマイナス7.1%と前年(マイナス1.9%)から大幅に下落幅が拡大しました。同様に千葉市美浜区(マイナス5.2%)や取手市(マイナス4.5%)でも下落幅が広がっています。浦安市では商業地もマイナス5.0%と比較的大きな下落幅となりましたが、下落率は前年(マイナス5.5%)よりやや持ち直しました。
「東京圏では地価が上昇に転じるまでにはいたっていないものの、下げ止まる方向にあることは明らかです。ただ、震災を機に都心寄りのエリアや地盤の安定した地域の評価が高まっており、今後は不動産価格と安全性のバランスが重視される傾向が強まるとみられます」(中山氏)
地価が横ばいとなった地点として、墨田区の押上駅周辺の商業地も挙げられます。東京スカイツリーの建設地に近く、将来性の期待による潜在的需要が強まっているようです。また藤沢市と茅ヶ崎市にかけての辻堂駅周辺エリアも、大規模商業施設(湘南シークロス)の開発に伴い、住宅地の需要が増大して地価が横ばいとなっています。
大阪圏の住宅地は39地点で地価上昇 大阪市や神戸市の中心部も下げ止まり
次に大阪圏ですが、全体では住宅地がマイナス1.8%、商業地がマイナス2.6%と、こちらも下落幅が前年より大幅に縮小しています。
特に大阪市中心6区(マイナス0.7%)、神戸市東部(マイナス0.3%)など都市中心部での下落幅が小さくなっているほか、住宅地として人気の高い阪神地域(マイナス0.8%)などがほぼ横ばいです(図表4)。
また行政区別では大阪市の福島区と北区、それに伊丹市が0.0%と横ばい。京都市上京区(マイナス0.1%)、池田市(マイナス0.7%)などが1%未満の下落幅でした。大阪圏では住宅地のうち39地点が上昇に転じており、1地点のみ上昇の東京圏と比べてたしかに地価の下げ止まり感が強まっているように思えます。とはいえ、これをもって“西高東低”と考えるのは早計のようです。
「大阪圏は東京圏と比べて地価水準が低く、ミニバブルのときの地価上昇も限定的でした。長く続いた地価下落で価格調整が進み、ようやくここへきて需要が戻りつつあるというのが実態だと考えられます」と中山氏は指摘しています。
なお、芦屋市では住宅地が0.9%と上昇に転じています。また京都市中京区では烏丸御池駅や神宮丸太町駅周辺の商業地で地価が上昇しましたが、これは室町通りや寺町通りといった「通りのブランド力」によって店舗やマンションの需要が堅調だったためということです。
地下鉄延伸で活況が続く名古屋圏 九州圏でも新幹線開業の影響が強まる
名古屋圏では、住宅地がマイナス0.7%、商業地がマイナス1.1%と、どちらも下げ止まり感が強まりました。特に名古屋市の住宅地はマイナス0.1%と、ごくわずかな下落にとどまっています(図表5)。なかには緑区(1.0%)や千種区(0.2%)のように上昇した行政区も。緑区は前年の0.4%に続き、上昇率が拡大しています。
「緑区では今年3月に地下鉄桜通線が延伸されたことで、地価の押し上げ効果が今年も強まりました。
また名古屋市内ではここ数年、新築マンションの供給が極端に減っていましたが、今年後半から大規模マンションやタワー物件の供給が相次ぐ予定です。これらの物件の売れ行きが好調に推移すれば、市全体の地価がさらに押し上げられることになるでしょう」(中山氏)
一方、九州圏では、福岡市の住宅地がマイナス1.7%と下落幅が縮小しました(図表6)。特に中央区(マイナス0.8%)や早良区(マイナス0.5%)など市内中心部ではほぼ横ばいとなっています。市内では地価が上昇する地点も登場しており、博多駅周辺では商業地3地点が上昇しました。
「今年3月の九州新幹線鹿児島ルート全線開業や、博多駅ビル開業の効果が現れています。新幹線の利用は今のところ期待ほど高まってはいないようですが、今後定着していけばさらに不動産市場も活気づくと思われます」(中山氏)
このほか熊本市の熊本駅周辺や、鹿児島市の鹿児島中央駅周辺でも、九州新幹線全線開業にともなって観光客の増加やマンション・一戸建て用地の需要増により、地価が横ばいから上昇となった地点がいくつか見られました。
このように三大都市圏や九州圏では、交通利便性の高い中心部などで地価が回復する動きが鮮明になっています。今後の不動産市場は景気次第という面もありますが、地価は安定化に向かう可能性が高いというのが中山氏の予測です。
「円高による都市圏の空洞化といった見方もありましたが、今のところそうした兆候はほとんど見られません。今後は大震災の復興需要により被災地での地価が回復する可能性も高く、大都市圏を中心に地価が横ばいから上昇に転じるケースも増えると見られます」
減税などの政策効果は徐々に薄まりつつありますが、住宅エコポイントやフラット35Sの金利引き下げは復活も検討されています。住宅ローンの金利も引き続き低水準となっており、今後しばらくは不動産を買いやすい状況が続きそうです。
ワンポイント豆知識
●基準地価
- 都道府県が調査主体となり、7月1日時点の不動産鑑定士による鑑定評価に基づいて都道府県知事が正常価格の判定を行う。2011年は全国2万2460地点の基準地を対象とした。
●減税などの政策効果
- 10年間にわたり最大400万円の税控除が受けられる住宅ローン減税のほか、親や祖父母からの住宅資金援助が1000万円まで非課税となる贈与税の特例などが実施されている。ただし住宅ローン減税は来年の最大控除額が300万円に縮小され、贈与税の特例は今年限りの予定。一定基準を満たす住宅を対象としたフラット35Sの金利引き下げ幅拡大や、住宅エコポイントについてもいったん打ち切られましたが、復活が検討されています。
(データ提供:東京カンテイ)