2023年基準地価から見えてくる不動産マーケットの現況
全国平均で住宅地、商業地とも2年連続で上昇
国土交通省がまとめた2023年7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)に基づいて、コロナ禍からの回復途上にある不動産マーケットの現状を見ていきましょう。
まず住宅地については、全国平均が前年比プラス0.7%と、31年ぶりに上昇した前年からさらに上昇し、上昇幅が0.6ポイント拡大しました。三大都市圏もプラス2.2%と2年連続で上昇し、上昇幅が1.2ポイント拡大しています。地方圏はプラス0.1%と31年ぶりに上昇に転じ、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は同7.5%と11年連続で上昇しました。
一方、商業地も全国平均がプラス1.5%と2年連続で上昇し、上昇率が1.0ポイント拡大しました。三大都市圏はプラス4.0%、地方4市は同9.0%とともに11年連続で上昇し、上昇幅が拡大しています。
全国の地価動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは以下のように分析してくれました。
「2023年はコロナ禍の収束に伴う人流の回復に加え、春先からの円安で海外からの投資マネーが流入したことで、都市部を中心に地価の上昇が拡大しました。地価が大きく上昇している地方4市のなかでも、特に札幌市では周辺の北広島市でのボールパークの開業や、千歳市での半導体工場の建設決定なども影響し、人口の増加が地価上昇につながっています。都市の中心部で地価や住宅価格が上昇したことで、住宅需要が郊外にシフトする動きが強まっており、地価上昇エリアが拡大する要因になっています」
東京都心部は住宅地が5%上昇。商業地は都心寄りエリアも高い上昇率
東京圏は住宅地がプラス2.6%と、前年より上昇幅が1.4ポイント拡大しました。なかでも東京都区部都心部はプラス5.0%と高い上昇率となっており、東京都全体でも3.1%の上昇となっています。その他のエリアも軒並み上昇幅が拡大しており、特に千葉県はプラス3.7%と前年より上昇幅が2.1ポイント拡大しました。
商業地も東京圏全体でプラス4.3%と、上昇幅が前年比2.3ポイント拡大しています。東京都区部や横浜市、川崎市、千葉県では5%台の高い上昇率です。
「東京都心部では国内富裕層のほか、円安の影響で海外投資家による需要が強まっており、地価を押し上げています。新築マンションでは坪単価1000万円を超える物件も登場してきました。周辺3県ではコロナ禍が払拭されて再び価格と利便性のバランスがとれた立地が重視されるようになり、市川市や船橋市、横浜市、川崎市など、より都心に近いエリアで住宅地・商業地とも需要が高まっています。川口市や大宮市なども需要は強めですが、すでに価格水準が上がっているため上昇幅は限られます」(髙橋さん)
大阪市、神戸市の中心で住宅地が3%超上昇。商業地も上昇幅が拡大
大阪圏の住宅地はプラス1.1%と前年に続いて上昇し、上昇幅が0.7ポイント拡大しました。大阪市中心6区はプラス3.7%、神戸市東部4区は同3.1%と、3%台の上昇率になっています。奈良県は下落が続いていますが、下落幅は縮小しており、奈良市では1.1%上昇しています。
商業地も大阪圏全体でプラス3.6%と上昇幅が拡大しました。特に大阪市中心6区はプラス7.0%と上昇率が高く、京都市中心5区も5.1%の上昇となっています。
「大阪市の中心部では高額なタワーマンションが供給されており、地価を押し上げる形になっています。大阪市や京都市ではマンション価格が高騰し、需要が周辺エリアにシフトする動きも見られますが、全般的に人口が減少傾向にあるため周辺での地価上昇の動きは限定的です。一方、インバウンドの復活で大阪市や京都市の商業地が活気づいており、地価上昇につながっています。大阪市では万博関連で交通インフラやホテルなどの開発が進むと見込まれるため、今後しばらくは地価の上昇が続くでしょう」(髙橋さん)
名古屋市、福岡市とも上昇が拡大し、周辺エリアへも波及
名古屋圏は住宅地がプラス2.2%と上昇幅が前年より0.6ポイント拡大し、名古屋市はプラス3.9%と前年に続いて3%台の上昇となりました。商業地もプラス3.4%と上昇幅が1.1ポイント拡大し、名古屋市は5.3%の高い上昇率です。
「円安を追い風に自動車産業が好調なため、名古屋市だけでなく刈谷市や安城市など西三河地域を中心に住宅ニーズが高まり、住宅地の地価を押し上げています。商業地も栄や伏見など名古屋市中心部でオフィスビル建て替えなどが進行し、地価上昇が拡大していますが、インバウンドの取り込みが限定的なため、上昇エリアの広がりは限られるようです」(髙橋さん)
福岡市は住宅地がプラス8.2%、商業地が同11.2%と、いずれも前年より上昇幅が拡大しました。なかでも博多区は住宅地・商業地とも同13.2%と前年に続き2ケタの上昇となっています。また筑紫野市や大野城市でも商業地が2ケタの上昇となるなど、福岡市周辺でも上昇率の高い地域が目立ちます。
「福岡市では天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの再開発が進行し、九州各地から人口が集中してきており、周辺地域にも地価上昇が波及しています。広域では東アジアのハブとなり得る地理条件を備え、空港から近いアクセスの良さもあり、インバウンドの観光客やビジネス客を呼び込みやすい点も強みといえるでしょう」(髙橋さん)
2023年は5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症になり、行動制限がなくなりました。経済活動が回復したことで、地価上昇の動きが全国的に強まりました。特に東京都心をはじめとした都市中心部では新築・中古マンション価格が高騰し、周辺にもその波が広がっている状況です。2024年もこうした状況は続くのでしょうか。
「地価上昇の勢いは多少鈍化することはあったとしても、2024年以降も引き続き維持されると予測されます。日米の金利差にともなう円安の影響で海外からの投資マネーが流入しやすくなっており、インバウンド需要の集まるエリアでは2023年以上の上昇もあり得るでしょう。日銀は今のところ大規模緩和を維持する姿勢を続けていますが、2024年中にも政策が修正され、金利が上昇する可能性もあります。物件価格の上昇や金利の上昇など、マンションを購入する実需層にとっては厳しい状況になるかもしれません」(髙橋さん)
日銀の金融政策には原油価格や円安などの要因も大きく影響するため、2024年も引き続き世界情勢を注視していく必要がありそうです。
(データ出典:国土交通省)