2019年公示地価の動きと不動産マーケットの現状
地方圏の住宅地が27年ぶりに上昇に転じる
国土交通省が発表した2019年1月1日時点の公示地価によると、全国平均の変動率は住宅地がプラス0.6%、商業地がプラス2.8%と、いずれも前年より上昇率が拡大しました。特に地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は住宅地がプラス4.4%、商業地がプラス9.4%と、高い上昇率です。この4市を含む地方圏は住宅地がプラス0.2%、商業地がプラス1.0%となっており、住宅地は1992年以来7年ぶりに上昇に転じました。
地方圏も含め地価の上昇傾向が強まっている状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「住宅地の地価上昇の背景について、国土交通省では住宅取得支援施策による需要の下支え効果を強調しています。ただ、消費税増税に伴う住宅ローン減税の拡充などが発表されたのは2018年の12月なので、その影響が出るのはこれからでしょう。それよりも訪日外国人によるインバウンド効果が地方にもようやく表れ始め、商業地だけでなく住宅地の地価も徐々に上昇してきているのが現状と考えられます」
旺盛なマンション需要で東京都区部の上昇率が拡大
地域別に見ていくと、まず東京圏では住宅地がプラス1.3%と、前年より上昇率が拡大しました。特に東京都区部の上昇が目立ち、区部都心部はプラス6.0%、次いで区部北東部がプラス5.1%となっています。都区部以外ではさいたま市大宮区(プラス3.1%)、同浦和区(同3.2%)、和光市(同3.3%)、武蔵野市(同3.3%)、稲城市(同3.1%)、川崎市中原区(同3.1%)などが3%を超える上昇でした
一方、商業地も東京圏全体でプラス4.7%と、前年より上昇率が1ポイント拡大しています。最も上昇率が高いのは東京都の区部都心部で8.8%上昇しました。区部南西部と区部北東部は前年は同じ5.5%の上昇でしたが、今年は南西部がプラス6.7%なのに対し、北東部がプラス7.4%とより上昇率が伸びています。都区部以外で上昇率が高い市区はさいたま市大宮区(プラス5.4%)、同浦和区(同5.3%)、市川市(同9.3%)、浦安市(13.5%)、横浜市西区(同7.4%)、川崎市高津区(同6.4%)などです。
「東京圏の住宅地の上昇は、高額なマンションへの需要が寄与しています。都心部では富裕層によるハイグレード物件への需要が根強いほか、共働きで世帯年収の高いいわゆるパワーカップルによるタワーマンション購入が引き続き活発です。これに対し都区部以外の周辺エリアでは一戸建て需要の比率が高まるため、地価の上昇は緩やかです。都心では商業地を中心に上昇幅が縮小するエリアが増えており、北東部など都区部の地価上昇もいずれ頭打ちになるでしょう。今後は高輪ゲートウェイや虎ノ門ヒルズなどの新駅や、相鉄線が乗り入れる横浜市など新線の影響が地価をどの程度押し上げるかが注目されます」(髙橋さん)
インバウンド効果で大阪・京都の中心部が大きく上昇
大阪圏では住宅地の変動率がプラス0.3%と、前年に続いてわずかな上昇にとどまりました。ただ、大阪市中心6区がプラス4.0%、京都市中心5区がプラス3.6%と、中心部では高めの上昇率となっています。市区別では大阪市西区(プラス9.5%)、同浪速区(同8.2%)、京都市上京区(同7.2%)、同中京区(同6.5%)などで上昇が目立ちます。
商業地は大阪圏全体でプラス6.4%と、前年からさらに上昇率が拡大しました。特に大阪市や京都市は2ケタの上昇となっており、東京都区部を上回る上昇が続いています。市区別では京都市東山区でプラス31.4%と大幅な上昇率となったほか、同下京区(同21.7%)、同南区(同17.3%)、大阪市浪速区(同16.7%)、神戸市中央区(同12.1%)なども高い上昇率です。
「大阪圏では引き続きインバウンド需要の強さが地価を押し上げています。特に京都市の中心部ではホテルや商業施設との競合でマンションの開発が難しくなっており、周辺に供給がシフトして住宅地も上昇するという構図です。大阪市では中心部でタワーマンションの供給が活発ですが、こちらもホテルなどとの競合で地価が押し上げられています。市内では2019年3月にJRおおさか東線が新大阪駅まで全線開業したことや、2025年の万博開催が決まったこともあり、今後も中心部では地価上昇の動きが続きそうです」(髙橋さん)
名古屋駅周辺や福岡市中心部で地価上昇が続く
名古屋圏は住宅地がプラス1.2%、商業地がプラス4.7%と、ともに前年より上昇率が拡大しました。名古屋市中区は住宅地が24.1%、商業地が19.5%と高い上昇率です。商業地では名古屋市東区が14.1%、同熱田区が10.8%と2ケタの上昇となっています。
「タワーマンション供給の影響で地価が大きく上昇した中区をはじめ、東区や中村区、熱田区など名駅周辺でマンションや商業施設の開発が活発になり、地価上昇の動きが顕著です。自動車産業に代表される堅調な地域経済や、2027年に予定されるリニア中央新幹線の開業など、今後も地価の押し上げ要因には事欠かないでしょう」(髙橋さん)
福岡市も住宅地がプラス5.3%、商業地がプラス12.3%で、前年より高い上昇率でした。住宅地では中央区や南区で上昇率が7%を超え、商業地では16.1%の博多区のほか、中央区や東区で2ケタの上昇率となっています。
「福岡市には九州各地から定住者が流入して人口が増えており、地価の上昇につながっています。増加する訪日外国人への対応などから福岡空港の第2滑走路整備が進められ、地下鉄七隈線の博多駅への延伸が予定されるなど、地価上昇のポテンシャルは高いと言えます」(髙橋さん)
全国的に地価の上昇傾向が続いていますが、米中貿易摩擦など世界経済への懸念が広がるなか、今後の国内不動産マーケットも予断を許しません。今年10月に予定されている消費税増税による影響や、東京五輪後の需要動向などにも注意を払っておく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)