マンション市場の動向と2021年価格・供給の見通し
首都圏の新築供給は低水準が続き、坪単価は上昇傾向
2020年のマンション市場を振り返ってみると、首都圏では新築マンションの年間供給戸数が3万6535戸と1992年以来29年ぶりに4万戸を下回りました。1都3県では千葉県を除いて前年割れとなり、特に埼玉県は前年比マイナス30.8%の大幅減です。平均坪単価は千葉県を除いて前年より上昇しており、神奈川県と埼玉県は2ケタの上昇でした。
中古マンションの流通事例数は東京都だけが減少し、前年比マイナス10.0%となりました。平均坪単価は1都3県ともほぼ横ばいとなっています。
首都圏のマンション市場の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析してくれました。
「1回目の緊急事態宣言が出た2020年4月からの四半期は販売活動が自粛されたため、新築の供給が大きく減少しました。先行きへの不安感から、中古市場では一部で売り急ぎの動きも見られたようです。第3四半期以降は市場が落ち着きを取り戻しましたが、新築の供給は引き続き低水準です。一方で中古マンションは都心部の築浅物件を中心にニーズが高まっており、売り急ぎの動きが止まったため在庫物件は不足気味です」
近畿圏はインバウンド需要の急減で相場に上げ止まりの動き
近畿圏の新築マンション年間供給戸数は2府4県で1万5572戸と、2年連続で減少しました。特に大阪府は前年比マイナス30.6%の9330戸と大きく減少しています。平均坪単価は3府県(大阪府、京都府、兵庫県)で上昇しており、なかでも京都府は前年比24.4%の大幅アップで252.8万円と、2年ぶりに大阪府と逆転しました。
中古マンションの流通事例数は軒並み増加しており、大阪府では前年比10.2%の増加となっています。平均坪単価は上昇傾向が続いており、京都府では150万円を超えました。
「大阪市の中心部は2019年までインバウンド需要の高まりでマンション供給も活発になりましたが、コロナ禍で実需・投資とも需要が急減し、新築の供給が大幅に縮小しています。中古は件数が増えていますが、こちらも需要が弱まり、市場の在庫物件が膨らんでいる状態です。新築・中古とも価格は上昇していますが、上昇に力強さは見られず、四半期ベースでは上げ止まりの動きも見られます」(髙橋さん)
名古屋市内で新築の供給が急増。福岡は供給減少で価格は上昇
愛知県では新築マンションの供給が増え、前年比27.0%増の5219戸でした。平均坪単価も同7.8%上昇し、230万円台となっています。中古マンション流通事例数も同20.1%増と大きく伸びましたが、平均坪単価はやや下落しました。
「2020年の前半は新築の供給が減っていましたが、第4四半期に名古屋市内で大規模物件が相次いで第1期分譲をスタートさせたこともあり、戸数が急増しました。中心部での供給が増えたことで坪単価も上昇傾向です。一方で中古は物件数が増えているものの、中心からやや離れたエリアで築年数が30年を超える物件が多く、需要が弱く平均坪単価も下落気味となっています」(髙橋さん)
これに対し、福岡県では新築マンションの供給が前年比マイナス24.3%と大きく減少しました。平均坪単価は同7.8%アップして193万円台です。中古マンションは流通事例数が同5.1%増え、平均坪単価はわずかに下落しました。
「新築物件の供給は減っていますが、福岡市内の人気エリアが中心なので坪単価は上昇傾向となっています。中古物件は流通件数が増えていますが、インバウンドの消失で需要が減少したこともあり、売れ行きが厳しく坪単価は弱含みです」(髙橋さん)
株価が急落すると中古物件を売り急ぐ動きが出る懸念も
コロナ禍が広がった2020年は1回目の緊急事態宣言が発出された時期こそマンション市場が“開店休業”状態に陥りましたが、その後は回復基調が鮮明です。とはいえ、回復の度合いはエリアや物件によって異なり、先行きには不透明感も見られると、髙橋さんは指摘します。
「東京を中心に新築・中古とも平均坪単価が上昇していますが、背景には株式市場での相場上昇があるようです。コロナ禍で実体経済はダメージを受けており、このままマンション価格の上昇が続くことは考えにくいでしょう。仮に価格上昇が続けば、一般勤労者の購入ニーズのさらなる減退は避けられません。株価が急落するような状況になると、中古物件を売り急ぐ動きが出てくることもあり得ます。
一方でワクチン接種が始まるなどコロナ禍の終息に向けた期待も広がっています。秋口以降は新築マンションの供給が回復してくる可能性もあるでしょう」
株価上昇などに見られる市場回復への期待が続いているうちに、コロナ禍の終息で実体経済が回復しマンション供給が増加に転じることが、理想的なシナリオと言えそうです。
(データ提供:東京カンテイ)