公示地価の動向と2020年不動産マーケットの現況
三大都市圏では住宅地、商業地とも7年連続の上昇
国土交通省から発表された2020年1月1日時点の公示地価により、全国・全用途の平均変動率が1.4%の上昇となったことが明らかになりました。地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)を除く地方圏の全用途平均も0.1%の上昇となり、28年ぶりの上昇に転じています。
住宅地は三大都市圏で1.1%上昇し、7年連続の上昇。地方圏は0.5%上昇し、2年連続の上昇となりました。商業地は三大都市圏で5.4%上昇し、やはり7年連続の上昇。地方圏は1.5%上昇し、3年連続の上昇となっています。
全国的に上昇傾向が強まっている地価の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「商業地は企業によるBCP(事業継続計画)ニーズや、人材確保に向けた職場改善などによるオフィス需要が高まっていることなどが、地価の押し上げ要因となっています。一方、住宅地は2019年10月の消費増税への対策として打ち出された住宅ローン減税の拡充など、住宅購入支援策の効果が現れているようです。とはいえ、上昇が顕著なのは都市の中心部やマンション開発地に限られており、郊外エリアでは下落が続くという2極化の傾向はより鮮明になっているといえるでしょう」
区部都心部や北東部、川崎市、さいたま市などで上昇率が拡大
地域別では東京圏の住宅地が1.4%の上昇と、前年より上昇幅が0.1%拡大しました。東京都の上昇幅は前年よりやや縮小しましたが、区部都心部の上昇幅は拡大しています。また神奈川県・埼玉県・千葉県はいずれも前年より上昇率が高まっています。
商業地は東京圏平均で5.2%上昇し、前年より0.5%アップしました。1都3県はいずれも上昇幅が拡大しており、なかでも区部都心部は9.6%と高い上昇率となっています。また区部南西部や区部北東部、川崎市、さいたま市が5%以上の上昇率です。
「都区部では荒川区(8.8%)や北区(7.1%)など北東部で高い上昇地点が見られます。都心へのアクセスの良さと、リーズナブルな住宅価格のバランスでニーズが高まっているようです。一方で千代田区(3.1%)や港区(6.2%)など、タワーや高額マンションの供給が活発な都心部でも上昇率が盛り返す動きが見られます。
周辺3県はいずれも平均で1%前後の上昇率にとどまっていますが、横浜市神奈川区や西区、川崎区中原区では上昇率が3%台となっており、都心への交通利便性を反映していると言えます。また相模鉄道とJRの新駅として設置された羽沢横浜国大駅の周辺では地価の上昇率が高まっており、今後マンション開発が進めばさらに上昇の動きが強まるでしょう。このほか埼玉県の川口市(4.3%)や蕨市(4.3%)、千葉県の浦安市(3.6%)など、都心へのアクセスに優れたエリアで上昇率が高めになっています」(髙橋さん)
大阪市中心部で上昇率が拡大する一方、京都市では鈍化も
大阪圏では住宅地が0.4%上昇し、前年より0.1%上昇幅が拡大しました。大阪市中心部は6.0%、神戸市東部4区は2.4%、京都市中心5区は3.0%と高い上昇率になっていますが、京都市中心5区の上昇率は前年(3.6%)から縮小しています。
商業地の上昇率は大阪圏平均で6.9%と、前年より0.5%拡大しました。中心部はいずれも高めの上昇率となっており、大阪市中心6区は17.6%の上昇となっています。これに対し、京都市や神戸市の中心部では上昇率が前年より縮小しました。
「大阪市ではインバウンド需要で開発が進むホテルとの競合でマンション用地が高騰しています。ただし大きく上昇しているのは西区や北区、中央区などの中心部だけで、その他は1%前後の上昇率にとどまっている区も少なくありません。京都市では中心部でマンション価格が高騰したため、需要が郊外にシフトしていることが、上昇率の鈍化に影響しているようです。また兵庫県では芦屋市や神戸市東部で上昇が続いているものの、神戸市西部などでは下落している地点も目立っています」(髙橋さん)
名古屋市は上昇が一服。福岡市は広い範囲で高い上昇に
名古屋圏の住宅地は1.1%の上昇と、前年より上昇率が0.1%縮小しました。名古屋市は2.0%上昇しましたが、前年の上昇率と比べると0.3%の縮小です。また商業地の上昇率も縮小しており、名古屋圏では前年比0.6%低い4.1%、名古屋市では同1.2%低い7.7%でした。
「名古屋駅周辺ではここ数年、リニア中央新幹線の開業を見据えた開発が進み地価が上昇してきました。ここへきてやや上昇が鈍化していますが、中区ではまだ18.5%上昇するなど上昇傾向が続いています。東区(6.0%)や熱田区(5.7%)などでもタワーマンションの供給があり、高めの上昇率です」(髙橋さん)
福岡県は住宅地が3.5%、商業地が6.7%の上昇となっており、いずれも前年より上昇幅が拡大しています。福岡市でも博多区の住宅地が11.1%の上昇となるなど、上昇率の高さが目立つ状況です。
「福岡市内はマンション戸数が多いため、博多など中心部だけでなく多くの区で高めの上昇率になっています。地下鉄七隈線の延伸や福岡空港の第2滑走路など、インフラ整備も商業地の上昇に影響しているようです」(髙橋さん)
今回の公示地価は2020年1月1日時点のものなので、新型コロナウイルスの感染が拡大する以前のデータです。今後の地価や不動産市場については、コロナショックの影響は小さくないだろうと、髙橋さんは予測しています。
「新築マンションは2020年の供給戸数が落ち込むと考えられますが、価格は大きくは下がらないでしょう。一方、収入の減少でマンションを売却する個人が増えることで、中古マンションの価格が低下する可能性はあります。訪日外国人客の減少が長引けば、インバウンド需要に支えられていた地域の不動産相場への影響も避けられません」
この先の経済回復のスピードや、不動産価格の動向に注意が必要になるでしょう。
(データ提供:東京カンテイ)