2017年路線価の動きと不動産市場の状況
大都市を中心に地価の上昇幅が拡大 地方では下落続く地域も
国税庁から2017年の路線価が発表され、全国の標準宅地の変動率の平均が前年に続いて上昇となりました。上昇幅は0.4%と、前年の0.2%よりも拡大しています。
路線価とは、毎年1月1日時点の地価に基づいて、一連の宅地が面する道路ごとに国税庁が定める1㎡当たりの単価のことです。相続税や贈与税の税額は、この路線価を基準に算出されます。
都道府県別の平均値では、震災復興が進む宮城県で3.7%アップし、上昇率で全国トップ。また東京都と沖縄県がいずれも3.2%上昇しました。
今回の路線価の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の高橋雅之さんは次のように分析してくれました。
「全国平均の上昇率は前年を上回りましたが、上昇しているのは大都市や中核都市が中心で、地方では今も下落しているところが多く、二極化が進んでいます。さらに都市部においても中心部では上昇の勢いが増している一方で、近郊や郊外エリアでは伸び悩むなど二極化している状況です。上昇地点はいずれも居住人口の増加や訪日外国人の流入など、ヒト・モノ・カネが集まるエリアとなっており、昨年の日銀によるマイナス金利導入が地価上昇に拍車をかけています。」(高橋さん)
銀座鳩居堂前の地価がバブル期超え 価格高騰で住宅地では需要が低迷
首都圏では東京都の上昇率が前年より0.3%拡大したほか、埼玉県と千葉県も0.1%拡大しましたが、神奈川県は0.1%縮小しています。
都道府県庁所在都市の最高路線価では、東京の中央区銀座5丁目銀座中央通り、いわゆる「鳩居堂前」が4032万円/㎡と、バブル期直後の1992年に記録した3650万円/㎡を上回り、32年連続で日本一でした。銀座では高級ブランドの旗艦店開業や百貨店のリニューアルなど再開発が活発化しており、三越銀座店前や和光堂前、昨年9月に開業した「GINZA PLACE(銀座プレイス)」前も鳩居堂前と同額となっています。
このほかさいたま市大宮区桜木町2丁目の大宮駅西口駅前ロータリーは前年の7.0%から8.3%に、横浜市西区南幸1丁目の横浜駅西口バスターミナル前通りは9.5%から15.7%に、それぞれ上昇率が拡大しました。
「増加し続ける訪日外国人にとって銀座でショッピングすることが一種のステイタスとなっており、桁違いの金額が消費されるため、地価が高くても新たな店舗をオープンする動きが絶えない状況です。都心では虎ノ門や品川、渋谷など各地で再開発が進んでおり、今後も地価の上昇が続くと予測されます。一方で都心でも再開発などの予定のないエリアでは地価が低迷するなど、狭いエリア内での選別が進んでいます。また住宅地では実需層が買える価格帯を超えて住宅価格が上昇したエリアが多く、価格上昇が鈍化して一部で低迷する動きも見られます。」(高橋さん)
大阪や京都は商業地中心に地価上昇 住宅地の上昇は一部を除き限定的
近畿圏では大阪府が1.2%、京都府が1.4%上昇し、いずれも上昇率は前年より拡大しました。兵庫県はマイナス0.3%と前年と同じ下落率となっています。
都道府県庁所在都市の最高路線価を見ると、前年に全国で最も高い22.1%の上昇率を記録した大阪市北区角田町の御堂筋が15.7%の上昇に縮小し、逆に京都市下京区の四条通は前年の16.9%から20.6%に上昇率を伸ばしました。神戸市中央区の三宮センター街も前年の12.9%から14.3%に、上昇率が拡大しています。
「大阪市や京都市は特にインバウンド消費が活発化しており、ホテル需要の高まりなどから商業地の地価が上昇しています。一方で近畿圏では全般的に居住人口が減少傾向にあり、住宅価格の上昇も影響して実需はあまり盛り上がっていません。人気の住宅地である北摂や阪神間エリアでも、芦屋や岡本など一部の高額エリアを除いて地価の上昇幅は限定的です。」(高橋さん)
愛知は名古屋駅周辺の地価上昇が一服 福岡はインフラ整備に期待かかる
中部圏では愛知県の平均が1.2%上昇しましたが、上昇幅は前年の1.5%に比べて縮小しています。名古屋市の最高路線価は前年に続き中村区名駅1丁目の名駅通りで、こちらも上昇幅が前年の14.1%から4.8%に縮小しています。
「中部圏は自動車産業が堅調なこともあり、居住人口が増えて住宅需要も根強く、地価上昇を支えています。またリニア中央新幹線の開業をにらみ、最近では名古屋駅の西側でも地価上昇の動きが顕著です。ただ、海外からのインバンド需要が弱いため、上昇幅は限定的となっています。」(高橋さん)
九州では福岡県の平均上昇率が1.9%と、前年の0.8%からさらに伸びています。福岡市の最高路線価は中央区天神2丁目の渡辺通りで、上昇率は12.5%と昨年の12.0%に続いて高い上昇となりました。
「福岡エリアは九州では唯一、人口が増加しており、インバウンド需要も強いことから、商業地・住宅地とも地価が上昇傾向です。2020年度の地下鉄七隈線延伸や2024年度の福岡空港滑走路増設などイベントも予定されており、今後も地価が上昇しやすい状況が続くでしょう。」(高橋さん)
再開発や新線開業で都市部の地価は上昇 マンション価格は弱含み傾向に
このように都市部では商業エリアを中心に、訪日外国人の増加などにも支えられて地価上昇の度合いが強まる動きが各地で見られます。今後も東京五輪を筆頭に再開発や新線開業などのイベントを控えている地域では、地価の上昇傾向が当面は続きそうな勢いです。一方で住宅エリアでは物件価格が高騰した影響により、需要の低迷から地価の上昇にも歯止めがかかりつつあるようです。
「東京や大阪では中古マンションの価格高止まりが1年近く続いている状態です。新築物件も含め、価格に値ごろ感を出す動きが出始めていますが、買い手はまだ戻ってきておらず、近郊や郊外の大型物件では販売に苦戦するケースも目立ちます。数年前に購入した外国人投資家がキャピタルゲインを狙って売却するケースが増えつつあり、今後は住宅エリアでの地価が弱含みになることも考えられます。」(高橋さん)
都市中心部の商業地とは対照的に、住宅地では地価が上げ止まり傾向になっており、今後は下落するエリアが増えるかもしれません。