2010年路線価から読み解く今後の不動産市場
全国平均が2年連続でダウン世界不況の影響で下げ幅が拡大
国税庁から発表された2010年の路線価によると、全国の標準宅地の平均路線価は1m²
当たり12万6000円で、前年比8・0%の下落でした。路線価は全国的に下落基調となっており、全国平均の下落幅は前年(マイナス5・5%)より広がっています。
地価の下落傾向は特に大都市圏ほど顕著になっており、東京圏(前年比マイナス9・7%)や大阪圏(同マイナス8・3%)ではマイナス幅が全国平均を上回っています。都道府県別でも東京都が同マイナス11・3%と2ケタの下落となったほか、大阪府と福岡県がともに9%台のダウンとなりました。
全国的に地価の下落幅が拡大した背景について、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の中山登志朗氏は次のように話しています。
「サブプライムローン問題とそれに続くリーマン・ショックに端を発した世界的な不況の影響で、2008年後半から日本でも不動産への需要が急激に縮小しました。そのため2009年は年間を通して地価が全国的に下落基調となっています。今回発表された路線価は2010年1月1日時点の公示地価を基準としているため、一年前と比べて地価の下落幅がさらに拡大したのです」
中心部などで2ケタ下落が続出実勢価格は下げ止まりの動きも
地域ごとの動きを見てみると、まず東京圏では都区部の下落率が前年比マイナス12・0%となるなど、都心寄りのエリアで下落幅が大きくなっています。地価が最も高いとされる中央区の銀座中央通りは下落幅も25・6%と大きくなっているほか、中央区八重洲の外堀通りや港区の青山通りでも下落幅が20%を超えました。神奈川・埼玉・千葉の3県も下落幅は前年より拡大していますが、いずれも全国平均は下回っています。
「路線価は実勢価格とタイムラグがあるため、現在は状況が変化してきています。7月時点の実勢価格で見ると、都区部では地価がすでに下げ止まり、一部では上昇に転じる動きも見られます。ただ、都心部以外の周辺や郊外のエリアではまだ地価の調整が続いており、下落基調であることに変わりはありません」と、中山氏は指摘しています。
大阪圏でも下落幅は軒並み前年より拡大しており、大阪府で前年比マイナス9・4%と全国平均を上回る下落幅となっています。とりわけ大阪市の中心部では商業地の下落が目立ち、中央区の御堂筋や南海難波駅前など下落率が20%台の地点も見られました。また京都市でも、中京区の河原町で12・8%下落するなど、中心部での大幅ダウンが目立ちます。8月に四条河原町の阪急が閉店するなど、商業施設の収益性が低下していることが地価に影響しているとみられます。
「大阪市内や北摂、阪神間エリアなど住宅地として人気のエリアでは地価の下落が落ち着きつつあるようですが、まだ下げ止まっているわけではないようです。京都市や神戸市も含め、地価が上昇に転じるにはもう少し時間がかかるでしょう」(中山氏)
下落幅が全国平均を下回った名古屋圏でも、名古屋市の中心部では下落幅が大きくなっています。東区の久屋大通り、中村区の名駅通り、中区の大津通りでは路線価の下落幅が20%を上回りました。このほか福岡県福岡市の中央区渡辺通りで
16・2%の下落となるなど、地方圏でも都市の中心部などで2ケタの下落となった地点が見られます。
「いずれも商業地は収益性の落ち込みなどから地価の下落も大きくなっていますが、周辺の住宅地ではここにきて下落幅が縮小しつつあります。名古屋市内の住宅地価は2002年ごろの水準まで下がってきており、これ以上の大幅な下落は考えにくいでしょう。福岡市内も同様の状況です。」
(中山氏)
大型減税が住宅購入を後押し今こそ資産価値の見極めが重要
こうしてみると、昨年1年間は大都市エリアなどで地価の大幅な下落が目立ちましたが、今年に入ると落ち着いた動きになってきているエリアが多いようです。なかでも東京都心部などの中心部は回復が早く、一部では反転の動きも見られます。その背景について、中山氏は以下のように話しています。
「地価が上昇するには景気の回復が前提条件となります。企業の生産が回復し、消費者の所得が増える見通しが強まることで、初めて不動産という大きな買い物に踏み切れる心理状態になるためです。ただし都心部は景気の動きと必ずしも連動しません。現状の地価水準はピーク時の2007年当時と比べれば明らかに低いので、値頃感から投資家が不動産を買い始め、地価や不動産価格が上昇に転じるケースが見られます」
こうした商業エリアの動向の一方で、周辺の住宅地でも土地やマンションの売買が活発化する動きが出ているようです。東京都内などでは中古マンションの価格が、ここへきて上昇に転じつつあります。投資家だけでなく、一般の消費者も不動産購入に積極的になっているということでしょうか。
「2008年後半からの世界的な不況下で不動産の購入を手控えてきた消費者も、ようやく動き始めたようです。大型の住宅ローン減税や、贈与税非課税枠の拡大などの政策に後押しされている面も大きいでしょう(コラム参照)」(中山氏)。
とはいえ現状では価格が安定しているエリアと、下落が続いているエリアとで二極化が進みつつある点に注意が必要だと、中山氏はアドバイスしてくれました。
「こうした時期は価値の下がらない不動産の見極めが重要なので、価値の目安として賃料相場に着目することをお勧めします。賃料の高いエリアは居住ニーズが高く、資産価値が目減りしにくいといえるからです」(中山氏)
賃料の高めなエリアは総じて利便性が高いといえます。地価が下げ止まりつつある現状は、有利な税制などを活用して、通勤や通学に便利な場所でマンションを買うのに適した時期といえるでしょう。
ワンポイント豆知識
【路線価とは?】
住宅地や商業地、工業地など全国約38万地点の標準宅地の地価を基に、路線(道路)ごとに土地の価格を定めたもの。相続税や贈与税を算出する際の土地の時価として用いられます。
国土交通省が毎年1月1日時点で調査する公示地価の8割を目安に設定される仕組みです。全国の路線価は毎年7月1日から国税庁のホームページ
(www.rosenka.nta.go.jp)に掲載されます。全国の国税局(所)・税務署のパソコンからも閲覧可能です。
【住宅ローン減税】
住宅ローンを利用して自宅を購入すると、入居から10年間にわたり、年末ローン残高の最大1%に相当する額が所得税と住民税の一部から控除される制度。10年間の控除額は2009年と2010年の入居については最大で500万円(一般住宅の場合)ですが、2011年からは段階的に縮小されます。適用を受けるには住宅の床面積(登記簿面積)が50m² 以上など一定の基準を満たす必要があります。
【贈与税非課税枠】
親から住宅購入資金の援助を受けるときに、一定額まで贈与税が非課税となる特例のこと。 2010年中の贈与は非課税枠が1500万円となっており、110万円の基礎控除と併せて 1610万円まで贈与税がかかりません。この非課税枠は2011年には1000万円に縮小される予定です。これとは別に相続時精算課税には2500万円の贈与税非課税枠があり、1500万円の非課税枠と合わせて4000万円まで贈与税が非課税になります。ただし相続時精算課税で贈与を受けた資産は、相続時に親の財産に加算されて相続税で精算する形となっています。
(データ提供:東京カンテイ)