2021年基準地価から読み解く不動産市場の現状
三大都市圏では住宅地の地価が横ばいに回復し、商業地は上昇幅が縮小
国土交通省から発表された2021年7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)データを基に、コロナ禍の影響下にある不動産マーケットの現状を概括してみましょう。
まず住宅地は全国の変動率がマイナス0.5%と30年連続の下落となりましたが、マイナス幅は前年より0.2ポイント縮小しました。三大都市圏は0.0%と前年のマイナス0.3%から横ばいに回復しています。地方圏は0.7%下落しましたが、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)はプラス4.2%と9年連続の上昇となっています。
一方、商業地は全国の変動率がマイナス0.5%となり、前年より下落幅が0.2ポイント拡大しました。三大都市圏はプラス0.1%、地方4市は同4.6%といずれも9年連続で上昇しましたが、上昇幅は前年より縮小しています。
全国の地価動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「住宅地でのコロナ禍の影響は限定的で、三大都市圏や地方4市では復調に向かっています。その他の地方圏でも県庁所在地の駅前などでマンション開発によって地価が上昇する地点が見られますが、周辺への波及効果は限られ、全般的には弱含みな動きです。また商業地は飲食サービスや宿泊施設の多いエリアを中心にインバウンド消失の影響が大きく、地価下落の動きが続いています」
東京都区部は住宅地の上昇幅が縮小。近接エリアでは上昇幅の拡大も
地域別の動きを見ていくと、まず東京圏は住宅地がプラス0.1%と、前年のマイナス0.2%からわずかに上昇に転じました。東京都区部は0.5%の上昇でしたが、上昇幅は前年より0.9ポイント縮小しています。一方で横浜市や川崎市は上昇に転じ、千葉市は上昇幅が拡大しましたが、さいたま市は下落に転じるなどエリアによる違いも見られます。
これに対し、商業地は東京圏全体でプラス0.1%と上昇を維持しましたが、東京都と埼玉県はマイナスに転じました。また千葉県は上昇幅が縮小し、神奈川県は上昇幅が拡大しています。
「コロナ禍で都心から人口が流出するとの見方もありましたが、そうした動きは一部にとどまっており、東京都区部の住宅地は緩やかな上昇が続いています。ただ、高騰感が強い都心部を中心に地価上昇が続いていたため上昇度合いは頭打ち気味です。一方で横浜市や川崎市、浦安市、市川市など23区に近接したエリアは住宅ニーズが強く、地価の上昇傾向も強まっています。一方、商業地は都心部などインバウンド需要が強かったエリアでは弱含みです」(髙橋さん)
大阪市・神戸市の中心部は住宅地が上昇し、商業地は下落
大阪圏の住宅地はマイナス0.3%ですが、下落幅は前年よりわずかに0.1ポイント縮小しました。大阪市中心6区はプラス1.0%、神戸市東部4区は同0.9%、京都市中心5区は0.0%と上昇ないし横ばいですが、上昇幅はいずれも前年より縮小しています。また阪神地域はプラス0.4 %と上昇に転じました。
一方、商業地は大阪圏全体でマイナス0.6%と下落に転じました。特に中心部での下落が目立ち、大阪市中心6区は同3.0%、神戸市東部4区は同2.0%の下落です。
「大阪市の中心部はタワーマンションなどの開発がコンスタントに続いており、住宅地の地価上昇を下支えしています。神戸市の東部や阪神エリアは大阪市中心部からの移住ニーズの受け皿になっているようです。それ以外のエリアは地価の下落傾向が続いており、2極化の動きが強まりました。また、商業地は大阪市中央区や浪速区、西区などインバウンド需要の比率が高かった中心部ほどコロナ禍の影響が強く、大きな下落となっています」(髙橋さん)
名古屋市は住宅地・商業地とも反転上昇。福岡市は上昇率が拡大
名古屋圏の住宅地はプラス0.3%と上昇に転じており、なかでも名古屋市は1.3%の高い上昇率です。商業地もプラス1.0%の上昇となり、名古屋市は3.2%と上昇率が高めになっています。
「自動車をはじめとした地域産業の業績がこのところ回復してきており、就業者による住宅取得ニーズの高まりから名古屋圏の地価を押し上げています。特に名古屋市中心部は名駅や伏見、栄などでタワーマンションの開発が活発化しており、千種区や東区などでは高額マンションの供給も堅調です。また商業地も名古屋市では再開発に伴うビルの建て替えなどが活発で、地価の上昇につながっています」(髙橋さん)
一方、福岡市は住宅地がプラス4.4%、商業地が同7.7%と上昇しており、いずれも前年より上昇幅が拡大しています。なかでも博多区は住宅地が同8.8%、商業地が同9.5%と高い上昇率となり、中央区も商業地が同9.9%上昇しました。
「コロナ禍の影響で九州全域からの人口流入が福岡市に集中する傾向が見られ、市内のすべての区で地価が上昇しています。さらに周辺の筑紫野市や春日市でも住宅ニーズが高まり、住宅地の地価を押し上げている状況です。また地下鉄七隈線の延伸計画や福岡空港の第2滑走路計画、さらには天神ビッグバンをはじめとした再開発計画への期待から、商業地の地価も押し上げられています」(髙橋さん)
今回の基準地価の調査時点である2021年7月以降はコロナ禍の“第5波”が収束に向かいつつも、新たな変異株の拡大など不透明な状況が続いています。海外との人の行き来も再開が見通せないなか、2022年以降の不動産市場はどのような動きになると予測されるのでしょうか。
「住宅ローン減税は控除率が縮小されたものの控除期間は延長されており、脱炭素に向けた補助金など住宅購入の支援策は引き続き手厚くなっています。2022年以降も都市部では住宅地の地価は上昇傾向が予測されますが、価格水準がかなり高くなっており、購入者がついてこられない状況になれば上昇が鈍化する可能性もあるでしょう。一方、インバウンド需要の早期の回復が難しいなか、半導体不足などが地域産業の業績に影響してきており、製造業に関連した商業地の地価が弱含みで推移することも考えられます」(髙橋さん)
2022年の不動産市場もコロナ禍に伴う経済状況の影響を受けることになりそうです。