マンション市場の供給・価格動向と2022年の見通し
首都圏の新築供給が4万戸台に回復。神奈川県で大幅増
まず2021年のマンション市場を振り返ってみましょう。首都圏では新築マンションの年間供給戸数が4万1409戸と2年ぶりに4万戸台を回復しました。1都3県では神奈川県が前年比35.3%の大幅増となりましたが、東京都は微増、千葉県と埼玉県はともに前年割れとなっています。平均坪単価は東京都で前年比1.1%上昇しましたが、千葉県と埼玉県はわずかに下落し、神奈川県は同マイナス12.9%の下落でした。
中古マンションの流通事例数は首都圏全体で前年比マイナス15.5%と大きく減少しました。1都3県のいずれも2ケタの減少ですが、特に神奈川県と埼玉県は前年比2割を超える大幅減となっています。
首都圏マンション市場の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「コロナ禍でも住宅ニーズは根強く、東京23区も好調な売れ行きですが、供給戸数は絞られています。都心の物件価格が高騰したことに加え、立地よりも広さを求める動きが強まったこともあり、横浜市や川崎市、藤沢市など神奈川県の物件がニーズの受け皿になっているようです。これに対し、千葉県や埼玉県では新築一戸建てに需要がシフトしている動きが見られます。一方、中古物件は2021年前半にかけて価格の上昇と流通件数の減少が続きましたが、後半以降は売り物件が増加し、価格上昇がやや鈍化する動きも出ています」
近畿圏は兵庫県と京都府で新築供給が増加。大阪府は価格上昇
近畿圏2府1県の新築マンション年間供給戸数は1万7909戸と前年比16.6%増加し、コロナ前の2019年とほぼ同水準に回復しました。特に兵庫県は同46.7%、京都府は同34.6%の大幅な増加となっています。平均坪単価は大阪府と兵庫県で上昇しましたが、京都府は小幅に下落しました。
中古マンションの流通事例数は大阪府と兵庫県で減少し、京都府はわずかに増加。平均坪単価はいずれも上昇傾向が続いています。
「新築マンションは兵庫県では阪神エリアや神戸市中心部で供給が増えており、京都府では一時減少していた市内中心部での供給が回復しています。大阪市はタワーマンションの供給が堅調ですが、インバウンドが消失したことで投資向けのワンルーム物件などの供給が鈍化しました。大阪府や兵庫県では新築物件の価格が上昇し、より割安で広めの中古物件へのニーズが高まって中古相場も上昇しています。一方、京都府は市内を中心に投資やセカンドハウスニーズが強いため、コロナ禍の影響でニーズが減速して新築・中古とも価格上昇が鈍化しているようです」(髙橋さん)
新築供給がコロナ前より愛知県は増加、福岡県は減少
愛知県の新築マンション供給戸数は前年比で微減となりましたが、前年に続き6000戸台と堅調です。平均坪単価は前年比9.5%下落し、211万円台でした。中古マンション流通事例数は前年比1.0%増加し、平均坪単価は100万円台に上昇しています。
「新築マンションの供給はコロナ前より上振れしており、名古屋市中心部をはじめ、近郊エリアの豊橋駅などでも大規模タワー物件が牽引しています。中古物件のニーズも高まっていますが、価格が上昇すると需要が一戸建てに流れやすくなるため、上昇の余地は限定的です。今後も自動車産業などの堅調な業績を背景に好調な住宅需要が見込まれており、リニア中央新幹線の開業目処が立てば投資ニーズも回復するでしょう」(髙橋さん)
福岡県では新築マンションの供給が前年比でわずかに増えて4500戸台でしたが、5000戸台だったコロナ前と比べると減少しました。平均坪単価は前年比1.2%アップして185万円と上昇傾向が続いています。中古マンションは平均坪単価が100万円台に上昇し、流通事例数は前年比7.1%減少しました。
「周辺エリアからの人口流入で住宅ニーズは引き続き堅調ですが、新築マンションの価格が上昇しつつあるため、需要が中古物件にシフトしているようです。ただ、今後も人口や世帯数の増加が見込まれるので、アフターコロナでは再び投資ニーズが強まり、価格の上昇傾向が続くことも期待できるでしょう」(髙橋さん)
金利の上昇懸念や中古物件の価格高騰が住宅需要に影響!?
2021年はコロナ禍で全般的に在宅時間が増えたこともあり、住宅需要が高まってマンション市場が堅調に推移しました。新築マンション供給は前年よりも増加したエリアが目立ったものの、コロナ禍以前に比べると抑えられた水準に留まっています。強まる需要の受け皿となっているのが中古市場ですが、好調な売れ行きを反映して物件の流通量が減少気味となり、価格は上昇基調です。ただ、先行きには懸念材料もあると、髙橋さんは指摘しています。
「米国で利上げの実施が見込まれるなど、世界的に金利が上昇基調に転じつつあります。日本では日銀が目標とする2%の物価上昇率が達成できておらず、利上げはまだ先と見られますが、先行きの金利上昇懸念が強まると住宅需要にも影響は避けられないでしょう。当面は新築マンション価格が堅調に推移すると予測されますが、中古物件に関しては価格高騰で需要が弱含みになり、一部で価格改定の動きが見られる点も気になるところです」
今後は新型コロナの感染状況だけでなく、金利の動きや株価の動向などにも注意しておく必要がありそうです。