公示地価から読み解く2016年の不動産市場
三大都市圏は3年連続で地価が上昇魅力的な街づくりが地価を押し上げ
国土交通省が発表した2016年の公示地価によると、全国の平均変動率は住宅地がマイナス0.2%で8年連続の下落でしたが、下落幅は昨年の半分に縮小しました。昨年7年ぶりに下落から横ばいに転じた商業地は、0.9%アップしています。
都市部と地方では対照的な動きです。三大都市圏では住宅地・商業地ともに3年連続で上昇し、上昇幅も昨年より拡大しました。一方、地方平均ではマイナス幅が縮小しているものの、相変わらず下落が続いています。また、地方中枢都市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は住宅地が2.3%アップ、商業地が5.7%アップと、三大都市圏をしのぐ上昇です。
こうした地価の動きについて、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の井出武さんは次のように話してくれました。
「地価がプラスに転じた要因を見ると、鉄道新線の開通や大規模な再開発、大型商業施設の開業など、消費者を呼び込む街づくりに成功した都市の地価が上がっているのが特徴です。逆に魅力的な街づくりができないエリアは、今後も地価が上昇に転じるのは難しいのではないかと考えられます」
東京都心部では地価の上昇が拡大周辺地域では上昇幅縮小の動きも
地域別に見ると、まず東京圏は住宅地が0.6%アップ、商業地が2.7%アップと、どちらも昨年より上昇率が拡大しています。特に東京都心寄りのエリアほど上昇の度合いが高まっており、東京都区部は住宅地が2.8%、商業地が4.8%といずれも昨年を大きく上回る上昇幅です。
一方で、都心から少し離れた周辺エリアでは地価の動きにばらつきも見られます。多摩地域や川崎市、千葉市などでは商業地は昨年より上昇率が高くなっていますが、住宅地は上昇幅が昨年並みかやや縮小しました。横浜市は住宅地・商業地ともに上昇幅が小さくなりましたが、逆にさいたま市はどちらも上昇率がアップしている、といった状況です。
市区町村別では、東京都中央区が住宅地・商業地とも9%台の上昇率となるなど、都心部では軒並み大きく上昇しています。また多摩地域では武蔵野市や三鷹市で住宅地・商業地とも高い上昇率となり、立川市では商業地が4.8%上昇するなど、JR中央線沿線エリアで上昇が目立ちます。またさいたま市の大宮区や浦和区で住宅地・商業地の上昇率がいずれも2%以上となり、海老名市でも商業地が2.4%上昇しました。
「このところの住宅価格の上昇で首都圏では全般的に新築マンションの供給が落ち込んでいますが、都心では実需・投資ともにニーズが根強く供給も活発で、地価の上昇も続いています。また中央線沿線では立川駅や国分寺駅、府中駅など、駅前でマンション開発が進んでおり、地価にも影響が出ているようです。このほか、さいたま市の京浜東北線沿線が利便性の高さで再評価されており、海老名市は大型商業施設が開業するなど、再開発の影響で地価が押し上げられています」(井出さん)
大阪市中心部の商業地が大きく上昇京都市や神戸市の中心部も上昇傾向
大阪圏では大阪市の地価上昇が目立ちます。市全体では住宅地が0.5%とわずかな上昇ですが、商業地は7.8%と大きく上昇しました。特に中心6区は商業地が10.9%と2ケタの上昇です。中心部が大きく上昇する傾向は、神戸市や京都市でも見られます。神戸市東部4区は商業地が3.3%、京都市中心5区は同じく商業地が6.3%と高い上昇率です。
大阪市では中央区心斎橋筋2丁目の商業地が45.1%と極めて高い上昇率となり、全国でもトップの上昇率となりました。ほかにも中央区や北区で高い上昇地点が続出し、全国の商業地の上昇率トップ10のうち6地点が両区で占められています。
「大阪市は中央区や北区のほか、天王寺区や阿倍野区などでもタワー物件などマンションの供給が活発化して価格が上昇しており、地価に反映されています。京都市や神戸市の中心部も含め、商業地が魅力的な居住エリアに変わりつつあるようです。一方でこれまで住宅地として人気が高かった北摂や阪神間エリアでは、西宮市や芦屋市など一部を除いて地価の上昇は限られます」(井出さん)
大規模再開発や人口増加の影響で名古屋・福岡の地価上昇が拡大
名古屋圏は住宅地の上昇率が0.8%と昨年と同じでしたが、商業地は2.7%上昇し、昨年(1.4%アップ)よりも上昇幅が拡大しました。特に名古屋市の商業地は上昇率が5.5%と高く、大規模再開発事業が進む名古屋駅周辺の中村区(11.4%アップ)と中区(10.1%アップ)では2ケタの上昇率となっています。
「2027年のリニア中央新幹線の開業を見越してビル需要が高まり、住宅地の地価にも波及しています。加えて自動車産業を中心とした地場産業の活況が住宅需要を支えている点も、地価上昇につながっているようです」(井出さん)
また福岡市では住宅地が2.8%アップ、商業地が5.9%アップと、いずれも昨年より上昇率が高まっています。住宅地では中央区(5.6%アップ)や早良区(3.6%アップ)、商業地では博多区(9.2%アップ)や中央区(7.0%アップ)などの上昇率の高さが目立ちます。
「住宅地は人口増が続き、マンション供給が活発化していることが地価に影響しています。商業地は外国人観光客の増加などで店舗やホテル需要が高まっています」(井出さん)
これまではマンション価格の上昇が地価を押し上げてきましたが、都市周辺部などでは価格が高くなりすぎて需要が鈍化する動きも見られるようです。今後の地価やマンション価格について、井出さんは次のように予測しています。
「ここへきて東京23区内でも新築マンション価格が下落するエリアが現れるなど、地域による差が大きくなってきています。今後、マンション価格の調整が進めば需要が回復し、地価の上昇傾向が再び強まることも考えられます」
日銀によるマイナス金利政策で住宅ローン金利が低下していますが、都市周辺部などで住宅需要が回復するかどうか、今後の動きに注目したいところです。