2022年公示地価の動向と不動産マーケットの現況
三大都市圏、地方圏とも2年ぶりに地価が上昇
2022年1月1日時点の公示地価が国土交通省から発表されました。それによると、全国・全用途の平均変動率は前年比プラス0.6%と、2年ぶりに上昇しました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で0.5%のマイナスとなった昨年から、地価が回復に転じた形です。
三大都市圏平均では住宅地がプラス0.5%、商業地が同0.7%と、いずれも上昇に転じています。また地方圏平均でも住宅地がプラス0.5%、商業地が同0.2%の上昇に転じ、なかでも地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は住宅地が同5.8%、商業地が同5.7%と、昨年と同様に高い上昇率を維持しています。
全国的に地価が回復に転じた状況について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは以下のように分析しています。
「住宅地はコロナ禍が広がり始めた2020年の春に一時的に取引が低迷しましたが、すぐに需要が回復し、地価もプラスに転じています。一方、商業地のなかでもオフィス系のエリアの地価は比較的堅調ですが、飲食店舗や観光客向け施設が中心のエリアは需要の回復が遅れており、地価も戻り切れていない地域が多く見られます。また観光業主体のエリアも国内向けか外国人客メインかによって異なる状況です」
東京圏で地価が広く回復。都心の商業地では下落地点も
地域別の動向を見ると、東京圏の住宅地はプラス0.6%と、昨年のマイナス0.5%から上昇に転じました。東京都区部はプラス1.5%と高めの上昇率になっており、特に区部都心部は同2.2%の高い上昇率です。また、さいたま市(プラス1.5%)や千葉市(同1.0%)も1%台の上昇率となっています。
昨年マイナス1.0%と大きく落ち込んだ商業地は、プラス0.7%に回復しました。特に千葉市(プラス1.7%)や横浜市(同1.6%)などが高めの上昇率となった一方、区部都心部は横ばいにとどまっています。
「コロナ禍の影響で都心部から人口が転出する動きが見られましたが、地価が下がることはありませんでした。都心のタワーマンションや高額物件の需要は根強く、建築費などコストアップで価格も上昇が続いています。一方でリモートワークが広がり、横浜市やさいたま市、千葉市など近郊エリアの居住ニーズが高まっていますが、一戸建て中心のエリアでは地価の上昇は限られます。商業地では在宅勤務が普及し、神奈川県や千葉県などで自宅まわりでの買い物ニーズが増え、地価が押し上げられました。ただ、銀座などインバウンド需要に依存していたエリアは下落が続いている地点が目立ちます」(髙橋さん)
大阪市、神戸市の中心部は住宅地が上昇、商業地は下落
大阪圏の住宅地は昨年のマイナス0.5%から上昇に転じましたが、上昇率は0.1%とわずかです。そうしたなか、大阪市中心6区はプラス1.8%、神戸市東部は同1.1%、京都市中心5区は同0.7%と、高めの上昇率となりました。
商業地は大阪圏全体で0.0%と横ばいでした。上昇率が高めだったのは阪神地域(プラス1.5%)や京都市中心部(同1.3%)です。逆に大阪市中心6区はマイナス1.8%、神戸市東部4区は同0.8%など、下落が続いています。
「大阪市や神戸市の中心部はタワー物件などマンションの供給が活発になっており、用地ニーズの高まりが住宅地の地価を押し上げています。京都市中心部もコロナ禍で一時止まっていた高額マンションの分譲が再開されています。その他のエリアでも住宅ニーズは堅調ですが、一戸建てがメインのエリアでは地価上昇は限定的です。一方の商業地も京都市ではGo Toトラベルの効果などで国内観光客が戻り、地価が上昇に転じました。ただ、大阪市のミナミ地区などインバウンドへの依存度が高かったエリアは回復が遅れており、2ケタの下落地点も多く見られます」(髙橋さん)
名古屋市、福岡市では地価上昇が周辺エリアにも波及
名古屋圏は住宅地がプラス1.0%、商業地が同1.7%と、いずれも前年の下落から上昇に転じました。なかでも名古屋市は住宅地がプラス2.2%、商業地が同3.2%と高めの上昇率となっています。
「名古屋市の住宅地は中区がプラス9.3%、東区が4.7%など中心部で上昇率が高いエリアが目立ちます。名古屋駅周辺ではタワーマンションが、東山エリアでは低層の高額マンションが活発に供給され、地価を押し上げています。また自動車産業が好調を維持していることから、安城市(プラス3.2%)や刈谷市(同3.1%)など三河エリアの住宅地も上昇の度合いが高まりました。一方、商業地はオフィスや商業施設の再開発が進む栄や伏見などで上昇率の高い地点が見られます」(髙橋さん)
福岡県は住宅地がプラス3.2%、商業地が同4.1%と、昨年に続いて上昇を維持しています。福岡市は住宅地がプラス6.1%、商業地が同9.4%と高めの上昇率です。
「人口の増加が続く福岡市では博多区がプラス10.8%など住宅地の地価上昇が顕著となっており、筑紫野市や春日市、大野城市など周辺エリアも7%前後の高い上昇率です。また福岡市中心部では天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの面開発が進み、東区や博多区の商業地は2ケタの上昇率になりました」(髙橋さん)
物件価格の高騰が住宅需要に影響する可能性も
コロナ禍で地価下落の動きが広がった昨年とは一転し、今年の公示地価は住宅地、商業地とも上昇傾向が強まりました。特に各都市の中心部はタワーマンションなどの供給が活発となり、用地需要の強まりなどから住宅地の上昇度合いが強まっています。またリモートワークの広がりなどを背景に近郊エリアの住宅ニーズも高まっており、高めの上昇率となったエリアも目立ちます。一方、商業地も再開発エリアや買い物利便性の高い近郊エリアなどで高い上昇率となっていますが、インバウンドや飲食需要の回復の遅れから中心部では下落が続く地域も少なくありません。今後の地価の見通しについて、髙橋さんは次のように話してくれました。
「マンションをはじめとした住宅需要はコロナ禍でも根強いものがあり、建築コストの高騰などから住宅価格も上昇傾向が続いています。さらに2022年に入ってウクライナ危機や円安の影響から、建築部材や輸送費が高騰しており、物件価格の上昇に拍車がかかりました。住宅価格だけでなく食料品や交通費など日々の生活費も上昇してきており、住宅需要に影響することも懸念されます。一方で円安の進行から海外投資家にとっては日本の不動産が割安になっているため、投資マネーの流入による取引は活発になるでしょう」
今後も堅調な住宅需要が持続するためには、訪日外国人の増加によるインバウンド需要の回復もカギを握ると言えそうです。
(データ提供:東京カンテイ)