2020年路線価から読み解く不動産市場の現状
全国平均が5年連続で上昇。上昇幅は前年から拡大
国税庁が発表した2020年分の路線価によると、全国の標準宅地の変動率の平均値は前年比プラス1.6%となり、5年連続で上昇しました。上昇幅は前年の1.3%より0.3%拡大となっています。
路線価とは、一連の宅地が面する道路ごとに定められる、土地の1㎡当たりの価格です。相続税や贈与税の算定基準として、毎年1月1日時点で調査している公示地価に基づいて決められます。
都道府県別では、上昇率の平均値が最も高かったのは昨年に続き沖縄県で10.5%アップ。次いでやはり昨年と同様、東京都が5.0%アップとなっており、いずれも上昇幅が拡大しました。
今回の路線価から読み取れる傾向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように述べています。
「全体として人とおカネが集中する地域と、そうでない地域とが2極化する動きが続いています。訪日外国人によるインバウンド需要が強い観光地や、オフィス需要が堅調な大都市は地価の上昇が拡大し、地方でも中枢都市やターミナル駅の周辺などで上昇の動きが見られますが、それ以外のエリアではまだ下落傾向です。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響で訪日外国人が大幅に減少しており、地価への影響は避けられないでしょう」
東京都心の上昇率は鈍化。周辺3県では上昇幅が拡大
首都圏では東京都の上昇率が前年比0.1%拡大し、7年連続の上昇となったほか、神奈川県、埼玉県、千葉県の3県とも上昇幅が拡大しました。3県の上昇率はいずれも1%台です。
都道府県庁所在地の最高路線価では東京都中央区の銀座中央通りが35年連続で全国トップの価格でしたが、上昇率は0.7%で前年の2.9%から縮小しています。一方、駅周辺の再開発が進む横浜市の横浜駅西口バスターミナル前通りは上昇率が34.5%となり、都道府県庁所在地の最高路線価では全国で3番目に高い上昇率でした。またさいたま市の大宮駅西口駅前ロータリーは15.1%アップ、千葉市の千葉駅前大通りは9.6%アップで、どちらも前年より上昇幅が拡大しています。
ただし国土交通省が発表した2020年1月1日〜4月1日の短期地価動向(地価LOOKレポート)によると、東京都・神奈川県・埼玉県では地価が上昇から横ばいに変化する地区が見られ、横浜市中区元町では横ばいから3%未満の下落に転じています。
「銀座中央通りの路線価は3年前に平成バブル時のピークを超えるなど、都心部では地価の過熱感が強まったことで、上昇が頭打ちになっています。東京都ではインバウンド需要の強い浅草なども高い上昇率でしたが、新型コロナの影響で先行きは厳しい状況です。一方、横浜駅周辺など再開発が進んでいるエリアは、コロナ禍が収束すれば地価が再び上昇する可能性は高いでしょう」(髙橋さん)
大阪市中心部で高い上昇率。京都、神戸は上昇が鈍化
近畿圏では大阪府の上昇率が2.5%で前年比0.6%拡大しましたが、京都府は3.1%の上昇で前年と同率、兵庫県は前年の0.0%からマイナス0.1%へと下落に転じました。
都道府県庁所在地の最高路線価は、大阪市の御堂筋(阪急うめだ本店前)が35.0%上昇と前年比7.6%拡大し、全国で那覇市に次ぐ2番目に高い上昇率でした。大阪市では心斎橋筋(戎橋ビル)が44.6%上昇するなど、ミナミ地区で高い上昇率となっています。また京都市の四条通は18.1%、神戸市の三宮センター街は17.6%といずれも2ケタの上昇でしたが、上昇率は前年より縮小しました。
2020年4月1日時点の地価LOOKレポートでも近畿各県は地価の上昇が続いていますが、大阪市や神戸市の商業地区などでは上昇率の縮小も見られます。
「大阪市の中心部はインバウンド需要の増加でホテルの建設ラッシュとなり、タワーマンションや投資用マンションの供給も増えて地価が大きく上昇しました。京都市や神戸市でも上昇率がやや鈍化したものの、インバウンド需要や再開発が地価を押し上げた形です。直近では新型コロナの影響でインバウンド需要がほぼ消滅し、先行きは不透明な状況ですが、大阪市では2025年の大阪・関西万博などイベントが控えており、地価を下支えする効果も期待できます」(髙橋さん)
名古屋市中心部は上昇が拡大。福岡市中心部は小幅に縮小
中部圏では愛知県が平均で1.9%の上昇となり、前年より上昇率が0.3%縮小しました。名古屋市の最高路線価である名駅通りは13.0%上昇し、前年より上昇率が2.6%拡大しています。地価LOOKレポートでも名古屋市内の地価は上昇が続いていますが、商業地区の一部では上昇が鈍化する動きが見られます。
「名駅周辺の上昇率は大阪市などと比べると低めですが、新型コロナの影響はまださほど見られないようです。ただしリニア中央新幹線の開業が延期の見通しとなっており、コロナ禍で自動車産業の業績が落ち込む事態になると地価への下押し圧力も強まるでしょう」(髙橋さん)
一方、福岡県は平均で4.8%のアップとなり、前年より上昇幅が拡大しました。福岡市の最高路線価である渡辺通りは11.8%と2ケタの上昇ですが、上昇幅は前年より0.6%縮小しています。地価LOOKレポートでは博多駅周辺の商業地区で上昇が鈍化し、大濠の住宅地区で横ばいから3%未満の下落に転じるなど、直近の地価の動きには変化も見られます。
「福岡市内は九州各地からの人口流入で不動産価格が上昇していましたが、新型コロナの影響で流れが停滞しており、地価に影響が出ているようです。ただ、博多駅周辺や天神地区での再開発が進み、地下鉄七隈線の延伸計画もあるため、コロナ禍が収束すれば回復も可能でしょう」(髙橋さん)
今後の地価回復は新型コロナの動向に左右される見通し
路線価の動きを見ると、東京都心など地価上昇が先行していたエリアでやや鈍化の動きが見られるものの、全体的には都市部の地価が上昇していることがわかります。ただし新型コロナの影響で経済活動が停滞しており、直近では地価の上昇にブレーキがかかるエリアも出ているようです。
「今後は東京五輪開催の可否も含め、コロナ禍がいつどのように収束するかが、地価にも大きく影響するでしょう。東京都心をはじめ各地で再開発が進められていますが、工事スケジュールを見直す動きも出ており、回復には時間がかかるかもしれません」(髙橋さん)
地価や不動産市場の回復がどの程度進むのか、今後の新型コロナの動向を注視していく必要があるでしょう。
(データ提供:東京カンテイ)