公示地価から見通す2021年不動産マーケット
三大都市圏の住宅地・商業地がともに下落に転じる
国土交通省から発表された2021年1月1日時点の公示地価によると、全国・全用途の平均変動率が前年比マイナス0.5%と、6年ぶりの下落となりました。昨年は1.4%の上昇でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で地価下落の波が全国的に広がった形です。
三大都市圏では住宅地がマイナス0.6%、商業地がマイナス1.3%といずれも下落に転じました。また地方圏も住宅地(マイナス0.3%)、商業地(マイナス0.5%)ともに下落しましたが、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は住宅地(プラス2.7%)、商業地(プラス3.1%)と上昇傾向を維持しています。
下落傾向が全国的に広がっている地価動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように話してくれました。
「一昨年まで商業地の地価を押し上げていた訪日外国人によるインバウンド需要が消滅し、収益を生み出すのが難しくなったエリアへの影響が甚大です。ただ、同じ商業地でもオフィス系の色合いの濃いエリアでは多少の空室率の上昇や賃料の低下はあるものの、地価下落の度合いはさほど大きくはありません。一方、住宅マーケットは1回目の緊急事態宣言が解除された2020年5月以降は急速に回復しており、マンション価格も上昇しています。今回の公示地価では住宅地も下落傾向となっていますが、これは主に昨年秋口までの動向を強く反映した結果だと思われます」
東京圏で地価下落の動きが広がるも千葉市などは上昇を維持
地域別の動きを見てみましょう。まず東京圏は住宅地の平均が前年比マイナス0.5%と、昨年のプラス1.4%から下落に転じました。昨年4.6%と高い上昇率となった東京都区部もマイナス0.5%に落ち込んでいます。ただし千葉県は千葉市が0.4%上昇するなどわずかに上昇を維持しており、県全体でも0.1%の上昇となりました。
一方、昨年5.2%の上昇だった商業地は、マイナス1.0%の下落となっています。特に東京都はマイナス1.9%と下落幅が大きく、区部都心部はマイナス2.8%の下落でした。これに対し、横浜市は0.5%、千葉市は1.4%上昇するなど、上昇を維持した地域もあります。
「東京圏の住宅地は前年比マイナスの地域が目立ちますが、ほとんどが1%未満の下落率となっており、ほぼ横ばいといえる水準です。都心部でも港区と目黒区はプラスとなっており、富裕層による住宅ニーズは強い状態と言えるでしょう。商業地は浅草を擁する台東区などインバウンド需要の強かった地域では下落率が高めですが、横浜市や千葉市など再開発が進み地元での消費活動が活発な近郊地域では上昇の動きも見られます」(髙橋さん)
インバウンド需要の消失で大阪市の商業地は大幅下落
大阪圏では住宅地がマイナス0.5%と、前年のプラス0.4%から下落に転じました。地域別に見ると1%未満の下落幅となっているエリアが大半ですが、大阪市中心6区はプラス1.1%、神戸市東部4区はプラス0.4%となっており、都心部では上昇を維持しているエリアが目立ちます。
一方、前年はプラス6.9%と大きく上昇した商業地ですが、今年はマイナス1.8%に落ち込みました。地域別では上昇を維持したのは北大阪(プラス0.2%)と阪神地域(プラス0.9%)のみで、前年にプラス17.6%と大阪圏で最も上昇率が高かった大阪市中心6区はマイナス5.9%と最も下落率が大きくなっています。
「首都圏と比べて昨年は緊急事態宣言の期間が短く、感染者数も少なめだったこともあり、住宅市場は比較的早く回復しました。またテレワークも首都圏ほどには普及しておらず、都心から郊外へという住まい選択のシフトが生まれにくい状況でもあります。これに対し、商業地は特にインバウンド需要の強かった大阪ミナミなどで下落幅が大きく、中央区は8.1%のマイナスです。一方で梅田や新大阪などオフィス街の周辺は限定的な下落でした。また京都市の下落幅もマイナス2.1%と比較的小さくなっていますが、Go To トラベルなどで国内の旅行需要が一時的に高まった影響とみられます」(髙橋さん)
名古屋市は商業地が下落。福岡市は住宅地・商業地とも上昇を維持
名古屋圏では住宅地がマイナス1.0%、商業地がマイナス1.7%と、いずれも前年の上昇から一転して下落となりました。名古屋市は住宅地がマイナス0.8%と比較的小幅な下落にとどまりましたが、商業地はマイナス2.1%に落ち込んでいます。
「愛知県は緊急事態宣言の期間が東京や大阪より短かったため、住宅ニーズの落ち込みは限定的でした。名古屋市内ではタワーマンションなどの人気が高まっており、公示地価の下落は実態よりも厳しい数字という印象です。商業地はもともとインバウンド需要がさほど強くなく、主力の自動車産業が昨年後半以降は回復基調にあるため、地価も上昇に転じつつあります。リニア中央新幹線の開業時期が不透明というマイナス要因はありますが、再開発事業の進展などでオフィス街の地価も回復傾向といえるでしょう」(髙橋さん)
福岡県は住宅地がプラス1.5%、商業地はプラス2.4%と、上昇を維持しています。特に福岡市は住宅地がプラス3.3%、商業地がプラス6.6%と高い上昇率となりました。
「福岡県は感染拡大が抑えられていましたが、観光客の減少で上昇率は鈍化しています。ただ、天神ビックバンや博多コネクティッドといった再開発事業の影響もあり、福岡市では商業地の上昇率が高い水準を維持しました。コロナ禍で県内から大阪や東京への人口流出が減少したこともあり、住宅地の上昇も堅調です」(髙橋さん)
今年の公示地価はコロナ禍の影響を受けて住宅地、商業地とも下落傾向が強まり、特に商業地は都心部の商業施設や飲食店街などでインバウンド需要の消失や人流抑制が大きく影を落とす結果となりました。ただ、住宅地はすでに昨年後半から回復基調となっている地域が多く、商業地も再開発が進む地区やオフィス中心のエリアなどでは回復の動きも見られるようです。今後の地価の動きについて、髙橋さんは以下のように予測しています。
「昨年は緊急事態宣言でマーケットが一時的にストップしたこともあり、地価の判定が弱めに出たようです。住宅地ではマンションを中心に物件価格が上昇している地域が多いため、今後の地価データは上昇基調が強まるでしょう。リモートワークの広がりで近郊・郊外エリアのニーズが強まる動きも見られますが、それほど大きなトレンドとはならず、都心の住宅ニーズが引き続き高い水準になると思われます。一方、インバウンド需要の回復にはまだ時間がかかると予測されるため、飲食店や宿泊施設の集まるエリアを中心に商業地の地価は弱含みが続きそうです」
商業地も含めた地価の全面的な上昇には、ワクチン接種の進展などによるコロナ禍の収束とインバウンド需要の回復が欠かせないでしょう。
(データ提供:東京カンテイ)