不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報不動産市場の動向2011年路線価から読み取る不動産市場の現状と見通し(2011年7月号)

不動産市場の動向

専門家のコラム
大森広司
不動産市場の動向

株式会社オイコス代表取締役

大森 広司

2011年7月号

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公示価格や路線価から読み取る不動産市場の動向に関するコラムです。

2011年路線価から読み取る不動産市場の現状と見通し

全国で地価の下落幅が縮小 大震災による影響調査はこれから。

主な都道府県における標準宅地の対前年変動率の平均値

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(データ提供:東京カンテイ

 国税庁から発表された2011年分の路線価によると、標準宅地の対前年変動率の全国平均はマイナス3.1%と、昨年に引き続き全都道府県で下落となりました。今年から平均値の計算方法が変わり、2009年以前の変動率は発表されていませんが、実質的に3年連続の下落。下落幅は前年より縮小しています。ただ、東日本大震災の影響は加味されていないため、国税庁では改めて被災地の地価動向を調査し、10~11月に指定地域内の地域ごとに調整率を公表する予定です。被災地では路線価に調整率を乗じて相続税などを計算し、税負担の軽減を図ることになります。

 路線価が下落を続けつつも下落幅が縮小した背景について、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の中山登志朗さんは次のように分析します。
「2008年のリーマン・ショック以来続いてきた不動産市場の縮小傾向に、一定の歯止めがかかったということでしょう。とはいえ、大震災後は東日本を中心に不動産の売買が減少気味となっており、影響は小さくないと思われます」 以下、地域ごとの動きを見ていきましょう。(図1)

東京都心部や周辺住宅地では地価上昇に転じる兆しも見られる

 まず首都圏では、1都3県とも平均変動率の下落幅が前年より縮小しています。特に東京都は前年比5ポイント縮まってマイナス2.0%と、大幅な縮小になりました。ただし、都道府県庁所在都市別の最高路線価では、東京23区(銀座中央通り)と千葉市(千葉駅側通り)が5%台のマイナスとなっています。ともに2ケタのマイナスだった前年と比べれば大幅な下落幅縮小ですが、下げ止まりつつあるとは言い切れない数値でしょう。

 「東京都心部では銀座や日本橋などで再開発計画の動きもありますが、ようやく着手した段階で地価を押し上げるまでにはいたっていません。ただ、震災の際に首都圏では帰宅難民が大量に発生したため、職住近接のメリットが生かせる都心の事業集積地の強みが再認識されました。そのため、今後は都心部の地価が強含みで推移する可能性もあると考えています」(中山さん)

 より細かく、税務署ごとの最高路線価を見ると、習志野市や船橋市、足立区、横浜市、新座市などで前年比横ばいとなっている路線も散見されます。なかでも横浜市青葉区のたまプラーザ駅前通りはプラス4.3%と、唯一の上昇となりました。東急田園都市線の同駅周辺では2005年からスタートした再開発事業が昨年10月に完成し、商業ビルなどがリニューアルされ、北口と南口の回遊性がアップしたことなどが鑑定評価に反映されたようです。

 「都心よりの利便性の高いエリアでは、住宅地の地価がわずかに下落か横ばいで比較的安定してきているようです。ただ、震災による液状化などの被害を受けた地域では、不動産の取引が膠着状態となっています。売りと買いの希望はそれぞれにあるものの、両者の提示価格に乖離がみられ、折り合いが付かない状況です。今後は価格をある程度下げてでも売却しようという動きが強まるとみられ、そうしたエリアでの不動産価格は下落する方向で推移するとみられます」(中山さん)
(図2)

大阪駅リニューアルで沸く大阪市 周辺エリアでは大幅な地価下落が続く

 近畿圏に目を転じると、変動率の平均は各府県とも3%前後となっています。前年と比べるといずれも下落幅が縮小しているものの、首都圏よりもやや大きなマイナスです。

 「震災の直接的な被害は受けていないものの、東日本での被害状況や、全国的に広がりつつある電力不足の影響などから、近畿圏の景況感にも先行き不透明感が強まっています。不動産の売買にブレーキがかかることで地価の下落傾向が強まるという、間接的な影響は避けられません。外資系企業などがオフィスを東日本から近畿圏に移す動きも一時的に見られましたが、すでに沈静化しており、限定的な動きにとどまっているといえるでしょう」(中山さん)

 都市別の最高路線価の変動率を見ると、大阪市の御堂筋が前年比マイナス6.1%と大きな下落幅となっています。税務署別の最高路線価で見るとさらに下落幅が大きくなり、大阪市中央区北浜3丁目の御堂筋はマイナス17.8%、同じく難波5丁目の南海難波駅前はマイナス13.5%でした。これらの地区は梅田へのオフィス移転が進んだことで、地価の下落傾向が続いているとみられます。

「梅田ではJR大阪駅のリニューアルが5月に完成しましたが、近畿圏全体の景況感を引き上げるほどのインパクトはないようです。むしろ難波や心斎橋などの商業地から顧客を奪う流れにもなっており、不動産価格の弱含み傾向もしばらく続くものとみられます」(中山さん)

名古屋駅前で地価が下げ止まり 福岡市では商業地の地価回復が顕著

 中部圏では愛知県の変動率の平均がマイナス0.8%と、都道府県単位では最も小さい下げ幅となっています。名古屋市の最高路線価は7年連続の名駅通りで、変動率0.0%と前年のマイナス20.2%と比べて大幅に改善しました。ただ、同市内でも東区の久屋大通りや中区の大津通りは5%前後の下落幅となっており、商業エリアの地価はまだ下落が続いているようです。

「自動車をはじめとした製造業は震災の影響から抜け出しつつあるようですが、まだ地価を押し上げるほどの回復には至っていないようです。一方、住宅地では数百戸~1000戸規模のマンション供給が本格化しつつあります。大規模なショッピングセンターや病院、学校などとの一体開発が進めば地域が活性化され、地価が上昇に転じる可能性もあるでしょう」(中山さん)

 また、都道府県庁所在都市の中で唯一、最高路線価が上昇したのが福岡市です。中央区天神2丁目の渡辺通りが前年比1.1%上昇し、2ケタマイナスだった前年から大きく回復しています。市内では博多区博多駅前2丁目の駅前通りも2.5%上昇するなど、商業地での地価回復が顕著になってきました。九州新幹線鹿児島ルート全線開通の影響で、熊本駅や鹿児島中央駅周辺などでも地価が上昇に転じています。

「博多駅周辺では駅ビル以外の再開発がまだこれからの状態ですが、整備が進むにつれて不動産市況もさらに回復の度合いが強まるでしょう。九州新幹線は乗車率がさほど高くないようですが、今後に期待したいところです」(中山さん)

ワンポイント豆知識

●路線価
  • 住宅地や商業地、工業地など全国の標準宅地の地価を基に、路線(道路)ごとに土地の価格を定めたもの。相続税や贈与税を算出する際の土地の時価として用いられる。国土交通省が毎年1月1日時点で調査する公示地価の8割を目安に設定される。東日本大震災による調整率が導入されるのは、阪神大震災に次いで2回目。指定地域は青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉の各県全域と、新潟県、長野県の一部だ。
●相続税の改正
  • 2011年度の税制改正では、相続税の基礎控除を引き下げ、最高税率を引き上げる増税措置が予定されている。当初は4月1日から施行の予定だったが、国会の審議が滞っており、7月中旬現在で成立に至っていない。実施されれば課税範囲が広がり、相続税対策が必要になるケースが増えると考えられる。
  • 基礎控除…〈現行〉5000万円+(1000万円×法定相続人数)→〈改正案〉3000万円+(600万円×法定相続人数)
  • 最高税率…〈現行〉50%→〈改正案〉55%
※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大森 広司Hiroshi Omori

1962年東京生まれ。立命館大学法学部卒業。
編集プロダクション勤務を経て2005年より株式会社オイコス代表取締役。
現在、『SUUMO新築マンション』『スーモジャーナル』『月刊ハウジング』『都心に住む』などで、住宅問題全般にわたって取材・執筆活動を続けているほか、WEBサイト『AllAbout「マンション入門」』で、はじめてマンションを購入する人向けサイトのガイドとして記事を配信。
また、『日経トレンディネット』などで住宅・不動産最新トレンドの執筆を担当している。
主な著書に『はじめてのマイホーム買うときマニュアル』、『マンション購入完全チェックリスト』(共に日本実業出版社)『新築マンション買うなら今だ!』(すばる舎)などがある。