2019年路線価から読み取る不動産市場
全国平均が4年連続の上昇。上昇幅は前年より拡大
国税庁から発表された2019年分の路線価によると、全国の標準宅地の変動率の平均値が前年比プラス1.3%と、4年連続の上昇となりました。上昇幅は前年の0.7%より0.6%拡大しています。
路線価とは、一連の宅地が面する道路ごとに定められる1㎡当たりの土地の単価のこと。相続税や贈与税の税額を算出する際の基準として、毎年1月1日時点の地価に基づいて決められます。
都道府県別の平均値を見ると、上昇率が最も高かったのは沖縄県で8.3%アップ。東京都が4.9%アップでこれに次いでいます。
今年の路線価から読み取れる傾向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんに伺いました。
「全国平均で上昇率が拡大しましたが、実際に上昇率が伸びているのは三大都市圏や主要中枢都市、観光地などに限られます。下落幅が縮小したとはいえ、いまだに地価が下落しているエリアも多く、二極化は解消されているとは言えません。また上昇エリアの内訳を見ると、都心での上昇率にブレーキがかかりつつある一方で、地方では2ケタの上昇率となっている都市もあり、投資ニーズが地方にシフトしている状況が伺われます」
東京都心の地価がバブル期を超え、上昇幅が縮小
首都圏では東京都の上昇率が0.9%拡大したほか、神奈川・千葉・埼玉の3県とも上昇率が前年より拡大しました。ただし3県の上昇率はいずれも1%以下と限定的です。
都道府県庁所在都市の最高路線価では、東京都中央区の銀座中央通り、いわゆる「鳩居堂前」が4560万円/㎡で34年連続の全国トップでした。ただし上昇率は2.9%で、前年の9.9%から大きく縮小しています。また横浜市の横浜駅西口バスターミナル前通り(13.3%アップ)とさいたま市の大宮駅西口駅前ロータリー(12.1%アップ)はどちらも前年に続き2ケタの上昇、千葉市の千葉駅前大通り(9.5%アップ)は上昇率が前年より5.1%拡大しました。
「銀座中央通りの路線価はバブル期のピークだった1992年と比べても約25%高くなっているなど、都心では高値警戒感が出ているようです。東京都内では城北や城東エリアの割安感が強まっており、訪日外国人客の多い浅草や駅前再開発が活発な北千住などで上昇率が高くなっています。一方で他の3県の最高路線価はまだピーク時の5〜6割程度の水準にとどまっており、上昇の余地が残っていると言えます。ただし住宅地は一戸建てニーズが強く、マンションが中心の東京都に比べて上昇率は低めです」(髙橋さん)
大阪、京都、神戸の中心部で20%以上の高い上昇率
近畿圏では京都府が3.1%、大阪府が1.9%と、どちらも上昇率が前年より拡大しました。また兵庫県は前年のマイナス0.4%から0.0%の横ばいに転じています。
都道府県庁所在地の最高路線価では、大阪市の御堂筋は27.4%上昇と前年の6.8%から大幅に拡大し、全国で那覇市に次ぐ高い上昇率でした。また京都市の四条通(20.0%アップ)、神戸市の三宮センター街(25.0%アップ)と、いずれも20%以上の上昇率となっています。
「大阪市はタワーマンションの供給が活発な中心部で高い上昇率ですが、市内でも周辺部は一戸建て需要が強いこともあり上昇率は限られます。京都市は訪日外国人客の増加などで中心部の地価が高騰し、周辺の京阪エリアや滋賀県に住宅を求める動きが増えています。また兵庫県は神戸市中心部や西宮市が上昇していますが、その他のエリアは人口が減少していることもあり下落が目立ちます」(髙橋さん)
名古屋市、福岡市とも中心部が前年に続き2ケタの上昇
中部圏では愛知県が平均で2.2%上昇と、前年(1.5%アップ)より上昇幅が拡大しました。名古屋市の最高路線価である名駅通りは10.4%アップと、2年連続の2ケタ上昇となっています。
「名古屋市は2027年のリニア中央新幹線開業を控え、駅周辺の再開発が活発化しています。中村区や熱田区でもマンション供給が目立ち、地価が上昇傾向です」(髙橋さん)
福岡県は平均で3.6%のアップとなっており、こちらも前年(2.6%アップ)より上昇幅が拡大しています。最高路線価の福岡市の渡辺通りも12.4%アップと、前年(11.1%アップ)より高い上昇率です。
「福岡市は九州の他エリアなどからの人口流入が続いており、中央区や早良区だけでなく、博多区や東区のマンションも人気が高まっています」(髙橋さん)
景気の変調がなければ地価の上昇傾向も続く見通し
地価の動きを見ると、やや加熱気味だった東京都心で上昇の勢いにブレーキがかかりつつありますが、その他の主要都市では上昇幅が拡大する動きが広がっています。今後は今年10月の消費税増税や来年の東京五輪などイベントが待ち受けていますが、この地価上昇の傾向は続くのでしょうか。
「東京都心を除く主要都市はバブル期と比べてまだ上昇の伸びしろがあります。世界経済に目を転じると、欧米で利下げの動きが強まるなど金融緩和もしばらく続きそうな状況です。景気に大きな変調がなければ低金利が続き、投資マネーが不動産市場に流入することで、地価の上昇傾向も続く可能性が高いでしょう」(髙橋さん)
地価や不動産市場に影響の大きい経済の状況について、今後も注目していく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)