2021年路線価から見通す不動産市場の今と今後
コロナ禍の影響で全国平均が6年ぶりに下落
国税庁から発表された2021年の路線価によると、標準宅地の変動率の全国平均は前年比マイナス0.5%と、6年ぶりに下落に転じました。
路線価とは道路ごとに定められる土地1㎡当たりの価格で、その道路に面する一連の宅地の地価を表します。毎年1月1日時点で調査している公示地価に基づいて決められ、相続税や贈与税の算定基準となるものです。
都道府県別で上昇率の平均値が最も高かったのは1.8%の福岡県ですが、上昇率は前年より3.0%縮小しています。次いで上昇率の高い沖縄県は1.6%で、前年より8.9%の縮小です。ほかにも千葉県などが上昇していますが、多くの都府県は下落しました。
今回の路線価の動きについて、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「新型コロナウイルス感染拡大で訪日外国人が途絶え、国内の人の流れも抑制されたことが地価に大きく影響しました。特に前年までインバウンド需要に支えられて地価が大きく上昇していた地域ほど、反動で大きく下落しています。ただ、商業地に比べて住宅地の下落幅は限定的だったため、全国平均の下落率は0.5%にとどまりました。福岡県のほか北海道や宮城県など、中枢都市を擁するエリアでは上昇を維持しています」
東京・銀座は下落。再開発が進む横浜駅や千葉駅前は上昇を維持
首都圏では千葉県が0.2%の上昇となりましたが、東京都がマイナス1.1%と8年ぶりに下落し、埼玉県、神奈川県も下落に転じました。
都道府県庁所在地の最高路線価では東京都中央区の銀座中央通り(鳩居堂前)が36年連続の全国トップとなりましたが、変動率は前年のプラス0.7%からマイナス7.0%へと大きく落ち込みました。一方で駅周辺の再開発が進んだ横浜市の横浜駅西口バスターミナル前通りは前年(プラス34.5%)と比べて上昇幅は縮小したものの、3.1%の上昇を維持しています。また千葉市の千葉駅前大通りも3.5%上昇し、さいたま市の大宮駅西口駅前ロータリーは前年比横ばいでした。
「路線価は1月1日時点の公示地価を基準にしており、公示地価は昨年第1回の緊急事態宣言時にマンション供給がほぼストップしたことを受けて、住宅地も含めて全般的に下落基調の評価が目立ちました。ただ、1回目の宣言後はマンション供給が回復しており、住宅地では地価の実勢価格も上昇するエリアが増えています。一方で訪日外国人によるインバウンド需要が消失したため、商業地の地価は依然として厳しい状況です。特に銀座や浅草など、インバウンドへの依存度が高かったエリアの地価は今後も下落が続く可能性が高いでしょう」(髙橋さん)
大阪、京都、神戸とも最高路線価が大きく下落
近畿圏では大阪府の変動率が前年のプラス2.5%からマイナス0.9%へと下落に転じ、京都府もプラス3.1%からマイナス0.6%に下落しました。兵庫県はマイナス0.8%と、2年連続で下落しています。
都道府県庁所在地の最高路線価では、大阪市の御堂筋(阪急うめだ本店前)が前年のプラス35.0%からマイナス8.5%へと大きく下落しました。また京都市の四条通(マイナス3.0%)や神戸市の三宮センター街(マイナス9.7%)も、前年の2ケタ上昇から下落に転じています。
「大阪市はキタよりもミナミのほうがさらにマイナス幅が大きく、中央区の心斎橋筋は前年のプラス44.6%からマイナス26.4%へ、浪速区の難波中2丁目はプラス35.0%からマイナス12.0%へと、2ケタのマイナスに転じています。京都市も観光需要が強かったエリアほど下落していますが、GoToキャンペーンで国内の観光客が一時的に増えたこともあり、下落幅は比較的抑えられています。一方、マンション供給は大阪市内でも底堅く推移しており、住宅地の地価は回復が早いでしょう」(髙橋さん)
名古屋市中心部は小幅に下落。福岡市中心部は横ばい
中部圏では愛知県が平均でマイナス1.1%となり、前年のプラス1.9%から下落に転じました。名古屋市の最高路線価である名駅通りもマイナス1.3%と、前年のプラス13.0%から下落に転じています。
「愛知県はコロナ禍の影響で自動車産業の業績が一時的に落ち込んだ影響が商業地の地価に及んでいますが、業績の回復は早く、地価の落ち込みも限定的です。マンション価格はコロナ前より上昇する動きも見られ、住宅地は比較的早く回復しそうです」(髙橋さん)
一方、福岡県の平均はプラス1.8%と上昇を維持しています。ただし福岡市の最高路線価である渡辺通りは前年のプラス11.8%から横ばいに転じました。
「福岡市の中心部はインバウンド消失の影響がありましたが、天神ビッグバンや博多コネクティッドといった再開発によるポテンシャルへの期待もあり、地価が横ばいとなった形でしょう。東京のように人口の流出が続いている状況でもないため、今後も地価は安定的に推移していくとみられます」(髙橋さん)
住宅地やオフィス中心の商業地では需要回復の動きも
今回の路線価からは、全国的にコロナ禍の影響が地価に反映していることがわかります。特にこれまでインバウンド需要への依存度が高かった観光地や商業地では、昨年までの高い上昇から一点して下落に転じているエリアがほとんどです。一方で都市部でもオフィス中心で再開発が進むエリアや、住宅地では需要が回復し、地価上昇の動きも見られます。今後の地価の動きについて、髙橋さんは以下のように予測します。
「コロナ禍で郊外の一戸建て需要が高まる傾向も見られますが、地価を押し上げるトレンドになっているとまでは言えません。首都圏では今年秋口から販売が再開される五輪選手村跡地の物件など、湾岸エリアのマンション需要が一つのカギとなるでしょう。関西では2025年の大阪・関西万博に期待したいところですが、パビリオン出展を予定する各国でコロナ禍が収束するかどうか、不確定要素があることは否めません。名古屋や福岡では交通インフラ整備に伴う再開発効果が見込まれますが、名古屋はリニア中央新幹線の開業時期が不透明な点が気になるところです」
今後の地価が本格的に回復するかどうかは、引き続きコロナ禍がいつ収束するかに大きく影響を受けることになりそうです。
(データ提供:東京カンテイ)