明治時代中期に「愛宕山」(「愛宕塔」からと思われる)から撮影された3枚つづりのパノラマ写真で、左から日比谷、新橋、芝方面を望む。芝方面に「東京湾」が見え、緑が生い茂る「浜離宮」(現「浜離宮恩賜庭園」)も確認できる。「愛宕山」下の道沿いには伝統的な長屋の商店も並んでいる。煉瓦造りの建築物もあり、近代化が進んでいることも感じられる。写真中央の大きな煉瓦造りの建物は、1888(明治21)年、芝区芝愛宕町二丁目(現・港区西新橋三丁目)に建てられた3階建ての「芝教会」。1936(昭和11)年に芝区西久保桜川町(現・港区虎ノ門一丁目)に移転している。写真右端の2階建ての煉瓦造りの建物は、1890(明治23)年、同じく芝区芝愛宕町二丁目に建てられた「東京慈恵医院」(現「東京慈恵会医科大学附属病院」)の「第2号病棟」と思われる。
自然地形としては東京23区内で一番の高さを誇る「愛宕山」。東側には低地と海が広がり、その眺望は江戸時代から明治時代にかけて、多数の錦絵や写真の題材となった。山上には江戸開府とともに「愛宕神社」が創建され、明治時代にはモダンな観光施設「愛宕館」「愛宕塔」が誕生、大正・昭和前期には日本の放送の礎を築いた「東京放送局」が作られるなど、時代の変化を象徴する場所であった。