土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
所有者不明土地問題とは
土地には、1筆の土地ごとに登記記録(登記簿)と呼ばれるものがあります。そして、通常であればその登記記録の中に所有者についての記載があり、それにより所有者が分かるようになっています。
しかし、諸般の事情により所有者が記載されていなかったり、記載があっても実際の所有者が分からなくなってしまっていることがあります。例えば、所有者となっている者が死亡しており、相続登記がされていないことで現在の所有者が分からなくなっているような場合です。現在の日本には、このような土地が多くあります。
「多く」とは具体的にどれだけか、といえば、所有者不明土地問題研究会(一般財団法人国土計画協会)の推計によると、2016年度の推計で約410万haに及ぶとのことです。これは九州の土地面積(約367万ha)を超える大きさです。
そして、これをこのまま放置すると、2040年には約720万haになると試算されています。これは北海道本島の土地面積(約780万ha)にせまる大きさとなります。
所有者不明土地の問題点
所有者不明土地には、大きく分けて2つの問題があります。
まず、土地の利活用ができないことです。例えば自治体が公共事業のために用地を取得したくても、誰のものか分からないので、交渉や取引ができません。所有者を探したり、その手続きをするにも、大きなコストがかかります。
また、土地が放置されることによる不都合があります。所有者不明土地は誰も管理をしませんので、雑木が生い茂ったり、ごみが不法投棄されたりします。害虫が発生することもあります。そうすると地域のイメージが低下し、周辺住民にも負の影響が生じてしまいます。
こうした経済的損失は、年間で1,800億円ほどになると試算されています(2016年時点)。今後所有者不明土地が増加し続ければ、2040年には年間で3,100億円にもなり、2017~2040年の累計で約6兆円に及ぶことが見込まれています。これは数値化できるものだけを集計した結果ですから、数値化できない損失も含めるとさらに膨れ上がる可能性があるわけですね。
所有者不明土地の解消に向けて
こうした問題を解決するために、現在、各種法律の整備が進められています。平成30年には「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が、令和元年には「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」が、令和3年には「民法等の一部を改正する法律」「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」がそれぞれ成立しています。
これらによって、既にある所有者不明土地の利活用を促進するとともに、新たな所有者不明土地が発生するのを予防するわけです。もちろんこれだけで解決はしませんので、今後も様々な制度設計が必要となるでしょう。
土地家屋調査士に求められる役割
所有者不明土地問題は、土地家屋調査士にとっても身近な問題です。測量を依頼された土地の隣接地が所有者不明土地、というケースも日常的にあるからです。土地家屋調査士にとっては、土地の所有者を調査・探索することは業務において必須の能力ですから、これは問題解消に貢献する大きな力となりえます。
令和元年に、司法書士法及び土地家屋調査士法の一部が改正されましたが、その付帯決議においても、政府が格段の配慮をすべき事項として、以下の内容が盛り込まれています。
・ 空き家や所有者不明土地問題等の諸課題の解決に当たっては、司法書士及び土地家屋調査士の有する専門的知見や財産管理、筆界確定等についてのこれまでの実績に鑑み、その積極的な活用を図ること。
・ 司法書士及び土地家屋調査士の有する専門的知見を活用したADR手続により国民の権利擁護及び利便性の向上を図るため、引き続き、それらの手続の周知に努めること。
・ 土地家屋調査士の有する専門的知見やその保有する知識、情報等を広く活用することにより、法務局における登記所備付地図の整備を一層促進すること。
(第198回国会閣法第46号 附帯決議)
土地家屋調査士は、境界を明らかにする業務の専門家としてのみならず、所有者不明土地問題の解決に向けてもその能力を活かし、今後も国民生活の安定と向上に貢献していきます。