土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
登記簿の面積と建築確認申請面積との混同について
事例
「住宅を売却の際、相談した不動産会社から、私の建物が違法又は既存不適格建築物と言われてしまいました。びっくりして、先方に言われた通り、法務局に行って登記簿を調べてきました。不動産会社からは、土地の謄本に記載の地積と、建物の謄本に記載の床面積から算出すると、私の建物は建ぺい率がオーバーしてしまっており、違法又は既存不適格建築物かもしれないと言われ困っています。新築の際は、ハウスメーカーさんに依頼していますので、違法建築などもってのほかと思っています。どうしてこのようなことが起こるのでしょうか?一度、登記簿を見てもらえないでしょうか?」
紛らわしい不動産に関する用語について
とにかく、この種の内容による相談やトラブルが私の周りでとても多いです。「筆界」がテーマではありますが、根本的な問題は共通していますので今回はこの事例を挙げさせてもらいました。事例の内容は、一見すると「建ぺい率」や「違法建築」等に関する事例に見えますが、問題の根本はそこではありません。登記簿の面積と、建築確認申請の面積を混同してしまっていることが原因です。登記簿、すなわち不動産登記法によって規定されている「地積」や「床面積」という用語と、建築確認申請、すなわち建築基準法によって規定されている「敷地面積」や「建築面積」という用語の混同が問題なのです。本当にややこしいですね。
結論を先に言えば、「建ぺい率」を問題にするときは登記簿に記載されている情報で計算してはならないということです。建築基準法にある「建ぺい率」の計算方法に基づいて対応するべきです。事例のケースで言えば、登記簿に記載されている情報「地積」・「床面積」で考えてしまったのが問題であり、正しくは、建築確認申請に記載されている情報「敷地面積」・「建築面積」で計算し確認するべきでした。本当に紛らわしいと思います。紛らわしいからこそ、我々のような専門家が多数存在するのも納得できます。
土地の面積に関する情報でも、不動産登記法の「地積」という用語と、建築基準法の「敷地面積」という用語は、土地の何を測った面積なのか知る必要があります。今回のコラムでは、よくある勘違いの典型例である「登記簿の面積と建築確認申請の面積」のケースを参考に、それぞれの不動産に関する用語を整理してみたいと思います。
最初に、私のコラムのテーマは「土地の境界・筆界」なので、まずはそこに触れさせてください。「筆界」についてです。そもそも「筆界」という用語に定義付けはあるのか?もちろん、あります。その定義については、不動産登記法第123条第1号において規定されています。
不動産登記法
(定義)
第123条
この章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1.筆界 表題登記がある一筆の土地(以下単に「一筆の土地」という。)とこれに隣接する他の土地(表題登記がない土地を含む。以下同じ。)との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。
これが「筆界」という用語の定義です。当たり前のようなことを少し難しく書いている感じでしょうか。しかし、よく読んでみると、あることに気付きます。「表題登記がない土地」と「表題登記がない土地」との間においては、「筆界」は存在しないとも読み取れます。「表題登記がない土地」というと、例えば「赤道・里道」、「水路」などです。ということは、「赤道」と「水路」が互いに接する場合、その接する線は「筆界」ではないことになります。公図を見ると、なにか線があるのですが、それでも「筆界」ではありません。
また点間を結ぶ「直線」と言っているのだから、「曲線」の筆界は存在しないとも読み取れます。曲線に見えるのは、複数の点をたくさん打ってそれを「直線」で結び、結果として「曲線」に見えるというものです。これが「筆界」というものです。条文に基づいて、用語を整理すれば、はっきり認識でき、その一文から多くのことを読み取れます。ただし、解釈の違いなどで論争になってしまうほど深く踏み込み研究することは、学者の先生たちにお任せしたいと思います。
さて、事例の内容に戻り、不動産に関する用語の整理をしていきましょう。
私は土地家屋調査士であって、不動産登記法の専門家です。対して、建築基準法の専門家は建築士の先生方です。ですから、私は建築基準法に関することについては、それほど詳しくないので、法律の条文に沿って確認していきたいと思います。
まずは「建ぺい率」という用語について調べてみました。
建築基準法
(建ぺい率)
第53条
1.建築物の建築面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その建築面積の合計)の敷地面積に対する割合(以下「建ぺい率」という。)は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める数値を超えてはならない。
「建築面積」と「敷地面積」という用語が現れましたね。今度は、この二つの言葉に切り込んでいきます。
建築基準法施行令
第2条
次の各号に掲げる面積、高さ及び階数の算定方法は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1.敷地面積 敷地の水平投影面積による。ただし、建築基準法(以下「法」という。)第四十二条第二項、第三項又は第五項の規定によつて道路の境界線とみなされる線と道との間の部分の敷地は、算入しない。
2.建築面積 建築物(地階で地盤面上一メートル以下にある部分を除く。以下この号において同じ。)の外壁又はこれに代わる柱の中心線(軒、ひさし、はね出し縁その他これらに類するもので当該中心線から水平距離一メートル以上突き出たものがある場合においては、その端から水平距離一メートル後退した線)で囲まれた部分の水平投影面積による。ただし、国土交通大臣が高い開放性を有すると認めて指定する構造の建築物又はその部分については、その端から水平距離一メートル以内の部分の水平投影面積は、当該建築物の建築面積に算入しない。
今度は、事例のケースで紛らわしく混同してしまった、登記簿について。こちらは不動産登記法です。登記簿に記載されている面積「地積」について、法律の条文で確認してみます。
不動産登記法
(定義)
第2条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
19.地積 一筆の土地の面積であって、第三十四条第二項の法務省令で定めるものをいう。
第2条の条文にある通り、「地積」という用語は、さらに細かく法務省令で規定されていきます。条文のとおり「地積=一筆の土地の面積」、これだけで十分ですので、深く掘り下げていくことは省略させてください。ある土地の、境界で囲まれた全ての面積というニュアンスでしょうか。
それに対して「敷地面積」は、ある土地の全ての面積、とは明言しておりません。条文には「ただし、(中略)の規定によって道路の境界線とみなされる線と道との間の部分の敷地は、算入しない」とあります。これはセットバック部分や、都市計画道路部分のことです。「地積」ではセットバック部分も当然のように一筆の土地の面積ですから面積に含まれています。しかし「敷地面積」では除外しなければならないようです。ゆえに、「敷地面積」は必ずしも、ある土地の全体を示すものではないことがわかります。
続いて、建物の面積についてです。「建築面積」に関する条文についても、具体的に書かれていますね。軒やひさし部分で1mを超える場合は、その部分も面積に含めるということです。例えば、軒やひさし部分が1m20cm突き出している場合、20cmは建築面積に算入するということです。あと「建築面積」の特徴としては、玄関ポーチやバルコニーなども柱が存在すれば、その柱に囲まれる部分が例え外部に解放されていて壁がなかったとしても、「建築面積」に算入されます。
対して、登記簿にある建物の「床面積」は、基本的に外部に解放されているような、壁に囲まれていない部分を「床面積」として算入しません。これは不動産登記法に規定される、建物として認定されるための3つの要件の一つ「外気分断性」を原因とします。当然、軒やひさし、外部に解放されたベランダなどは床面積に算入しません。
まだまだ、細かい規定がたくさんありますが、それらを列挙させるまでもなく、「登記簿の面積と建築確認申請の面積」を混同させてしまうのは危険であることがわかります。
余談ですが、建築確認申請にも「床面積」という用語があります。登記簿にある「床面積」と比較して、両者の求積方法はおおむね一致しています。建築確認申請、登記ともに「床面積」は、壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平面積で、ピロティ・ポーチ・バルコニー・屋外廊下などは床面積に算入しません。
しかし、まれに建築確認申請の「床面積」と、登記の「床面積」が一致しないことがあります。この原因もやはり、建築基準法と不動産登記法の違い、すなわち求積方法の違いが原因です。「床面積」が相違してしまう主な原因は、デッドスペースやパイプスペース、一部周壁のない車庫、屋根のある屋外階段や廊下を、建築確認申請では「床面積」に算入するが、登記では「床面積」に算入しない傾向があります。専門的な話になりますが、登記の「床面積」では、建物内部の吹き抜け部分に関して、吹き抜けに接続する手すり階段部分を床面積から除外するというものがあります。除外する「手すり階段」というものが、具体的にどういうものか、多様なデザインの建物が多いことから、判断すること自体が難しいこともあります。以上のような理由から、登記の「床面積」は、建築確認申請の「床面積」と比較して、「床面積」が小さいことが多い傾向にあると思います。
最後に、事例の結論です。原因は登記簿面積(昭和40年頃測量)と、敷地面積(平成10年頃測量)が大きく相違していたからでした。どうやら登記簿面積がおかしいようだと、測量の依頼を頂きました。測量した結果、登記簿面積より実測面積の方が大きく、建ぺい率オーバーではありませんでした。ハウスメーカーさんは、敷地調査(測量等)したうえで、測量した面積に合わせて建物を設計し、建築確認申請をしたものと思われます。実際、登記簿面積は、「縄伸び」や古い測量が原因で、実際の面積と一致しないこともあるのが現状です。市役所の建築指導課等で建築計画概要書を取得すれば建ぺい率の計算の根拠となる敷地面積が確認できます。
ただし、ハウスメーカーさんの行う敷地調査では、通常、隣地との境界確認をおこないませんので、心配のかたは、信頼できる土地家屋調査士に依頼し、隣地から筆界確認書に署名・捺印を頂いて、地積更正登記をお願いすれば良いと思います。地積更正登記とは、土地の登記面積が実測面積と異なる場合に、登記簿の内容を実測面積に修正する登記です。
杭を残して、悔いを残さず!ありがとうございました。