土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
「公簿」と「現況」が合わない!②残地求積について
「残地」とは
土地を2筆に分筆する場合、片方の土地をしっかり求積し、残った部分を「残地」として簡易に求積することがありました。「残地」とは、残された土地部分、後回しにされた土地部分またはあやふやのままの土地部分といったイメージでしょうか。
「残地」は、法務局にある、比較的古い地積測量図の中に出てきます。具体的に言うと、土地を2筆に分筆する際は、地積測量図を作成して分筆登記を申請します。その地積測量図には、分筆後の2筆の土地の面積が求積されています。少し専門的な話になりますが、その2筆の求積について、一方の土地の求積はしっかりと計算しますが、もう一方の土地の求積はしっかりと求積せずに、もとの登記記録にある地積から単に片方のものを引き算しただけで求積したものがあります。単純に言えば、片方の土地だけしっかりと測量・求積した記載があり、残った土地「残地」はしっかりと測量・求積した記載がないということです。
すなわち「残地求積」とは、縄伸びしているかもしれない元の土地の公簿面積から、しっかりと測量・求積された片方の土地の面積を、一方的に引き算する求積方法のことをいいます。言葉で説明するのは難しいので、参考に以下の測量図を見てください。
片方だけは実測された面積ですが、残地の詳しい情報は後回しということです。「残地」の土地は、辺長距離も記載されていませんね。これでは境界標の位置特定はもちろん、現地復元性なんてもってのほかです。
「私の土地の地積測量図はあるのかな?」と思い、法務局に行ったところ、挿絵1の地積測量図を取得できたケースを考えてみましょう。私の土地が573番2の土地であれば、問題はありません。しかし私の土地が573番1の土地であれば、「残地」としての地積測量図があるのであって、573番1の土地の情報としては非常に不十分です。はっきり言えば、「残地」としての地積測量図があったところで、それは地積測量図がなかったと考えても良いくらいです。挿絵1の地積測量図データが法務局にあれば、法務局の職員さんは、「573番1の地積測量図はあります」と言うでしょう。しかし「残地」としての地積測量図であれば、法務局の職員さんは、「残地の地積測量図ですがいいですか」と言われるので、地積測量図は「ない」と考えたほうが賢いでしょう。売買の際の、重要事項説明書にも「地積測量図はあります」と書かれていても、「残地」としての地積測量図であれば、「ない」と考えて再測量をお願いするのが最善と思います。
「残地」について、昭和の先輩調査士たちに聞きますと、実際は全体をしっかり測量していたし、境界立会いもしていたという証言が多いのも事実です。片方だけ測量して、片方だけ境界立会いをして、残りは知らないというのは、今も昔も恐ろしいことですからね。しかし、法務局で「残地求積」の地積測量図がよろしいというのであれば、わざわざ全部の筆まで細かく記載することはないのかなと、そのような雰囲気で「残地求積」の地積測量図は主流になったと思います。
しかしこの、「残地求積」の地積測量図は、繰り返し行っていくと、だれが見てもおかしな地積測量図になっていきます。極端な例を挙げてみます。下のような細胞分裂を繰り返していく地積測量図の最終形態をよく見てください。
ある土地に分筆が3回も行われたケースです。挿絵2の60番の土地は、前回のコラムでお話ししたように縄伸びしている土地です。実際の面積より、小さい面積で登記されています。ここで、3回の分筆が数年おきに行われたとします。もちろん「残地求積」です。④の60番1の土地を見てください。この大きさの土地で、100㎡で登記されています。周りの土地の大きさと比べれば、いや、現地を歩いてみれば、100㎡でないのはすぐわかります。この手の異形ともいえる地積測量図は、いまだに法務局に数多くあります。ですから「公簿」と「現況」が合わない可能性がある場合、「残地」であるかどうかの確認をしてみてください。
平成17年の不動産登記法の改正で、「残地求積」の地積測量図は、特別な事情がない限り、認められなくなりました。ゆえに、分筆後の、両方の土地ともしっかりと測量・求積して地積測量図を作成することになりました。
杭を残して、悔いを残さず!ありがとうございました。