土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
ブロック塀の基礎が地中で越境していたら?
隣地との境界には、多くの場合、塀やフェンスが築造されます。
それ自体が目に見える形で越境していた場合は、両者間で覚書等を取り交わして解消したり、場合によっては取得時効が成立する、ということは以前にお伝えしました。
バックナンバー:2022年11月号「なぜ筆界と所有権界は分かれていくのか」
バックナンバー:2023年2月号「越境されても、撤去を請求できないことがある?」
今回は、目に見えないところで、つまり、地中で越境していた場合について触れてみたいと思います。
ブロック塀の設置方法は?
ブロック塀の設置方法は、大きく3通りに分かれます。
①境界をまたぐように設置する
②塀の面が境界に沿うように設置する
③塀の面を境界から少し離して設置する
①境界をまたぐように設置する
これは、ブロック塀が隣地所有者と共有になっている場合です(通常、境界は塀の中心と判断します)。共有ですので、越境の問題は起こりません。その意味では安心と言えなくもありません(ただし、造り替えなどを自由に行えないという別の問題はあります)。
②塀の面が境界に沿うように設置する
これは、ブロック塀がある土地の所有者(この図の場合は男性)の単独所有の場合です。
境界にピッタリですので、最も判断しやすい位置に設置されているといえます。
通常は基礎の方が少し張り出しているので、基礎の面が境界に沿うよう設置されていると判断されることが多いでしょう。
③塀の面を境界から少し離して設置する
本来の境界から若干距離を空けて、土地の内側に設置していることがあります。
越境しないように遠慮して設置したのかもしれません。
ただし、これは好ましくない設置方法といえます。
というのも、本来の境界の位置を誤認しやすく、隣地の所有者(この図でいえば女性)が境界を超えて男性の土地を利用できてしまうからです。
このまま放置していたら、男性は越境部分を女性に時効取得されてしまう可能性があります。
以上のことから、単独で境界標を設置する場合、最も好ましいのは②となります。
ただ、これも実は気を付けなければなりません。
一見越境していないようでいても、地下で越境していることがあるからです。
こういうことです。
女性側が境界のところを掘ってみたら、ブロックの基礎がせり出していることが判明した、ということはよくあります。
ブロックの基礎には「I形」「逆T形」「L形」などがあり、必ずしもまっすぐ埋まっているとは限らないわけです。
(ちなみに、I形でまっすぐ埋まっていたとしても、基礎ではなくブロックの面が境界になっていることで、張り出した基礎部分が越境していた、といったこともよくあります)
地中の越境で時効取得されることはあるのか
さて、以前もお伝えしましたが、民法には「長年にわたり他人の土地を占有し続けた場合、占有者はその土地を時効取得することができる」という規定があります。
占有開始の時点で越境の事実を知らなければ10年間、知っていても20年間で時効は成立します。
では、地中で10年間又は20年間越境していた場合、取得時効は成立するのでしょうか?
これは、できないものと考えられます。
民法の規定を改めて見てみましょう。
民法162条
1 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
この中の「公然」という言葉がキーワードです。
「公然」とは、大っぴらとか、誰でも見られる様を指します。
つまり、その状態が目に見えて分からなければなりません。
地中で越境していることは大っぴらとはいえませんので、要件を満たさないと考えられるのです。
そのため、もし越境の事実が判明した場合は、従来と同様、「越境の覚書」で対応することになるでしょう。
将来的に塀を築造しなおす際に解消するという約束をし、途中で所有者が変わった場合には、その新所有者へ申し送りすることを書き添えておく、という形ですね。
これが現実的な対応策かと思います。
「目に見えるものが真実とは限らない」とは、どこかのドラマのセリフみたいですが、目に見えない地中のことについても土地所有者は意識しなくてはならないわけですね。