土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
境界立会いはどのようなときにおこなうのか
事例
「土地境界立会いについてのお願い」という手紙が届きました。お隣の土地所有者から、測量の依頼を受けた業者から届けられたものです。再来週の月曜日、午前10時に境界立会いを行うから参加してほしいという趣旨のようです。また手紙には、「後日、境界についての争いを起こさないためにも、現地にて立会い、境界の確認をお願いしたいと思います。既設の境界標については、現地にて確認し、境界標の亡失しているところは新たに埋設したいと思います。なお、境界についての測量図等がございましたら、ぜひご持参され資料としてご教示ください」と書かれていました。
今まで、お隣さんとは境界の争いもなく円満にお付き合いしてきました。いまさら、なぜ土地境界立会いというものを行う必要があるのですか?参加しないと、何か問題でも起きますか?
今月のテーマは「境界立会い」になります。「境界立会い」は、まさに土地家屋調査士の専門とするところです。事例のようなケースの相談がよくあります。「境界立会いは大切なことなので、お隣さんとの関係もありますから、ぜひ参加して協力してあげてください」と言ってしまえば結論は簡単です。確かにその通りなのですが、これではネット上にありふれた普通の回答になってしまいます。ですから今回は、どのようなときに「境界立会い」を行うものなのか整理し、「境界立会い」を依頼する側から見た重要なこと、「境界立会い」の依頼を受ける側の心構えについてお話ししたいと思います。
「境界立会い」はどのようなときに行うのか
①所有地を売るために、正確な面積を確定する必要があるとき
②相続などで土地を分割するため、分筆登記を申請するとき
③ブロック塀などを正しく設置するため、境界を明確にする必要があるとき
④境界標が損壊してしまったため、正しい位置に境界標を復元するとき
「境界立会い」が求められる場合は、上記の4ケースがおおむね該当すると思います。建物を建築するときは、測量はしますが、「境界立会い」が求められるケースはそれほどありません。(狭あい道路や宅地開発など、建築の際に行政指導があって、②の分筆や、③の境界明示の必要性が生じる場合もあります)やはり、実務を行っている者としては、①の売買や②の分筆のケースがほとんどのような実感がします。③の境界明示や④の境界標復元などは、よほど境界について日ごろから意識されている方でなければ、「境界立会い」まで発展することはないと思います。
「境界立会い」を依頼する側から見た重要なこと
ふだんの生活ではまったく馴染みのない「境界立会い」です。しかし、土地の売買や、相続のときなど、突然に「境界立会い」が必要とされるときがあります。とくに、①の売買では、売買契約の成立条件として「土地面積の確定」「境界の確認」が提示されることが多く、「境界立会い」が不調になることで売買契約が不成立になる可能性があります。また②の分筆においては、法務局に分筆登記の申請をする際に、「境界の確認」が必須になるため、「境界立会い」が不調になることで分筆登記ができなくなります。これでは相続で土地を分割することはおろか、土地の一部を分筆し売却するということすらできなくなってしまいます。ここまでくると、かなり深刻な問題になってしまいます。
「境界立会い」が不調になる原因としては、土地の境界自体に問題があって、お隣の土地所有者との間で合意に至らない場合が一般的です。同じ不調でも、お隣の土地所有者と依頼する側がかなりの不仲であったり、お隣の土地所有者自体が行方不明であったりする場合は「境界立会い」どころか「立会い」にすらなりませんので厳しい状態に陥ります。これより先は、「境界立会い」に代わる法的な手段に訴えていくのが一般的です。筆界特定制度や訴訟などの方法があります。
「境界立会い」を依頼する側としては、①と②のケースの場合は特に、「境界立会い」が順調に行くかどうかが重要になってきます。通常、「境界立会い」はその境界の当事者お二人だけでなく、第三者の専門家(土地家屋調査士等)を含めて三者で行うのが一般的です。信頼できる第三者の専門家を選びたいですね。
④の境界標を復元することについての補足ではありますが、古くなった境界標を取り替えるとき、動いてしまった境界標を正しい位置に戻すときなどは、「境界立会い」を経て関係者が確認したのちに境界標を復元します。「境界立会い」を行わず、勝手に境界標を損壊、移動、除去を行うと刑法で罰せられることになります。
「境界立会い」の依頼を受ける側の心構え
「境界立会い」の依頼を受ける側からすれば、自分には関係ないと思いがちです。しかし、受ける側も、いつ土地所有者として「境界立会い」が必要になるかわかりません。前述したように依頼する側の土地所有者からすれば、「境界立会い」は非常に重要なものとなります。ゆえに、ぜひこの際に境界についての認識を深めよう、ここはひとつお隣さんのために協力してみよう、という心構えで対応して頂ければと切に思います。
しかし、現実にはそうではなく、依頼する側に配慮が足りなかったり、過去に近隣との人間関係のトラブルがあったりと、どちらかが感情的になってしまうことが良く見受けられます。先代同士のトラブルが起因となって、報復の連鎖といいますか、親子三代にわたって「境界立会い」が難航している現場もありました。そのような現場に限って、土地の境界には問題がなく、単に人間関係のトラブルが起因しているケースが多いです。
さて、実際に「境界立会い」に参加してみましょう。「境界立会い」に要する時間はおおむね10~15分くらいのイメージでしょうか。土地の境界に関する資料も持参し、十分に相手が信頼できれば、その資料を提示するのもよいでしょう。もし何か不安があれば、家族をもうひとり同伴させたり、信頼できる専門家(土地家屋調査士等)に来てもらったりするのも良いですね。
専門的な話しになりますが、このコラムを見ていただいている方であれば、ぜひ前回のコラムにあった「筆界と所有権界」を思い出してください。「境界立会い」では、まず以下の手順を想定してください。
1.筆界の確認をしましょう
2.所有権界の主張・証言しましょう
3.筆界に関する資料等(図面等)を相手方に求めましょう
4.確認の署名をした場合は、その証を残すため写しを求めましょう
「筆界」については土地家屋調査士などの専門家に、測量の成果や公図などの資料、現地の境界標をもとに説明してもらいましょう。境界標が動いていないか、過去の測量図と整合するか、これは測量をおこなった専門家にしかわかりません。境界標の位置を修正するなどの作業はこの段階で提案されます。臆せず、しっかりと質問し、納得いくまで対話をしましょう。「筆界」の位置を確認した後は、つづいて相手方とともに「所有権界」の位置を主張し、確認し合います。たとえば「このブロック塀はうちの敷地内にありますね」などと、具体的に「所有権界」の位置を示せればベストです。「筆界と所有権界」が一致していれば、この時点でかなりすっきりしていることでしょう。しかし、「筆界と所有権界」が一致していなければ、何とも言えない気持ちになっているはずです。「境界立会い」は、境界を土地所有者同士がお互いきちんと確認し、将来のトラブルを残さないためのものであります。よって、すっきりしない場合はしっかりとそのことを説明し、相手方と専門家に解決策を求めましょう。
相手方は「境界立会い」が行われ、境界が確認された証として署名を求めてくることでしょう。こちら側も貴重な時間を相手の為に提供しているのだから、「3.4.」の資料等写しをしっかり求めましょう。後日、将来のために残す資料として有益なものになるからです。
最後に余談ですが、境界杭の復元を行うとすれば費用がかかります。当然、依頼者へ費用を請求しますので、「境界立会い」の依頼を受ける側からすれば、とても良い条件で境界の確認ができることになります。さらに、「3.4.」の資料を手に入れることができればパーフェクトですね!
やはり、お互いの利益になり、安心ができ、何より不動産の価値も上がりますから、「境界立会い」にぜひ積極的に参加してください。参加しないと、もったいないですよ!
杭を残して、悔いを残さず!ありがとうございました。