土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
貸していただけの土地でも時効取得されてしまう?
長期間に渡り越境状態が続いていると、その部分は越境していた人が所有権を取得することができる。これを時効取得といいました。(参照:「なぜ筆界と所有権界は分かれていくのか」)
「ふむふむ、他人に越境されるのは良くないな。誰かが勝手に自分の敷地を使っていないか、しっかり見張っていなければ」
そう思いますよね。では、その他人が「勝手に使っている」のではなく、こちらの土地を「借りて使っている」場合にはどうなのでしょうか。その借主であるはずの人に、時効取得されてしまうことはあるのでしょうか。今回はそんなお話です
占有の性質が変わる?
こんな例を見てみましょう。
Aは、自分が所有する土地と建物について、Bに管理を委託した。
Bはその建物に住みながら管理を行っていたが、やがて死亡し、相続人であるCが土地と建物の占有を承継した。
Cは、その土地と建物はもともとBが所有していたものであり、自分が相続によって取得したと思い込んでいた。
それから20年が経った頃、AはCに対し、土地と建物は管理を委託していただけなので明け渡すよう伝えたが、Cは自分のものとして所有していたので時効取得が成立すると言って拒否した。
この場合、不動産はAとCどちらのものになるか。
これは、実際の判例(最判昭46.11.30)をモデルにしたものです(設定は少し変えています)。この判決において、最高裁は以下のようにいいました。
相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによつて占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも、相続人は民法一八五条にいう「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきである。
占有とは、所有権があるかどうかにかかわらず、その物を現実に支配している事実・状態をいいます。この判決をすごく簡単にいうと、相続人Cが「自分のものだ」と思ってその不動産の占有を開始したときは、そのときに「他人のものとして占有している状態」から「自分のものとして占有している状態」に性質が変わる、といっているのです。これを他主占有から自主占有への変更といいます。
時効取得の要件は、「所有の意思をもって」他人の物を占有することですから、この占有の性質の変更によって、それが満たされることになるのですね。つまり、Cは、この土地と建物を時効取得できる可能性があるのです(※ただし、Cは、外形的客観的に占有の性質が変わったことを立証する必要があります)。
Aからすると、管理を委託していただけなのに、不動産を時効によって失うことになってしまうわけですから、たまったものではないですよね。
お互いに相続が発生していたら要注意!
実は似たような例は意外に多くあります。例えば、隣地の人から、通路が狭いので土地の一部を使わせて欲しいと頼まれて貸していたところ、その人が亡くなり、相続人が自分の土地と勘違いして使っているような場合です。貸した側は「使わせてあげているだけ」と思っていても、隣地の相続人はそう思っていないことがあるのです。
また、貸している側も相続が発生していることがあります。すると相続人は、親が土地の一部を貸していたことを知りませんから、さらにその状態を放置することになってしまいます。合意書などを取り交わしていればよいのですが、口約束で貸していたりすると、気が付かないまま長い年月が経過することもあるのです。
自分の不動産は自分で守らなければなりません。年末年始などに両親に会った際は、「誰かに不動産を貸してそのままにしていたりしないよね?」と聞いてみるのもいいかもしれません。まさかの答えが返ってきたら…土地家屋調査士にご相談ください。