土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
陸地と海の境界線はどこで引く?
境界線というと、「土地」と「土地」との間に引かれる線をイメージされると思います。しかし、境界線には、「土地」と「水面」との間に引かれるものもあるのです。今回はそんなお話をしましょう。
日本の形は海との境界で決まっている
日本は島国ですよね。周囲を海に囲まれています。ということは、日本列島の形は、海との境界線によって作られているといえます。
しかし、ここで一つ疑問が湧きます。
陸地と海の境界線はどこで引くのか?
海には潮の満ち引きがありますから、その境界は常に動いています。潮位(海面の高さ)は、日本海側で0.4m程度、太平洋側で2m程度変わるそうです。九州の有明海では、最大6mもの干満が起こることがあるのだとか。
ここまで差があると、どこに境界線を引くべきか迷いますよね。では、実際のところ、陸地と海の境界線はどのように決められているのでしょうか?
答えは「満潮時」です。
つまり、一番水位が上がるところで、陸地と海の境界線は決められています。これを「海岸線」といいます。例えば、干潟のように、一時的に陸地のようになっていても、満潮時に海になる部分は海として扱うことになるわけですね。
(なお、干潮時における境界線は「低潮線」と呼び、領海や接続水域などを決める際の基線として使われます。これも大事な境界線の一つです)
登記実務上は、「潮の干満の差のある水面にあっては春分、秋分における満潮位を標準にして定める」とされています(昭31.11.10民甲2612号回答)。
なぜ春分、秋分なのでしょうか?春分、秋分のときは、地球に対して月と太陽が直線上に重なるので、月の引力と太陽の引力が合わさって、満潮位がいつもより高くなるからです。これを「大潮」と呼びます。
ただし、最高裁においては、「社会通念上、海水の表面が最高高潮面に達した時の水際線をもって海と陸地とが区別されている」(最判昭61.12.16)と判断しており、春分や秋分といった時期を特定していません。日本では、海上保安庁が全国の海岸に験潮所を設置して潮の満ち引きを観測しているので、最高裁は年間を通じて観測した「最高水面」を陸地と海の境界線と考えているようです。
いずれにしても、常時地上に露出していることが陸地(=登記ができる土地)の条件とされているわけですね。
陸地であった部分が海面下に没した場合はどうなる?
では、もともと陸地であった土地が、自然現象等の理由で海面下に沈んだ場合はどうなるでしょうか。
この場合、海面下には原則として私人の土地の所有権が成立しないものとされているため、沈んだ部分は滅失したものとして扱われます。
一筆の土地の一部が沈んだのであれば、土地の面積が減少したことによる「地積変更登記」を、土地の全部が沈んだのであれば、「土地滅失登記」を、それぞれ申請することになります。それによって、海と陸地の境界線の位置は変わるわけですね。
(なお、土地が海面下に没した経緯が天災等によるもので、かつその状態が一時的なものである場合には、私人の所有権は消滅しないとされています(昭36.11.9民甲2801号回答)。つまり、このときは、境界線は移動しません)
さて、登記実務上の取扱いは上記の通りなのですが、実は、確定的に常時海面下に沈んだ場合であっても、必ずしも土地の所有権は否定されないとする裁判所の見解があります。
先に挙げた昭和61年12月16日最高裁判決では以下のように述べられており、条件付きで海面下の土地の所有権を肯定しています。
私有の陸地が自然現象により海没した場合についても、当該海没地の所有権が当然に消滅する旨の立法は現行法上存しないから、当該海没地は、人による支配利用が可能でありかつ他の海面と区別しての認識が可能である限り、所有権の客体たる土地としての性格を失わないものと解するのが相当である。
(この他、下級審においても肯定する判決がいくつかあります(鹿児島地裁判昭51.3.31、名古屋地裁判昭51.4.28、名古屋高裁昭55.8.29))
この点は、登記実務と裁判所の見解に乖離がある部分ですね。
海であった部分が陸地になった場合はどうなる?
さて、次に、もともと海であった部分が陸地になった場合はどうなるでしょうか。
例えば、前回のコラムでもお伝えした、「海面が隆起した場合」が該当します。このときは、新たな土地が生じたものとして、その土地について「表題登記」をすることになります。これにより、陸地と海の新たな境界が誕生するわけですね。
また、海岸などに砂が堆積して「寄洲(よりす)」と呼ばれるものが発生した場合も、その部分は陸地になったものとして扱われます。ただしこの場合は、
① 「新たな土地が生じた」ものとして、国が「表題登記」を申請するのか
② 「海岸の土地が寄洲によって増えた」として、海岸の所有者が「地積変更登記」を申請するのか
について、裁判所と法務省で見解が異なっています。裁判所は①の立場を取り(大判明37.7.8)、法務省は②の立場を取っているようです(昭36.6.6民三459号回答)。どちらも陸地となる=海との境界線が変わる、という点においては同じなのですが、所有権の帰属については決着がついていないことになりますね。今後の議論が待たれるところです。
ということで、土地と水面との境界には、土地と土地の間とはまた違った課題があり、調べてみるとなかなか興味深いです。皆さんも海に行かれたときには、「どこが陸と海の境界かな?」と思って観察してみると面白いのではないでしょうか。