土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
土地の境界確認~正体不明の空地が存在するケース~
写真のように、宅地と宅地の間に、空地がありました。
土地の境界を確認するにあたって、まれに、このような正体不明の空地が存在するケースがあります。地下に水路があったり、通行のためだったり、それなりの用途があって、空地ができることがあります。しかし、写真の空地は、幅が20㎝から30㎝程度の空地で、ゴミがたまったり、夏場は雑草が生えたりと管理が大変そうです。さらに、通行と言っても、両側をフェンスで遮られ、猫一匹が通れる幅ですので、用途が何なのか全くわかりません。
結局、この空地は、測量と境界確認の結果、左側の土地の一部であることが判明しました。どうして、このような空地が発生したか、その一例を簡単に解説していきたいと思います。
簡単な概略図は下記の通りです。
一見すると、対象土地甲にはA・B・C・Dの各点に境界標が入っており、境界については何ら問題ないと思われました。空地を挟んで反対の対象土地乙にもE・Fの各点に境界標が入っており、境界についての同じく問題ないと思われました。しかし、この空地は一体何のためにあるのでしょうか。そして誰が所有者なのか?
その疑問を解決するための一番の方法は、測量と境界確認ですね。まず筆界を明確にさせることが先決です。
測量と境界確認の結果は、下記の概略図の通りです。
広範囲の測量を行い、資料などを検証した上で境界確認を行います。これで筆界点の確認ができました。筆界点の位置が、境界標(金属標A・B)の上にないことが判明しました。境界標(金属標A・B)は筆界線の方向を示していたようです。対象土地乙側の宅地も測量して検証しています。対象土地乙側にあるブロック塀は、筆界線に沿って設置されていたことがわかりました。
何故、筆界点(A’・B’)が、対象土地甲から見て、空地の向こう側にあるのか?冒頭の写真にあるブロック塀をよく見比べて下さい。下の方です。違いがわかりますか?ヒントは、この空地の土は、落ち葉などが、後から堆積してできた土だということです。
実は、写真の両ブロック塀の下部には土留めのための擁壁が設置されています。その擁壁が、左右のブロック塀で違うのです。右側のブロック塀(対象土地乙側)の下部にある土留め擁壁は垂直に施工できるRC擁壁です。対して、左側のブロック塀(対象土地甲側)の下部にある土留め擁壁は、斜めの角度で施工するおなじみの間知ブロック擁壁です。擁壁を組んでいるということは、昔この場所の地形が高低差のある土地であったことが推測できます。今は住宅が建っていますので、土を運んできて宅地を造成したのでしょう。一見すると、昔から平坦な地形であったと思ってしまいます。
さて、RC擁壁と間知ブロック擁壁との違いを、簡単に説明します。RC擁壁は垂直に設置することができ、強度も高い反面、設置費用が高めです。対して、間知ブロック擁壁は設置費用が安めですが、垂直に設置することが不可能なため、斜めの角度をつけて設置していきます。そのため有効な敷地が擁壁の面積に取られてしまうデメリットがあります。
さあ、ここまで説明して、やっと空地ができてしまった原因を解説できます。言葉で説明するのは難しいので以下の概略図で解説します。
以上のように、盛土をして宅地造成する場合に、強いて言えば擁壁などの工作物設置の際に、このような空地が発生してしまう場合があります。今回の問題は、境界標(金属標A・B)がしっかりと筆界点(A’・B’)に入っていなかったこと。そのために謎の空地が発生してしまった。境界標(金属標A・B)は間知ブロック擁壁上のブロック塀の天端に設置されていました。それは本来設置されるべき筆界点から30㎝ほど離れた位置でした。この境界標は「方向杭」と呼ばれるものです。私のコラム2017年11月号で解説した「方向杭」を参考にしてください。本来設置すべき筆界点に、境界標を設置するのにふさわしくない事情があって、それゆえ筆界点ではなく筆界線の方向を表示するための境界標のことです。
対象土地甲に住む人の立場になって考えると、自分の土地の境界標を確認するときは、容易に確認できる擁壁の天端に境界標があった方が便利です。たとえそれが「方向杭」であってもです。筆界点は擁壁の下部にありますから、この場合は上から覗き込むとか、下にある隣地の土地にまわりこんで目視するしかありません。はっきり言って、他人の土地に入り込んでまで境界標を確認するのは安易なことではありません。
今回の空地のケースは大変に珍しいケースではありますが、「方向杭」に関しては、それほど珍しいことではありません。また、傾斜面の土地が宅地造成により平坦な地形になった時など、大規模な土地の造成工事を行うと、造成工事前に存在した境界標は、土に埋没し不明になることや、損壊、亡失していることがよくあります。いずれにせよ、筆界を明らかにしていくことが解決への最善策でありますので、そのようなときは、土地家屋調査士にご相談いただければ幸いです。
杭を残して、悔いを残さず!ありがとうございました。