土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
既存の境界標はどれだけ信頼できる?
以前のコラム、「境界標はどの位置で測る?」でもご紹介しましたが、各境界標には、筆界点を明示するポイントがあります。
しかし、境界標があるからといって、そのポイントがいつも正しいわけではありません。
土地について改めて測量をした結果、境界標が示すポイントと、実際の境界点がズレることがあります。
さらに、境界標そのものが信頼できない、ということも、場合によってはありえます。
今回は、既存の境界標はどれだけ信頼できるのか、というテーマでお届けします。
いつ誰が設置したものかによって、信頼性は大きく異なる
境界標を設置するのに、何か特別な資格は必要なのでしょうか。
実は、不要です。
境界標はホームセンターでも売っていたりしますので、極論をいえば、誰でもそれを買ってきて、好きなところに設置する、なんてことができてしまうのです。
(当然ですが、隣地との境界近くに設置したらトラブルの元になるので、絶対にやらないでください)
したがって、「境界標がある」ことは、必ずしも筆界を示す根拠にはなりません。
いつ、誰が設置したかによって、信頼性は大きく異なります。
いつ設置したのか
境界標は、古いものでは大正時代から設置されています。
年月が経つほど、本来の位置から動いている可能性があります。
例えば、地殻変動や地震。
大きな地震があった場合、実に数メートル単位で動くことがあります。
東日本大震災においては、宮城県石巻市にある国の電子基準点「牡鹿」が、東南方向に5.3mも移動しました。
また、設置されている場所にも影響を受けます。
コンクリートやアスファルトで舗装された場所であれば動きにくいですが、土に埋めてある場所では、大雨が降った後などに動いてしまうことがあります。
そして、境界標は地面にあるばかりではありません。
ブロック塀などの上に設置されていることもあります。
その場合、劣化により塀が傾き、本来の位置からズレたりもします。
特に、高いところに設置されているほど大きく傾くため、乖離は大きくなります。
さらに、周辺の工事によって移動することもあります。
道路工事や建築工事などで重機が触れればすぐに動いてしまいますし、直接触れていなくとも、掘削による影響を受けます。
先日見た現場でも、20年ほど前に設置された境界標が、隣地の建物の工事により、本来の位置から数cm移動していました。
この他、昔は測量の精度が正確ではなかったため、最初から誤った位置に設置されていた、といったこともあります。
現在の測量技術で測り直してみたところ、正しい位置は別の場所だった、ということはよくあるのです。
誰が設置したのか
先ほどお伝えした通り、境界標は誰でもホームセンターなどで買うことができます。
したがって、設置者不明の境界標というのも中にはあります。
誰が設置したのかによって、その信頼性は大きく変わるのです。
例えば、土地所有者が独断で設置した場合、それは思い込みや、自分にとって有利な位置であることが多く、客観的な根拠に乏しいでしょう。
また、もともと設置されていた境界標が工事によって外れてしまい、工事業者が「なんとなく元あった場所に戻した」、ということもあります。
そうすると、全く正確なものではなくなってしまいます。
そのため、土地家屋調査士のような国家資格者が正確な測量の上で設置し、その後に手が加えられていない境界標のみが、信頼に足る境界標といえるでしょう。
では、どう見分ければよいのでしょうか。
登記所には各土地について地積測量図が備えられており、昭和52年10月以降に作成されたものであれば、境界標の表示が義務付けられています。
つまり、地積測量図に表示されており、新たに測量しても同じ位置に認められる境界標は、信頼できます。
また、地積測量図ではなくとも、土地家屋調査士の職印が押印された測量図面も同様です。
また、行政が設置した境界標であれば、その旨の表示が入っていますので、信頼性が担保されています。
(ただし、それでもズレが生じうることは、先ほどお伝えした通りです)
境界標があっても、測量は必要です
境界標の示すポイントが正しい筆界点とは限らないということは、境界標があったとしても、土地の売買や分筆等の際には、改めて測量が必要になるということです。
現在では機器も発達し、非常に正確な測量を行うことができるようになっています。
昔と今の結果にズレがあったとしても、それは決しておかしなことではなく、よくあることだと思ってください。
何かご不安なことがあれば、信頼のおける土地家屋調査士にご相談ください。