土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
地積測量図は土地家屋調査士以外でも作れる?
土地に関する登記を申請するときには、「地積測量図」が添付書面として求められることがあります。以下がその対象となる登記申請です。
・土地表題登記
・土地地積更正登記
・土地地積変更登記
・土地分筆登記
・土地分合筆登記
さて、この地積測量図は「一筆の土地の地積に関する測量の結果を明らかにする図面」と規定されています(不動産登記令2条3号)。では、一筆の土地の地積に関する測量の結果を明らかにできるのであれば、誰が作ってもよいのでしょうか。今回はこの点について書いてみたいと思います。
結論:作成できる資格者は土地家屋調査士のみです
ということで、引っ張ることもなくいきなり結論を書いてしまいましたが、地積測量図は土地家屋調査士しか作成できません。
同じく測量を専門とする資格として測量士がありますが、測量士は公共測量(国・公共団体が費用を負担・補助して実施する測量)を行う資格です。私人が所有する土地について、登記を目的とした測量を行うことはできません。
土地家屋調査士法68条には「土地家屋調査士ではない者は、不動産の表示に関する登記について必要な土地又は家屋に関する調査又は測量を行うことを業とすることができない」という旨の規定があります。つまり、登記申請において提供する地積測量図の作成を事業として行ってよいのは、土地家屋調査士のみなのです。
もし、測量士等が業として他人(官公署、個人を問わない。)の依頼を受けて不動産の表示に関する登記に必要な調査・測量をし、地積測量図を作成した場合は、この法律に抵触すると法務省が発表しています(昭和57年9月27日付法務省民三第6010号法務省民事局長回答)。
土地所有者本人でもダメなのか
では、業で行うのではなく、土地の所有者本人であればよいのではないか?という疑問がわきます。そもそも登記申請は、原則でいえば当事者が行うものです。土地家屋調査士はあくまで代理人なのですから、本人が測量を行い、地積測量図を作成するのであればできるのではないでしょうか。
ところがこれも無理があります。というのも、地積測量図が表す境界は所有権界ではなく、公法上の境界と呼ばれる「筆界」です。筆界は単に目に見える地物の通りに存在するわけではなく、数多くの資料を取り寄せて調査し、分析しなければ、位置を特定することはできません。それには経験に裏打ちされた知見と高い法律的素養が必要となり、無資格者が一朝一夕で判断できるものではありません。現地に境界標が設置してあるからといって、「ここを測ればいいんだね。簡単簡単♪」とはいかないのです。境界標がズレていることはよくあることですから。
参照「なぜ筆界と所有権界は分かれていくのか」
参照「既存の境界標はどれだけ信頼できる?」
そして、地積測量図はその精度が法定されています。誤差の限度内で測量を行うには、高精度な機器を用いて測量し、専門のソフトで製図しなければなりません。一般の人がメジャーなどを使って距離を測り、「だいたい10m20cmくらいかな!あとはボールペンで製図すればOK!」とはいかないのです。
法律上「境界のプロ」と認められているのは土地家屋調査士だけ
令和2年8月1日に、改正土地家屋調査士法が施行されました。その第1条には以下のように記載されています。
(土地家屋調査士の使命)
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もって国民生活の安定と向上に資することを使命とする。
土地家屋調査士は法律によって「境界(筆界)のプロ」として認定されているのです。つまり、境界にまつわる業務はそれだけ専門性が求められるものだということです。ということで、地積測量図の作成を必要とする登記の申請があった際は、その唯一の専門家である土地家屋調査士にお任せください。