土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
分筆が義務付けられる場合とは
一般の方には馴染みのない言葉かもしれませんが、土地家屋調査士が行う表示に関する登記には、大きく分けて「報告的登記」と「形成的登記」があります。
報告的登記とは、簡単にいえば「事実に基づく登記」です。例えば、新しく建物が建ったり、土地の利用目的が変わったりなど、主に不動産の物理的な現況に変化が生じた場合に、登記記録をそれに一致させる登記です。
この報告的登記には申請義務が課せられていまして、その変化が生じたときから1か月以内に申請しなければならないとされています。
一方、形成的登記とは、「所有者の意思に基づく登記」です。例えば、土地を合筆したいとか、建物を合併したいとか、所有者の意思によって登記記録上の不動産に変更を生じさせる登記です。
土地を持っている方であれば、「複数に分けて息子たちに譲渡しようかな」とか、「一部を売却しようかな」と考えたりすることがあるかもしれません。このときに行う分筆登記は、形成的登記に分類されます。
形成的登記は、所有者が自由に行えるものですので、申請義務はありません。登記官から「1か月以内に分筆してください」なんて言われたことはないですよね。
ところが、例外的に「分筆登記なのに申請義務が課せられるケース」があります。これを知らないと、いつの間にか義務に違反している、なんてことにもなりかねませんのでしっかり覚えておきましょう。
土地の一部について利用目的を変えた場合
例えば、自宅がある広い一筆の土地を想像してみてください。登記記録上の地目は「宅地」です。
さて、その土地の一画に、自家用車が数台停められる駐車場を設けたとしましょう。この場合、何かしなければならないことはあるでしょうか。
答えは、「ありません」。なぜかというと、この場合は駐車場部分も含めて全体が宅地として認定されるからです。
本来、駐車場として利用する土地は、「雑種地」です。ただし、地目というのは、「部分的にわずかな差異の存するときでも、土地全体としての状況を観察して定める」(不動産登記事務取扱手続準則68条)と規定されていますから、自家用車の駐車場として利用するのであれば、まとめて宅地として扱って構わないのです。
さて、そうして使っていた駐車場ですが、自家用車を手放したことをキッカケに、月極駐車場として貸し出すことにしました。
周囲に柵を設けて区画し、「さぁ、皆さん借りてください」と募集を開始したとします。さて、このときはどうなるでしょうか。
実は、駐車場は、垣根や柵等により判然と区画された場合は、「雑種地」として認定されます。しかも、自家用車ではなく、他人の車を停めることが目的になっていますので、この駐車場部分は自宅敷地から切り離して雑種地に変更しなければなりません。
地目の変更の登記は報告的登記とされていますから、1月以内の申請義務があります。そして、駐車場部分を切り離すためには分筆もしなければなりません。つまり、分筆の登記も含めて申請義務が課せられることになります。
つまり、この場合の分筆は、形成的登記(所有者の意思で自由に行える登記)ではなく、報告的登記(物理的現況に変更が生じたことによる登記)による分筆となります。専門的な言い方をすると、「一部地目変更・分筆」の登記といいます。
実は罰則がある報告的登記
報告的登記には1か月以内の申請が義務付けられているとお伝えしました。実は、この申請義務を果たさなかった場合、罰則があることをご存じでしょうか。
不動産登記法164条
申請をすべき義務がある者が、正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。
ということで、最大で10万円の支払いがありえます。つまり、上記のように、土地の一部について利用目的を変更した場合には、急いで分筆をしなければならないことになりますね。
測量をして、隣地の方に境界確認をお願いして、場合によっては行政との間で官民の境界確定まで行って…と考えると、すぐに着手しても1か月では終わらないことも予想されます。ルールを知らずに、1か月以上前に月極駐車場にしていた場合には、もはや手遅れとなってしまいます。
「え…私は10万円を支払わなければならないのでしょうか…」
と不安になる方も多いかもしれません。でもご安心ください。この罰則は、悪質な義務違反者に対する最終手段としてあるだけで、実際にはほぼ請求されることはありません。
登記所としては、現況が正しく登記記録に反映されている方が良いので、1か月以上過ぎていたとしても、登記を申請してくれるだけでありがたいのです。律儀に申請してくれた人に対して「10万円払え」と言ったら、二度と申請してくれなくなってしまいますからね。
ですから、もし土地の一部について利用目的を変更しているような場合には、遅れていても構わないので、しっかり登記を申請しましょう。なお、地目が変更したかどうかの判断は、一般の方ではなかなか難しいこともありますから、「この場合はどうなんだろう?」と思われた方は、お近くの土地家屋調査士までご相談ください。