土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
境界確定訴訟と筆界特定制度はどう違うのか
「土地の境界がハッキリしない」ときや、「隣地所有者がこちらの主張に同意しないので白黒つけたい」ときに使える制度として、「境界確定訴訟」と「筆界特定制度」があります。
どちらの制度も土地と土地の境界を明らかにするもので、名前も似ていますが、どのような違いがあるのでしょうか。今回はそんなお話です。
境界確定訴訟
まずは、境界確定訴訟について見ていきましょう。「訴訟」と名が付いていることからお分かりの通り、これは裁判で決着をつけるものです。取り扱っているところはもちろん裁判所です。
細かいことですが、こちらは「筆界」ではなく「境界」という言葉を使います。実際に取り扱うものは筆界なのですが、古くから「境界確定の訴え」と呼ばれていたので、実務上「境界」という言葉が使われています。
そして「確定」という文字に注目してください。境界が確定する、つまり、「確実に定まる」ということです。曖昧な結論には到達しません。仮に、裁判の中で決定的な証拠が出てこなくて、境界の位置について判断しようがなかったとしても、裁判所が境界を決めるのです。つまり、「新たに作る」ということです。
裁判所は、当事者の主張に拘束されず、独自に境界を確定させることができます。そのため、訴えを起こした者にとって不利な境界になることもありえます。旗色が悪いと感じたときには、相手方と和解して妥当な線に落ち着かせたくなるかもしれません。しかし、境界確定訴訟において、裁判上の和解で事件を終了させることはできません。確定させようとしている境界はあくまで「筆界(公法上の境界)」ですから、当事者間の合意で決めることはできないのです。そのため、和解できるのはあくまで所有権界のみとなり、訴えを所有権確認訴訟に変更して和解をするか、訴訟を取り下げて和解する、といった形になります。
そして、境界確定訴訟の場合、あくまで裁判ですから、判決が出るまでには数年かかります。費用も、土地の鑑定費用、裁判官・書記官の実地検証費用、弁護士費用など、大きな負担となります。土地所有者にとっては、必ずしも使い勝手の良い制度とはいえません。さらにいえば、最終的な判断を下すのが、必ずしも土地の境界について専門的知識を有しているわけではない裁判官という点も、問題の一つといえます。
そこで、新たな制度として、筆界特定制度が登場したわけです。
筆界特定制度
筆界特定は、平成18年に新たに創設された制度になります。上記の通り、境界確定訴訟は数々の課題を抱えていたので、それに代わる制度が求められたわけです。
筆界特定の事務を取り扱うのは法務局です。もともと筆界は行政の作用によって形成されるものですから、境界問題を判断する者としては裁判所よりも妥当性が高いといえるでしょう。
筆界特定制度は、境界確定訴訟が抱えていた問題をクリアする設計となっています。まず、申請から特定されるまでの期間は、地域によって差はありますが、だいたい6ヶ月~9ヶ月が標準とされています。これより長くかかる例もありますが、その多くが1年以内に特定されています。
また、費用も、土地の広さや評価額によって変動するものの、申請手数料と測量費用を合計しても100万円以下となることが一般的です(※土地家屋調査士の申請代理費用や測量費用は除きます)。
そして、最終的な判断を下すのは、図面を読み解いたり、現地の構造物について専門的な知見を持っている筆界特定登記官です。さらに、土地家屋調査士などで構成される筆界調査委員による意見を踏まえた上で結論を出すことになっていますので、より信頼できるといえるでしょう。
こうしてみると、筆界特定はいいことづくめに思えます。ただ、デメリットもあります。ここで再び文字に注目して頂きたいのですが、「確定」とは書かれていません。「特定」です。これの意味するところは何かというと、筆界特定は、あくまで「本来そこにあった筆界を明らかにするだけ」ということです。行政処分ではなく、筆界を形成する力を持ちません。したがって、仮に筆界特定をしたとしても、その後に境界確定訴訟が提起されて、別の位置に筆界が決まることもありうるのです。
(とはいえ、筆界特定がされた後に境界確定訴訟が提起された場合、筆界特定の結果が考慮されるので、異なる結果になることはかなり少ないようです。)
また、筆界特定の場合、調査を尽くしても、筆界の位置を特定できないこともあります(地図混乱地域など)。そのときは、筆界の位置の「範囲」が特定されるに留まるのです。境界確定訴訟のように、必ず筆界が決まるわけではないという点は、筆界特定のもつ弱点ともいえるでしょう。
いずれにしても大切なことは、事例に応じて適切な手段を取ることです。境界トラブルが生じたときには、境界の専門家、土地家屋調査士にご相談ください。