土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
登記に必要な筆界の認定方法が変わる!?
隣地の所有者がどこにいるのか分からない。あるいは共有者がいっぱいいる。そういった理由で、思うように登記ができないことが今まで多くありました。そこで、2022年10月からそのルールが見直されます。今回はそんなお話です。
何が問題だった?
例えば、売却などのために土地を2つに分けたいと考えたとします。このとき必要な登記を「分筆登記」といいます。この分筆登記の申請には地積測量図が添付情報とされていますので、測量を行い、隣地との境界を明確にしなければなりません。そこで、我々土地家屋調査士が「筆界確認書」という書面を作成し、隣地の方との間で取り交わして、申請時に提供することが一般的となっています。また、地域によっては、これに実印の押印と印鑑証明書の添付が必要とされることもあります。
しかし、近年、隣地の所有者が不明であったり、相続が発生して共有者が多数となっていることから、筆界確認書を得ることが困難なケースが増加していました。これによって登記の申請ができず、土地の取引を進めることができないという問題が起きていました。
こうした現状を鑑みて、法務省が筆界の運用を見直すことになりました。これは、2022年10月から全国の法務局で適用になります。ではどのように変わるのかを見ていきましょう。
3つの運用見直しポイント!
(1)「精度の高い地図がある場合等」は、筆界確認書が不要に
例えば、隣地が所有者不明土地であった場合、今までは筆界確認書を取ることはできませんでした。その場合、登記を諦めるか、筆界特定などで費用と時間をかけて筆界を明らかにするしかなかったのです。しかし、「精度の高い地図がある場合等」は、既に筆界が明確であるため、新たに筆界確認書を取得しなくてもよいことになりました。ただ、これはちょっと注意が必要なので、後述いたします。
(2)共有の土地は、現地に住んでいる人のみが確認すればよいことに
隣接地所有者が共有だった場合、今までは原則として共有者全員に筆界を確認してもらうことが必要でした。しかし、相続により共有者が多数になっている場合や、相続人がその土地に住んでいない場合には負担が過重になります。そこで今後は、共有者のうち現在その土地を占有している(住んでいる)人のみが確認すればよいことになりました。
(3)押印や印鑑証明書も不要に
従来、筆界確認書には押印が必要とされ、地域によってはそれが実印で、かつ、印鑑証明書まで求められることがありましたが、今後は全国的に押印も印鑑証明書も不要になりました。必要となるのは「自筆の署名」のみということになります。なお、印字された名前に認印を押印した場合(記名押印)であっても、調査士が本人であることを確認した旨を報告書に記載すれば可とされています。
ここまで見てきた限りでは、今後は筆界の認定がスムーズになりそうな気がしますね。ところが、先ほども書いた通り、実はそこまで簡単になったわけではないのです。その点についても触れておきましょう。
ハードルが高い「精度の高い地図がある場合等」
(1)で述べた筆界確認書が不要な場合ですが、実はこれに該当するケースはそこまで多くありません。ここでいう「精度の高い」とは、簡単に言うと、「仮に筆界の位置が分からなくなっても、図面やその他の資料から筆界を復元することができる」ことを指します。これを「現地復元性がある」といいます。細かな事例を除けば、「現地復元性がある」場合とは、大きく分けて以下のいずれかです。(※市街地地域の場合)
①測量成果が記録されている14条1項地図があること
②平成17年3月7日以降に作成された地積測量図があること
③筆界特定図面があること
④現地復元性のある情報が記録された筆界確定訴訟の判決書の図面があること
これは意外とハードルが高いといえます。この中で、最も存在する可能性が高いのは②でしょう。しかし、仮にこの条件に合致した地積測量図があったとしても、現地に境界標がないときには筆界が明確であるとはいえないとされています。次に①ですが、これはまだ多くの地域で備え付けられていない現状があります。徐々に整備が進んでいるとはいえ、これに期待するのは時間がかかるでしょう。③と④に至っては、ごく僅かなケースでしか存在しません。よって、筆界確認書を提供しないでもよい場合はだいぶ限定されており、結局のところ、従来とあまり変わらない、ということになりそうです。
とはいえ、筆界確認書の作成要件が緩やかになり、取り扱いが全国的に統一されたことは、非常に喜ばしいことです。これまで要件が厳しかった地域では不動産取引が活発になることが予想されます。不動産を取り巻く情勢は時代によって変化しますので、今後も柔軟な見直しがされることを期待したいですね。
筆界の認定についてご不明な点がありましたら、専門家である土地家屋調査士にご相談ください。
※今回の法務省の運用見直しは、登記所への提供を目的として作成される筆界確認書を対象としたものであり、土地の売却などの際に任意で作成される立会証明書は含まれないことにご注意ください。