土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
共有土地の分筆登記、合筆登記のルールが変わりました!
2023年4月1日に、改正民法が施行されました。改正の内容はいくつかあるのですが、今回のコラムでは、それに伴う不動産登記事務の取扱いの変更についてお知らせしたいと思います。
分筆や合筆の登記の申請が、持分の過半数でよくなりました!
端的にいうと、今までは、共有土地について分筆登記(1筆の土地を複数に分ける登記)や合筆登記(複数の土地を1筆に合わせる登記)を申請しようと思った場合、共有者全員が申請人とならなければなりませんでしたが、今後は「持分の過半数の共有者」のみで申請できるようになりました。
例えば、Aさん、Bさん、Cさん(持分各3分の1)で共有している土地があり、この土地を分筆しようと思ったら、今まではABC全員が申請人にならなければならなかったのですが、今後はABのみで申請できるようになった、ということです。
ふぅん、そうなんですか。
申請しやすくなったのは分かるけど、そんなに大きな変化なんですか?
…という声もあろうかと思います。
ただ、これは非常に大きな変化といえるのです。
なぜなら、近年では、
・共有者が誰か分からない
・共有者がどこに住んでいるのか分からない
という土地が山ほど存在するからです。
(こういった土地を「所有者不明土地」といいます。また、情報が分からない共有者のことを「所在等不明共有者」といいます)
なぜこうした状況になってしまったかというと、もともと不動産登記の制度上、
①住所や氏名を変更しても登記を変更する義務がない
②相続が発生しても相続登記をする義務がない
からなのです。
例えば、登記上の土地の所有者が亡くなると、その土地は、実体上は複数の法定相続人が共有することになります。しかし、相続人はちゃんと調べてみないと、どこに誰がいるか分かりません(よくよく確認してみたところ、隠し子がいた…なんてこともあります)。
また、調査した結果、相続人の方も亡くなっていることがあります。すると、相続人のさらに相続人がその土地の共有者になっているわけです。ここまでくると、全ての相続人を特定するのは大変ですし、その人たちの意思を一致させて登記を申請するのは、さらに難しいことになるわけです。
そして、持分が1/100しかない人が見つからなかっただけでも登記は申請できないので、こうした土地の分筆登記や合筆登記は、困難を極めていたのです。
それがこの度、「持分の過半数」でできることになったので、共有者が分からなくなっていた所有者にとっては吉報といえるでしょう。
ただし注意点もあります!
よし!ではさっそく、土地の一部分を分筆して売却しよう!
と思われるかもしれません。でもちょっと待ってください。実は、過半数ではそこまではできないのです。
過半数でできるのは分筆や合筆まで。その後の売却は全員の同意が必要で、共有者が分からなければ、別途裁判上の手続が必要になってきます。なぜなら、分筆や合筆は軽微変更行為(形や効用に大きな変更がないもの)に該当しますが、売却は純然たる変更行為(処分行為)だからです。
つまり、分筆までのハードルは下がっても、売却のハードルは依然として高いのです。
えぇー、それではあまり便利になってはいないのでは?
…と思われるかもしれませんが、その点についても、この度の改正で配慮されています。具体的には、所在等不明共有者の持分を他の共有者が買い取ったり、所在等不明共有者の持分ごと第三者に譲渡できる制度が新設されています。
ここは筆界に関するコラムですので、これらの制度について踏み込んで解説することは控えますが、政府としても、増え続ける所有者不明土地について頭を悩ませ、対策を考えているようです。
ちなみに全国の所有者不明土地の面積を合計すると、実に国土の24%にも及ぶそうです(令和2年度国土交通省調べ)。もはや一大社会問題と言っても過言ではないのですね。そのため、先ほどお伝えした
①住所や氏名を変更しても登記を変更する義務がない
②相続が発生しても相続登記をする義務がない
といったルールは改正されることが決定しています。
(①は令和8年4月までに、②は令和6年4月から義務化されます)
それでもまだまだ課題は山積みですので、今後も引き続きルールは見直されることになるでしょう。ひとまず、2023年4月はその一つの大きな節目となりましたので、もし皆さんの周りに今回の変更についてご存じない方がいらっしゃったら、ぜひ教えてあげてください。